第百十姉「もぅ!おとうと、ぷんぷんだゾッ!」
俺達はいつものようにモーニングティータイムを楽しんでいた。
するとノエルさんが『ちょうど、たったいま、ぐうぜん、たまたま思いつきました!』みたいな顔で俺達に声をかける。
「アアー!ソウイエバー!二人とも、ちょっとギルドに用事があるんだが、一緒にいかないか。」
「ん?ええ、わかりました。お供します。」
「・・・なんか怪しい。」
「なん「ぎっくぅ!?」か、怪しいって・・・」
自分で『ぎっくぅ!?』なんて口に出す人、いるんだな。
ノエルさんを見ると目が泳ぎまくっている。
「・・・ま、まぁいいじゃないか!たまにはさ!ほら、すぐ用意してギルドにいくぞ!さぁ動いた動いた!」
「・・・はぁ。」「・・・は~い。」
これで俺達の誕生日とかなら『サプライズパーティーかー』とも思えるんだが。
まぁノエルさんが俺達に嫌な思いをさせるとは思えない。ここは従おう。
「よーし、今日は私が御者になるから、二人は馬車の中でゆっくり休むといい!」
「・・・わかりました。お願いします。」
そういわれて『いやいや、俺がやりますよ!』とはいえん。
馬車の中に入ると、ゴトゴトとゴーレム馬車が動き出した。
「何を企んでるのかしらあの美少幼女は。美しい処女、つまり私の血でお風呂を満たして若さを保つ儀式のイケニエにするのかしら。」
「怖いよ。どこの魔女列伝だよ。そしてその理論だと俺いらなくね?」
「確かに。私のように絶世のイケメンというわけではないしね。」
「おい。泣くぞ。いいのか。ほんとに泣くぞ。」
「冗談よ冗談!お姉ちゃんにとっては世界最高の弟だから気にしないの!」
「もぅ!おとうと、ぷんぷんだゾッ!」
「キモっ!?いや、キモかわいいわ。そんな弟もお姉ちゃん、愛してるわ。」
「じゃあ俺の目をちゃんと見ながら話せ。」
結局、そんな感じでいつものようにいちゃついていた。
アルゼンに到着し、ギルドを目指す。
「お、ムラサキ様だ!」「きゃー!ムラサキ様ー!」「こっち向いてー!手を振ってー!」
さきねぇが笑顔で手を振ると、『今のは俺に手を振ったんだ!』『違うわよ!あたしよ!』という声が。
この前のスケルトン軍団が襲来しノエルさんが鎧袖一触に蹴散らした『絶対無敵!ハグンエンケンオー!』事件から、さきねぇのアルゼン人気がやばい。
結局何もしなかったとはいえ、アルゼンに縁もゆかりもないさきねぇが真っ先に先頭に立ちスケルトン軍団に立ち向かったという話が広まり、いまや知らないものはいないという人気っぷりだ。
おかげでファンクラブの加入申し込みが殺到したため、今現在加入受付を停止しているような状態である。
そのため、若いナンバー、特に一桁台の会員番号を持っている会員は羨望の的になっている。
ちなみに俺は『会員番号000(ナンバーゼロ)』だけどな!しかも会員証は純銀製!はっはっは!
