第百二姉「冗談ですよ!マジで!冒険者ギルドの支部長を殺ったらお尋ね者ですよ!?考えなおしましょう!」
「まぁカツラ支部長がみんなの前で負けちゃったらかわいそうだしね?」
「その言葉、そっくりそのまま返すぞ小娘。」
仲悪いなこの人たち。
「ハンデとしていつもの武器使っていいよ。僕はこの訓練用の鉄剣使わせてもらうから。」
「そんな余裕で大丈夫?頭かち割っても文句言わない?」
「頭かち割られた時点で文句つけられる状態じゃないだろ・・・大丈夫さ。当たるはずないから。」
「ほぉ・・・後悔すんなよ?」
さきねぇが一瞬イラッとした顔をすると同時に、マサムネさんを取り出し構える。
あの姉、ハンデをあげることはあっても、もらうことはまずないからな。
狂姉の誇りを傷つけてしまったラムサスさん。これはもしかするともしかするんじゃ?
「では互いに、礼。」
「宜しくお願いします。」「よろしゃーす。」
「・・・ムラサキ、真面目にやれ。」
「えー、うちの世界ではけっこう普通よこれ?おなしゃす!とかあざーっす!とか。」
ノエルさんがチラッとこっちを見る。
「さきねぇ、せっかくラムサスさんが忙しいところを時間割いてくれてるんだから、ちゃんとやろ?」
「ちっ。お願いします・・・(ラムサス殺す)」
殺気をみなぎらせたさきねぇと、余裕綽々な態度のラムサスさん。
うちの姉相手にそんな油断してると、足元を掬われますよ?
「では・・・・・・・・・はじめ!」
「はぁ!」「ふっ!」
そして、二人の攻防が始まった!
それから数分たったが、俺は大いに勘違いをしていたらしい。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「もうおしまいかい?だらしないなぁ。よくそんなもんで二つ名なんて自称できたね。」
そこには、珍しく息の上がったさきねぇと、笑いながら平然としているラムサスさんの姿があった。
「あの、ノエルさん?ラムサスさん、めっちゃ強くありません?さきねぇの攻撃、カスってすらいませんけど。」
「まぁ当然だろう。私でさえラムサスと同じ武具使用・魔法使用不可の純粋な剣技のみの試合をしたら三回やって一回勝てるかどうかといったところだぞ?」
「え、そんなに強いんですか!?」
「言っただろう。『ムラサキは千回やって一回勝てるかどうか』だと。」
そんな会話の間も果敢に攻めるさきねぇだが、全ての剣撃を受け流されている。
そう、受け止めているのではなく、受け流されているのだ。
でなければ純ミスリル製のマサムネさんが、ただの鉄でできた剣を両断できないはずがない。
「全部流されてますね~。しかもたまに反撃でさきねぇに攻撃してるし。」
「ああ、攻撃しても当たらず、まるで風の相手にしているかのよう。そして剣が突然消え、いつのまにか敵を切り裂いている。ついた二つ名が『風影剣』だ。それなりに有名だぞ?」
「ほえ~。ほんとはすごい人だったんですねー。普段の姿を見てると全く想像付かないですけど。」
「まぁ今のムラサキが勝てる相手じゃないことは確かだな。」
「ちなみに、魔法ありで殺しあったらどうなります?」
「ん?私とラムサスか?当然私の万戦万勝だな。」
「ぱねぇ!」
ドヤ顔のノエルさん。やはり一日一回は見たいですね。
こんなかわいいノエルさんに引き換え、あっちは・・・
「オラオラァ!いつもの威勢はどうした!この俺に勝とうなんざ百年早いんだよ小娘ぇ!」
「黙れおやじ!遊んでやってんのよこっちは!」
「ならもっと真面目に遊べや!つまんねーんだよ!」
ヒートアップしすぎてめっちゃガラ悪くなっとるめっちゃガラ悪くなっとる。
正直お近づきになりたくない手合いだわ。
「なんかラムサスさん、人変わってません?」
「ん?あいつは昔からあんなもんだぞ?正直、最近のあいつの『僕』という言葉遣いを聞くと気持ちが悪くなるくらいだ。」
「はぁ。人に歴史ありですね~。」
戦っている二人に目を移すと、ラムサスさんの怒涛のラッシュに防戦一方のさきねぇの姿が映る。
そして。
キィィィィン!
さきねぇの持つマサムネさんが宙を舞った。
ふーどうなるかとドキドキしたが、フタを開けてみれば何の波乱もなくラムサスさんの勝ちか。
さきねぇですら手も足も出ないとか、異世界の壁は高く厚いなー。
そう思った俺は、やはり凡人なんだろう。
その証拠に、剣を飛ばされたはずのさきねぇの顔は笑顔だった。
それも、肉食獣が獲物に襲い掛かる前の獰猛な笑みだ。
そして、さきねぇが試合を開始してから最高最速の動きを見せる。
「ムラサキ流奥義!」
そう叫ぶと、一気に間合いを詰め、ラムサスさんの懐に入る!
