第百十四姉「タスケテェェェ・・・」
「ムラサキ流奥義!BL撲滅拳!」
「「イッッッッッ~!」」
さきねぇがすごい速さでこちらに突撃し、俺とスレイの脛、いわゆる弁慶の泣き所に全力チョップを放ってきた。
クソいてぇ!
「ふっ、世の中の女性たち全員がBL好きだと思ったら大間違いよ!つーか、カツラ支部長といいスーといいクリボーといい、なんでヒロは男にばっかもてるのかしら?」
「知らねぇよ!痛ぇよ!俺が聞きてーよ!俺だって女の子にもてたぃ、わけじゃないよー?おれにはだいすきなむらさきおねえちゃんがいるからねー?おねえちゃんすきすきー!」
「もーまったくヒロはお姉ちゃんっこなんだからこいつめー!わたしもすきすきー!」
さきねぇの眼が一瞬にして細くなり第六天魔王モードになりそうだったので、猫なで声をだしてご機嫌をとる。
危なかった。もちろん俺が、じゃない。
さきねぇは俺に危害を加えることは基本的にない。(さっきのはBL撲滅拳はじゃれあいのようなものだ)
危なかったのは俺に近づこうとしている女たちが、だ。
あのまま放っておけば、ふと気づいたらマリーシアさんが謎の失踪を遂げている可能性もあった。
その時はきっとマリーシアさんの自室には血を拭いた後があり、掠れた血文字で『はんにんはあね』と書かれていたことだろう。
俺と腕を組んで姉愛光線を全方位に放っているさきねぇを微妙な顔で見ているスレイとリムルちゃん。
「あーっと、で、どうしたん?」
「・・・はっ!?そ、そうでした。ヒイロさんにちょっとご相談があって。」
「ほぅ?アルゼン最強の奪還屋と名高い私たちに依頼かしら?夢は見れたのかしら?」
「さきねぇ、俺以外わかんないからそれ。懐かしすぎ。ごめんスレイ続けて。」
???顔のスレイとリムルちゃんに続きを促す。
「は、はい。えっと、実はサツミモドキに噛まれてけっこう負傷者が多いんです。去年の比べてなぜか数が多くて。そこで、もしよかったらヒイロさんに回復をお願いできないかと・・・」
「あーポーション使うのももったいないもんね。でもそうすると俺の作業が終わんないしなー。」
「つーかあんなイモごときで怪我してんなよって感じなんですけど。」
さきねぇの発言もわからんでもないが、すでに噛まれてる俺には何も言えません。
「まぁまぁ。じゃあこうしよう。小型のやつにやられたやつは大して痛くないから我慢してくれ。中型にやられたらけっこう痛いだろうから、その人は格安で治療しよう。それでどう?」
「は、はい!ありがとうございます!」
スレイと話をしながらふとリムルちゃんの腕を見ると、噛み付かれた痕がいくつか。
俺の視線に気づいたリムルちゃんはさっと腕を後ろに回して隠すような動作をとる。
・・・ふむ。
「あーそうだスレイにリムルちゃん。どうせだから俺の≪聖杯水≫を飲んで休憩していくといい。」
「い、いいんですか?」「でも、お金・・・」
「いらんよ。親しい友人のスレイと、そのスレイの幼馴染(以上恋人未満)のリムルちゃんだからサービスです。」
「ありがとうございます!」「あ、ありがとうございます・・・(スレイのこと好きなのバレてる!なんという慧眼!)」
俺の≪聖杯水≫は傷口にぶっかけるだけじゃなく飲むだけでも回復効果があるからね。
スレイもほんとはこの子の回復をお願いしにきたんだろうな。
かわいい後輩たちの恋路を応援するのも先輩の役目。温かい目で見守ってやろう。
「「ありがとうございました!」」
「「「いいってことよ~。」」
手を振りながら持ち場に戻る二人。
「どう思う?」
「幼馴染という立場に甘えて何もせず、さらに照れ隠しに殴るとか負け組み確定ね。頭おかしいんじゃないかしら。好かれる要素ゼロで人気投票もケツでしょうね。」
「うわぁ辛辣ぅ・・・まぁ完全に同意だけど。自分以外のルートで輝いちゃうタイプのヒロインだよね。主人公の応援して、影で泣いちゃう系の。でもいざ攻略するとクソシナリオで興ざめするんだよね。もし相談でも受けたらちゃんと指摘してやろう。」
考え方が完全にエロゲー基準な姉弟だった。
その後はスイカ大の大きさの中型サツミモドキに噛まれた冒険者たちを回復してあげたり、さきねぇが怪力で大量のサツミモを一本釣りしたりしながらも、まったりと作業は進んでいった。
さすがに腰が痛くなってきたので、体操をして体の回復を図る。
その時。
「ラウルさんが食べられたー!」
どこからかそんな悲鳴が聞こえてきた。
たしかラウルってD級冒険者だったよな。イモ風情にD級冒険者が食われてんじゃねーよ全く情けない。
俺?俺はほら、D級成り立てだから。除外でしょ。若いし。
そう思いながら叫び声がした方に目をやる。
そこには。
郵便ポストくらいの大きさがある、巨大なサツミモに上半身をモグモグされている男の姿があった。
「「でけぇぇぇぇぇぇぇ!!」」
さきねぇと二人でハモってしまった。
え、何アレ!?でかすぎるだろ!むしろどうやってアレ掘り出したの!?