そんなプチパレードの中、ギルドに入る。
・・・なんかいつもと雰囲気が違うな。
チラチラ見られてコソコソ話されてる感じ。
「何見てんのよぁあ!?」「ヒィ!見てません!」
どこぞのチンピラのように冒険者にからむさきねぇ。
早く先に進めないと被害は拡大する一方だなこりゃ。
「で、ノエルさん?一体ギルドに何用でござろうか?」
「あー、うん。まぁ、そのー、なんだ。こっち来てくれ。」
歯切れの悪いノエルさん。
不審に思いながらも後ろをついていく。
そして、たどり着いた場所は。
ここって・・・
「「支部長室?」」
「あぁ、とりあえず中に入るぞ。」
ノエルさんに促され、中に入る。
そこには。
「いらっしゃい、二人とも。」
「ようきたのぅ。」
「こんにちわ、ヒイロさんとムラサキさん。」
ラムサスさんにガルダのじーさまだけでなく、マリーシアさんもいる。
冒険者ギルドアルゼン支部のトップ2(+おまけ)が揃って何の用だろうか。
嫌な予感がする。
「えっと、なんの御用でしょうか?これからデートなので手短にお願いしたいんですけど。」
「じゃあ手短に。D級冒険者昇格おめでとう!」
「「・・・は?」」
え?D級昇格?なんで?試験とか審査とか一切受けてないけど。
「いやいやいやいや。おかしいでしょ。俺らまだ冒険者暦一年未満の新米ですよ?炊き立てご飯ですよ?そんな、D級なんて受け取れないっすよ~?」
「えーお姉ちゃんもうE級依頼受けるの飽きたー。」
「ちょっと黙って!」
まずいぞ。D級からは『護衛依頼』だの『盗賊討伐』みたいな危険かつ対人戦闘のものが出てくる。
魔物はいいとしても、人と殺しあう依頼なんかはまだ受けたくないんだが。心の準備出来てないっす。
「いやいや。この間のスケルトン五十体をたった三人で討伐した件もあるし、スケルトンの大軍に先陣を切って立ち向かった功績もある。D級になるには十分じゃよ。」
「いや、ガルダさん。あれは五人で戦ったんですよ。しかもヴォルフとカチュアさんはD級ですよ?たいしたことじゃ・・・」
「報告には『ヒイロがたった一人で半数を壊滅させ、残りをムラサキとヴォルフが片付け、カチュアとスレイは一度も戦わなかった』とあるがの?それともスレイが嘘をついておるとでも?」
「ぐ・・・」
スーレーイー!余計なことを・・・!まぁ『ホウレンソウ』を遵守することは良いことなんだけども!
「今までの功績に加え、今回の事件があってアルゼン支部の職員全員から『D級の資格あり』って判断されたんじゃよ。ワシもラムサス支部長も賛成じゃ。」
「で、でもこんなペーペーがD級になんてなったら反感を喰うんじゃないですか!?嫌ですよいじめとか!」
「いや、そこは心配せんでよい。というより冒険者からお前さん達に苦情がきとるんじゃよ。」
「ク、苦情!?どんなですか!?」
そ、そんな・・・そんなことがないように上手く立ち回ったはずだったのに。
どこでやらかしたんだ。
「まず『あれほどの冒険者をE級に留めておくなど、ギルドは一体何を考えているのか。ギルド職員としての素質を疑う』じゃな。」
「次に『街の住民にE級冒険者の実力=鈍器姉弟という間違ったイメージが蔓延しており、プレッシャーが半端ない。あいつらの真似とか無理。さっさと上にいってくれ』だね。」
「それと『依頼主に会いに行ったら、鈍器姉弟じゃないのか・・・と目に見えてがっかりされた挙句ため息をつかれた。わかってはいるが、ショックがでかい』とかもあるの。」
「わかったかい?総じて『早くあいつらをD級に昇格させろ!』ってことなんだよ。」
ガルダのじーさまとラムサスさんが俺に交互に言い聞かせる。
に、逃げ道は・・・逃げ道はないのか!?
最終兵器ノエルさんに目を向けるも、気まずそうに視線を逸らされる。
「今回ばかりはノエル様に頼っても無駄だよヒイロくん。これ、読んで。」
「? これは・・・?」
渡された紙にさきねぇと二人で目を通す。
そこには。
『冒険者ギルド決定通知書
E級冒険者ヒイロ・ウイヅキ、並びにE級冒険者ムラサキ・ウイヅキをD級冒険者と認める。
ギルド執行部役員 ガイゼル・バートン』
「なんですこれ?」
「これはギルドの決定通知書だよ。普通は降格処分に使われるものだから、昇格に使われることはかなり珍しいね。しかもE級からD級に昇格するために使われるなんて初めてじゃないかな?」
「こ、断ることは?」
「できるよ。ただし、ギルドの決定に逆らうってことは冒険者ギルドに敵対するってことになるけど。即追放。モグリは大変だよー?」
「ヒイロ、あきらめろ。それが出た以上どうしようもできん。」
「そ、そんな!」
「別に悪いことばかりじゃないぞ?それに強者が強さを隠し続けることには限界がある。ヒイロの謙虚は美徳だが、過ぎれば毒だぞ?素直に受け入れろ。」
「うぅ~・・・・・・はい、わかりました。」
もうD級とか展開早いよ!巻きすぎでしょ!?
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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