第百六姉「いや、あれは変態行動だからやめようね?」
「静かに。・・・いたわよ。」
さきねぇが岩場からこっそり奥を覗く。
そこには、大量のスケルトンがひしめいていたのだった。
「うわーなにあれ。理科室に置いてある骨格標本がいっぱい歩いてるよ。」
「もしかして、あれ全部学校に寄付すれば経費節約になるんじゃない?夜中といわずオールウェイズ動き回るけど。」
「異世界にかかったら七不思議も形無しだな!」
「「HAHAHAHAHAHAHAHA!」」
爆笑する俺達姉弟に『なにこいつらこわい』というような恐怖の視線を向ける三人。
「とりあえず数でも数えるか。いちにーさんしーごー・・・」
~以下省略~
「ふむ・・・大体五十体くらいか。」
「多いの?少ないの?」
「少なくとも、スケルトン五十体が群れてるとこなんて初めて見たな。」
D級冒険者のヴォルフがこういうんだ、やはり異常事態なんだろう。
「では会議を始めます。戦うか、報告に戻るか。」
「「戦う!」」「「戻りましょう!」」
脳筋組と真面目組で意見が分かれる。
「ふむ。スケルトンの弱点は?」
「大体人間と一緒だ。首を切断したり頭を砕いたり胴体を真っ二つにしたり・・・腕とか足を落としても意味ねぇな。」
「ふむ~ん。」
骨どもの位置は距離にしてここから100mくらいかね。
ちょうど俺達のすぐ横にちょっとした岩山もある。
骨は動きも早くないし、戦闘能力自体はE級魔物程度。
・・・いくか。
「やろう。殲滅するぞ。」
「ヒャッハー!汚物は消毒だぁー!」「おう!」「・・・わかりました。」「・・・大丈夫ですか?」
戦闘民族どもはノリ気だが、スレイは『俺の指示に絶対服従』という約束を守って賛成に回って、カチュアさんは消極的だ。
「大丈夫だと思うよ。ちゃんと考えもあるし。作戦は・・・」
内容は簡単だ。
俺が岩山に上り、≪水矢≫で遠距離攻撃をしまくる。
気づいて近づいてきた骨たちはさきねぇとヴォルフが迎撃。
スレイとカチュアさんの二人は、もしもの時のために馬車の付近で待機だ。
「では、やつらが近づいてくるまで待機しててね。ちょいと山登ってくるおー。」
「異世界に和製ゴ○ゴ13の力を見せてやりなさい!」
「いや、あの人そもそも日本人だからね?」
そんな会話を交わし、岩山を登り始める。
さきねぇと一緒にいれば、この程度のアスレチックは余裕なのだ!
数分で登りきる。まぁ岩山とはいっても三階建てのアパート程度の高さしかないしな。
「さて、と・・・いっちょやりますか。」
≪双水矢≫を創造し、構える。
「我が名は初月緋色。『千葉県の魔弾の射手』とは俺のことだ・・・狙い撃つぜ!」
二本の水矢を同時に放つ。
真っ直ぐに飛んで行き、二体のスケルトンの頭を砕く。
突然の奇襲に恐れることなくこちらに向かって動き出す骨たち。
なるほど、動揺も無く淡々と動くわけね。こりゃ手ごわいわ。
あくまで『普通の人が普通に戦ったら』の話だけどね。
「さぁ、どんどんいくよー!」
早歩きくらいの速さで近づいてくる骨たちの頭を狙撃でガンガン砕いていった。
「こらー!ヒロー!少しは残しなさい!暇でしょーが!」
「あいよー!じゃあもう降りるわー!」
五十体近くいた骨たちは俺のファイアーエ○ブレムばりの『遠距離からチマチマ削って経験値稼いじゃおう作戦』により、もう半分ほどになっていた。
「ぼるきち!どっちがいっぱい倒せるか勝負ね!よーいどん!」
「あ、ずっけぇぞてめぇ!」
さきねぇに続いてヴォルフが骨の群れに突撃していく。
・・・対照的な戦い方だな。
さきねぇは流れるような動きで骨どもの合間を走りぬけ、マサムネさんでガンガン首を落としていく。まるでダンスでも踊っているかのようだ。
一方のヴォルフは自慢の大剣を一振りすると、二、三体のスケルトンがバラバラになって吹き飛ぶ。
完全に無双やな。
タイトルをつけるなら、これぞまさしく『美女と野獣』だね。
「いやー化け物ですなあいつらは。怖い怖い。」
岩山を降り、呆然としているスレイとカチュアさんに声をかけると、ジト目で見られる。
「な、なに?」
