第百九姉 特別番外編『今日は何の日?』
クリスマス話書けたので投稿しちゃうゾ!徹夜したから眠いゾ!
おかしい。
絶対におかしい。
何がおかしいのかというと、私のかわいい義妹弟のヒイロとムラサキのことだ。
最近、私に隠れてなにかコソコソとやっているようなのだ。
しかも、さりげなく探りをいれるとすぐに話を逸らすか会話を脱線させる。
まぁそれは主にムラサキなんだが。
それはいい。
ムラサキの挙動が不審なことなど今に始まったことではない。
だが、そのムラサキの怪しい行動にヒイロまで加担している。
まぁそれもいい。
ヒイロはムラサキ命なので、危ないことはさせないだろう。
むしろヒイロがムラサキのそばにいないほうがどうなるかわからなくて怖い。
問題は、だ。
なぜそれを私に隠すのか、ということだ。
二人はもう冒険者だ。しかもアルゼンでも有数の戦闘力を持つ優秀な。
ムラサキは攻めに優れ、ヒイロは守りに優れる。
また、片方は直感的に危険に鼻が利く本能型であり、片方はよく考えてから動き出す慎重さを持つ理性型。
理想的なコンビといえよう。
なので、二人がこそこそ動いたとしても危険についてはさほど心配していない。
だが、気になる。
二人が私に隠し事をするなんて初めてのことだ。
特にヒイロは出かける前はいつも『今日はどこへいって何をする予定だ』と伝えるし、帰ってきたら『今日は誰と会ってこんな話をした』など報告(会話)を忘れない。
そのため私も安心して外に送り出せていたのだが・・・
「ちょっとでかけてきまーす!」「いってくりゅー!」
「今日はどこへいくんだ?」
「あー、えっと、ちょっと森のほうへいこうかなーなんて。」
「・・・そうか。気をつけてな。」
やはり怪しい。
二人の保護者として、何をしているのかを把握する必要がある。
私は絶影のローブを羽織り、静かに二人の尾行を開始した。
「これなんか素敵な感じがしていいんじゃない?」
「そうだね。これにしよっか。」
そう会話している二人の前には、ヒイロの身長ほどの一本の木が。
アレをどうする気だ?と思っていると、ムラサキが剣を一閃し、木を切断する。
あの剣の名前は『マサムネ』とかいったか。
所有者が武器に名前をつけるのは、実は珍しいことではない。
自分の命を預ける相棒なのだ。愛着はあって当然だろう。
まぁそんな話はどうでもいい。
ヒイロが木を魔法袋にしまい、こちらへ向かってくる。
私は一切の気配を絶ち、二人をやり過ごす。
ムラサキは異常な勘の良さをもつ。油断はできん。
・・・ふぅ、なんとか切り抜けたようだ。
このまま任務を継続する。
今度は街に入った。
この方向は・・・教会?アメリアのところか?
尾行すること十数分、やはり目的地は教会だ。
二人はアメリアと何かを話すと、さっき切り倒した木を取り出した。
そのまま三人で中に入っていく。
何をしようとしているのか、まったくわからん。
それからも市場を回ったり、ギルドに寄ったりと特に異常は見受けられない。
普通だ。
じつに普通だ。
が、逆に怪しい。だってヒイロだけならともかく、ムラサキが噛んでいるだぞ?
普通であるはずがない。
日も少しずつ落ち始めたとき、二人は街を出て帰宅するようだ。
私も帰るか。
二人が戻って少ししてから私も家に帰る。
「おお、二人とも、もう帰っていたか。」
「お帰りなさい。」「おー、エルエルおかー。」
ヒイロは料理を作っているが、ムラサキはなにかを後ろに隠し、すぐに部屋に戻っていった。
・・・やはり、何かを隠している。
そんな怪しい行動を数日繰り返していた二人だったが、ついに異常事態が起こった。
「あ、おはようございますノエルさん。」
「ああ、おはよう。ムラサキはまだ寝ているのか?まったくあいつは・・・」
「あーいや、さきねぇはもう出かけてます。」
「そうか、出かけ・・・出かけた!?ヒイロを置いて!?」
ムラサキがヒイロを置いてでかけることなんて今まで見たことがない!
こいつ、ヒイロの偽者か!?