まさか、この時、この瞬間のためだけに今まで動きをセーブしてたのか!?
そして!
「・・・白虎砲!」
さきねぇの踏み込んだ足が、まるで虎が咆哮したかのような轟音を立てると同時に、限界まで引き絞った右腕がまっすぐに伸び、渾身の掌底がラムサスさんの腹部に突き刺さる!
・・・あれって、もしかして通背拳じゃねーか?壁越しの相手を吹っ飛ばしたり、体の内部をぐちゃぐちゃにしたりする中国拳法の奥義に見た目クリソツなんですけど。
掌底を喰らったラムサスさんが数歩後ろに下がる。
「・・・マジ、かよ」
その言葉を発し、地面に崩れ落ちたのは。
しかし、攻撃をしかけたはずのさきねぇの方だった。
「さ、さきねぇ!」
「勝負あり、だな。ラムサスの勝ちだ。」
「ありがとうございます。」
俺はマッハ(個人の体感速度であり、実際の速度とは異なります)でさきねぇに近寄り回復魔法をかけようとした。
が。
「グアァァァァァ!グアァァァァァ!」
大いびきからの大・爆・睡!
目が点になっている俺にノエルさんが声をかける。
「心配するなヒイロ。単なる疲労と魔力切れだ。ムラサキのことだ、1時間もすれば目を覚ますだろう。」
「よ、よかった。動けないほどの大ダメージを食らったのかと・・・!」
「E級冒険者を動けないくらいボコボコにするほど鬼じゃないよ僕は。」
ラムサスさんも苦笑しながら近づいてきた。
「あ、ラムサスさん。なんか、いままで誤解してました。すごい強かったんですね!ビックリしました!尊敬しますよ!」
「え!?そ、そうかい?いやーあっはっは!このくらい朝飯前さ!どうだいヒイロくん、よかったらこの後ご飯でも「ノエルさんやっちゃってください。」
「死ね。」
「冗談ですよ!マジで!冒険者ギルドの支部長を殺ったらお尋ね者ですよ!?考えなおしましょう!」
「くだらん冗談はやめろ。お前は昔から空気が読めんからな、全く。」
「す、すいません・・・」
『う~ん』という声がして、さきねぇが寝返りをうつ。
「あぁもう!こんなところで寝返りなんてうったら汚れちゃうじゃん!すいませんノエルさん。ちょっと休ませてきます。」
「ああ、いってくるといい。」
「すぐそこの第三応接室を使うといい。誰もいないはずだから。」
「ありがとうございます!では!ほら、さきねぇ、いくよ!」
さきねぇを担ぎ、第三応接室を目指して訓練場を後にするのだった。
「・・・で?もう誰もいないぞ?」
「な、なんのことです?」
「・・・てぃ!」ぺちん!
「イっ~~~~!」
「やはりな。完全に流せたわけではないだろうと思っていたよ。」
「ば、ばれてましたか・・・」
「この私ですら、最後の一撃は目を見張ったからな。まさかあんな芸当ができるとは。」
「ムラサキのことだから最後に何かやるだろうとは思っていましたが・・・正直な話、私がムラサキのことを知っていなかったらやられていた可能性もありましたね。」
「一瞬とはいえ、A級に届きうる一撃だったからな。」
「ええ。ムラサキの才能を考慮して、無詠唱で火か風の強化魔法を発動させるか、距離をおいて火と風の強化魔法を同時に発動させるかは考えていましたが、まさかタイムラグなしの一瞬で同時強化とは・・・」
「一つ一つ使うならともかく、戦闘中に二つの強化魔法を溜め無しで同時に発動するなんて、私も生魔大戦時にやっと使いこなせるようになったレベルだったからな。末恐ろしい才能だ。」
「でもまぁ、なんとか元A級冒険者の面目躍如ですよ。イテテテ。うぉ、気持ちワル・・・」
「こんなところで吐くなよ・・・ヒイロを呼んで回復してもらうか?」
「せめてアメリアさんにしてください・・・こんな姿他の人に見られたら、情けなさ過ぎます。」
「あははははは!だろうな!」
俺達姉弟の知らないところでそんな会話があったとか。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ご意見、ご感想ありましたらよろしくお願いいたします。
第十一章はこれで終わりです。あまり長々とバトルやっても「コレジャナイ感」が半端なくなっちゃいますからね。まさかのラムサス無双!?と見せかけてムラサキお姉ちゃんアゲ回でした。
『白虎砲』は≪炎力強化≫と≪風速強化≫を同時使用し全力で掌底を叩き込む力技で、ゲームでよくある「白虎の力を借りてうんぬん~」ではなく「虎の気持ちになってガツンとやっちゃおうぜ!」という心意気です。がおーん!