つーかあんな怪しい物体に近づくなよ!バカなの死ぬの!?
「ヒ、ヒイロさぁぁぁぁぁん!へぇぇぇぇぇるぷ!」
「い、今いくー!さきねぇも早く!」
「ぶわはははははは!なにあれ!でけぇ!死んじゃう!食べられてないけど私が死んじゃう!腹筋崩壊で!あはははははははは!」
「あーもうこいつは!」
お腹を抱えて跪き、地面をガンガン叩いているさきねぇを置いて巨大サツミモドキの元に駆けつける。
巨大サツミモドキは口をモグモグさせている。
大きな一つ目がギョロギョロしており、その目が『食事中なんだけど。何見てんだよ。』と語っている。
「ラ、ラウルさーん。生きてますかー?」
「タスケテェェェ・・・」
「「「「「「こわっ!!」」」」」
俺やスレイ含む周辺にいる冒険者たちが、ラウルさんの悲痛な救援要請に恐怖の声を上げる。
すげー怖いけど、スレイにかっこつけた手前、やるしかない!
「・・・これよりオペを始める!とりあえずこいつを思いっきり殴るから、もしラウルさんを吐き出したらすぐに救出してくれ!」
「「「「はい!」」」」
よーし、頼むぜスマート棍棒!俺の頼れる相棒よ!
バッター、振りかぶって・・・打ちました!
バコッ!
「イモグルンギャャァァァァァ!」「ウワァァァァァ!」
「うわ、あぶねぇ!」
巨大サツミモドキはよくわからない悲鳴を上げながら、咥えたラウルさんをブルンブルン振り回す!
危険なのでいったん距離を取る。
「くそ、次だ!ヤツの口を開けさせて、その隙にラウルさんを引っ張り出すぞ!」
「「「「はい!」」」」
ヤツは獲物をモグモグしている間は大人しいらしい。
その間に包囲を狭める。
「いくぞ!いち、にの!
「「「「「「さん!」」」」」」
四人でヤツの口を開けさせ、二人でラウルさんを引っ張る。
しかし。
「イタイイタイイタイ!」
ヤツの顎力は予想以上に強く、四人がかりでもほとんど口を開けさせることができなかった。
にも関わらずラウルさんを引っ張ったため、ヤツの牙がラウルさんに食い込んだようだ。
「撤収ぅ!」
俺のその掛け声とともにもう一度距離をとる冒険者たち。
「ど、どうしますヒイロさん!?」
「むぅ・・・困ったな。俺の≪円水斬≫ではラウルさんごと真っ二つにしちゃうしな・・・」
「・・・・・・タス・・・テェ・・・ェェ・・・」
「「「「「「「・・・・・・」」」」」」
ラウルさんの救援信号が、心なしか弱ってる気がする。
ジタバダしてた下半身も動きが見られなくなってきた。
早くしないと、異世界に来てから初の死者が出てしまう!
その時、一人の女神が天から舞い降りた!
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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