・・・いや、違う。偽者ならば私が気づかないはずがない。
しかし、ヒイロとムラサキが別行動するというだけで不気味すぎるな。
「? どうしました?」
「いや、なんでもない。」
「とりあえず今日は家でゆっくり過ごしましょう。せっかくだから大掃除でもしますか!?」
「む・・・いや、どうせなら特訓しようか。ヒイロの腕がどれだけ上がったか見てやろう。」
「望むところです!」
ふむ、とりあえずヒイロに任せるか。
ムラサキならともかく、ヒイロのすることが私にとって害になるはずがない。
もし害になったとしても、それはヒイロの予期しない事態だろう。
そうなったら私が全力でその害を排除すればいいだけだ。
下の者が最大限の力を発揮して動ける環境を用意することが上に立つ者の務め。
好きにやらせてみよう。
特訓の後は昼食を取りつつ、二人で家事をする。
一人でやると味気ない掃除も、二人でするだけで楽しさすら感じてしまうから不思議なものだ。
私も昔は掃除がへたくそでよく仲間たちに笑われたものだが、今ではプロといっても過言ではない。
懐かしいな。
そうして少しずつ日も傾いてくる。
「さて、少し早いが夕飯の用意をしようか。ムラサキはいつごろ帰ってくるんだ?」
「あー、いえ、夕飯はアルゼンで取りましょう。予約してあります。」
「む、そうか。それでムラサキがいないのか。」
「あはは、まぁそんな感じです。じゃあそろそろいきましょうか!」
ヒイロに急かされ、ゴーレム馬車に乗りアルゼンを目指した。
アルぜンに到着し馬車を降りると、ヒイロが恭しく頭を下げる。
「ではお嬢様、私がエスコートさせていただきます。」
ヒイロがそんな気取った言葉を口にしながら手を差し出す。
「・・・ぷっ!似合わんな。」
「し、知ってますぅ!やってみたかっただけですぅ!」
「はははは、そんなに拗ねるな。ではエスコートしてもらおうか。」
ヒイロの手を取り馬車を降り、連れられ歩くこと十数分。
ここは・・・
「・・・教会?」
「ええ、ここです。入ってください。」
ヒイロに促され教会の扉を開く。
すると。
「「「「「「「「「「メリークリスマース!!!」」」」」」」」」」
「・・・・・・・・・は?」
そこにはムラサキやアメリア、ラムサスなど顔見知りが多く揃っていた。
さらには孤児院の子供たちまで。
なにがどうなってる?
「ふっふっふ。作戦成功ね!びっくりしたでしょ!」
「・・・いや、確かにびっくりしたが。どういうことだ?」
「いやーほんとはエルエルの誕生日とか祝ってあげたかったんだけど、エルエル誕生日忘れたとかいうじゃない?だったらクリスマスを仮誕生日にしようぜ!」
「・・・というさきねぇの発案です。ということで、クリスマスパーティー兼ノエルさんいつもありがとう会ってことで。」
「・・・・・・」
ヒイロが照れたように笑う。
教会の中を見渡すと、さまざまな飾り付けがしてある。
あの正面のツリーはこの間ムラサキが切っていた木か。
そうか。
私のために。
かつての仲間たちが亡くなって以来、クリスマスパーティーなど数十年は参加したことはない。
参加したいとも思わなかった。
だが。
「・・・・・・ありがとう。」
涙が出そうになった。
皆が私を置いて逝ってしまった後は、なぜ私だけ生き残っているのか真剣に考えたこともある。
だが、わかった気がする。
私は、ヒイロとムラサキ、この二人に会うために生まれて、今日まで生きてきたのかもしれない。
「ちょっとエルエル、めでたい席で泣くんじゃないわよ~まったくこれだから老婆は困る。」
「う、うるさい!泣いてない!というか老婆言うな!」
「「「「「「「「「「あははははははは!」」」」」」」」」」
そんなこんなで、最高のクリスマスを過ごしたのだった。
翌日。
ベッドで目を覚ますと、枕元に大きな靴下が置いてあり、中にはたくさんのキャンディーが詰まっていた。
やれやれ、そんな歳じゃないんだがな。
そう思いつつも、ウキウキした気分になってしまう。
我ながら単純だ。
今日はちょっと豪勢な朝食にしようかな。
「おはよう。二人とも。これ、ありがとうな。」
私は朝食を用意する傍ら、起きてきた二人に靴下に詰まったキャンディーを見せる。
「え、なんですそれ?」
「キャンディー?サンタさんからプレゼントもらったの?いい年して。」
まったく、こいつらときたら・・・
「ははは、そうだな。サンタからのプレゼントだな。ありがたくもらっておこう。ありがとうな。」
「いや、サンタからですから俺たちにお礼を言うのはおかしいですよ。」
「そういうことね。」
「はいはい、そういうことにしておくよ。」
こうして私は優しい義妹と義弟に囲まれて、幸せな毎日を送っている。
この何気ない暖かい日常こそ、本当の贈り物だよ。
ありがとう、二人とも。
「さきねぇやるじゃん。いつのまにプレゼントなんて用意したの?」
「え、あれヒロが用意したんじゃないの?」
「え、俺じゃないけど。」
「私でもないけど。」
「「・・・・・・」」
「・・・そもそも、寝てるノエルさんに気づかれずに寝室に入るとか無理だよね?」
「・・・絶対ドアを開けた瞬間にばれるわよね?」
「「・・・・・・・・・」」
「もしかして、本物?」
「異世界にも存在するの?」
「・・・とりあえず。」
「「サンタパねぇ!!」」
そんな姉弟の叫びの中。
どこからか『メリークリスマス』という声が聞こえたような気がした。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
この世界のクリスマスは『精霊王様生誕の日』として認識されている以外はほぼ地球と一緒(という設定)です。
最初は「サンタコスプレのムラサキさんとトナカイコスプレのヒロくんが知り合いにプレゼントを配って歩く」という内容を考えていたのですが、驚くほどネタが沸かなかったです・・・