「『自分は違う』みたいな感じで言ってますけど、ヒイロさんも大概ですからね?」
「魔法使いがすごいのか、ヒイロさんがすごいのか・・・多分後者なんでしょうね。さすがっす!」
「そ?」
そんな世間話をしていると、さきねぇとヴォルフが怒鳴りながら戻ってくる。
「私の方が多く倒した!」
「どうみても俺のほうが多かっただろうが!」
「まぁまぁ。結局今回の最多骨砕き賞は俺なんだから、そんなちっちゃいことで争うな争うな。」
「「ガルルルルルル!!」」
俺の言葉にぶちきれる二人。
めんどくさいなーもー。
「ヒイロさん。スケルトンの殲滅も終わりましたけど、どうしますか?」
「そうだね・・・他にもいる可能性はあるけど、一旦報告に戻ろう。もし仮に同じ規模の骨集団がいて夜中に奇襲でも受けたら面白くないしね。」
「お任せ~。」「異議なしだ。夜襲はさすがに勘弁だぜ。」「了解っす!」
戦闘馬車に乗り込み、アルゼンを目指す。
この調子でいけば夕暮れまでには戻れそうだな。
「しかし、五十体もいたスケルトンを三人で全滅させて、しかも無傷とか!さすがヒイロさんとムラサキさん!マジぱねぇっす!俺もいつかムラサキさんと一緒に魔物の群れに突撃したいっす!」
「いや、あれは変態行動だからやめようね?」
「つーか、なんでその『さすが』に俺の名前が含まれてねぇんだよ。」
後輩が脳筋にならないか心配になってきたぞ。
この時、少しでも周囲の見回りをしていけばよかったと、俺はすぐに後悔することになる。
「戻りましたー。」
「あ、ヒイロさん!ご無事で何よりです!ガルダ様ー!ヒイロさんたちが戻られましたー!」
ギルドに戻ると、マリーシアさんが駆け足でガルダのじーさまの元に飛んでいった。
そして、じーさまに調査報告をする。
「五十体ものスケルトンか・・・よく無事に帰ってきたの。」
「あれで全部かは不明です。夜襲の危険も考えて一度戻ってガルダさんの指示を仰ごうと思いまして。」
「良い判断じゃ。いくらおぬしらでも、夜中ではうまく戦えぬだろうしの。今日はゆっくり休め。また明日調査にでてもらうことになると思うでの。」
「わかりました。ではまた明日。」
ガルダのじーさまに報告を終え、皆に明日の調査のことを伝える。
スレイは自分の家に、俺たちはヴォルフの泊まっている宿に泊まり、明日の朝ギルドで集合することになった。
次の日の朝。
ヴォルフたちと四人で朝食を取っているとマリーシアさんが駆け込んできた。
なんか鬼気迫る顔してるな。何があった?
「ヒイロさん、大変です!ス、スケルトンの大群が街に!」
「は?」「え?」「な!?」「えぇ!?」
「く、詳しい説明はギルドで!早く来てください!」
「わかりました、すぐにいきます!みんな、いくよ!」
ギルドにつくと、中は騒然となっていた。
「ガルダさん!どういうことですか!?」
「きたか。実はの~・・・」
話を聞くと、早朝に荒野に出かけていた冒険者がスケルトンの大群を見かけたらしい。
しかも、最初は王国軍かと思ったほどのとてつもない数の。
現在アルゼンに向けて進行中であり、あと2、3時間もすればこちらに到着する見積もりのようだ。
「ど、どうするんですか?王国の援軍なんて間に合いませんよね?」
「・・・冒険者に緊急招集をかけて、ワシらでやるしかあるまい。」
その言葉に、集められた冒険者たちは一層の戸惑いと恐怖を見せる。
アルゼンにいる冒険者はほとんどがE級だ。それも仕方ないだろう。
「集められるだけの冒険者を集めよう。・・・どれだけ参加するかはわからんがな。」
「「「「「・・・・・・」」」」」
俺たちは、かなり危険な戦いになることを自覚せざるをえなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
ついに襲来した災厄!雲霞のような大軍を相手に、冒険者たちはどう立ち向かうのか?そして、初月姉弟の運命は?
次回!「黙れ小僧!!!」!
消されるな、この想い。忘れるな、我が痛み。
次で今章終わりますので、もう少しだけお付き合いくださると嬉しいです。




