第十姉 「じゃあ二時間くらいお願いします!」
説明をちょくちょくいれてるせいで、最近あんまりいちゃいちゃしてない・・・もっとあほみたいにイチャつきたい
姉の目が、輝いている。
これ以上ないくらいに、だ。
キラキラと音が鳴ってもおかしくないほどに、姉の目が輝いていた。
「・・・あのな、さきねぇ。確かにそれも大事だけど、今聞かれてるのはそういうことじゃないと思うんだ、弟は。『元の世界に帰る方法を探したい』とか、『この世界での生活基盤を手に入れたい』とか。」
「何言ってんのよ?魔法を覚えるでしょ?→生活基盤が手に入るでしょ?→元の世界に帰る方法が見つかるでしょ?完璧じゃない。私は自分の頭脳が恐ろしい・・・」
俺もさきねぇの頭が恐ろしいという点については激しく同意だよ。
「魔法か・・・しかし魔法に関しては生まれ持った適正と素質、才能が必要なんだ。使える人間は少ない。『魔法を使いたい』といっても誰でも使えるわけでは「大丈夫!私は使える!」「さきねぇなら使えますよ。」
俺たちの声がノエルさんの話を遮る。
「・・・二人がなぜそんなに自信たっぷりなのか、その根拠を聞いてもいいか?」
「「だって「私だから!」「姉だから・・・」
さきねぇは当然でしょ!と言いたげな顔で。
俺はため息をつきながら。
その根拠を披露した。
「・・・・・・・・・そうか。」
ノエルさんは何も言うまいとした表情で、それだけ言った。
頭を切り替えるようにして言葉を続ける。
「まぁ魔法の適正を調べるのは悪くない。元の世界に帰る方法を探すにしろ、この世界で生きていくにしろ、力は必要だからな。もし魔法の適正を持っていて、かつ、扱えるようならそれに越したことはない。」
「え、魔法の適正をもってるのに扱えないことってあるんですか?」
俺は不思議に思い、そう聞いた。
てっきり適正を持っている人が少ないから魔法使いが少ないのかと思ったが。
「ああ、それに関しては後で説明しよう。ここでは測定できないしね。」
「わかりました。」
「じゃあじゃあ、次は私ね!やっぱ冒険者ギルドがあったり、魔物がいたりするの?」
そんな姉の言葉にノエルさんが驚く。
「ほぅ、なぜそれを知っている?以前会った異大陸人は存在すら知らなかったぞ?」
「おぉー、やっぱあんのか、ギルド。魔物も。腕が鳴るわね!」
むん!と力こぶをつくるお姉ちゃん。
なぜここまで強気なんだろう。
これで『魔法は使えません』『身体能力は地球と変わりません』とかだったらどうするつもりなのか。
「えっとですね、俺たちの国では、なんというか、空想小説?とでも呼べばいいんですかね。そういったものが流行っていまして。異世界に勇者として召還されて魔王を倒す旅に出る、みたいな。」
「なんと、魔王とはまた物騒な話だな!ふむ、つまり、おとぎ話みたいなものか?」
「それともまた違うんですよ。俺たちの世界には魔法もないし、魔物もいないんですけど、『世界のどこかにはそういう世界があって』みたいな空想をお話にしてるんです。」
ファンタジー世界の住人にファンタジーラノベの説明をするのはかなり難しいな。
すると、ノエルさんは少しの間、何かを考えるように目を閉じ、こう言った。
「つまりあれか。私たちが『もし魔物のいない平和な世界に生まれていたら~』という空想をすることと同じようなものか。それを本にしている、と。」
「そう!そういうことです。さすがノエルさん、理解が早い。その小説の中に『冒険者ギルドで依頼を受けて魔物退治を~』なんて話があったりするんですよ。その知識で。」
「なるほどな・・・ではひょっとしたらこの大陸に来た人間が元の世界に戻って、体験したことを本にしたのかもしれんな。そう考えれば戻る手段もあるのかもしれん!」
よかったな!という感じで笑顔を見せるノエルさん。
ええ天使や・・・
姉にもこのくらいの慎みや穏やかさがあってくれれば。
いや、そうすると俺の知っている愛しいお姉ちゃん様ではなくなってしまう。
やはりどんな無法者でも能天気でも超級のブラコンでもあれが一番なのだ。
ここに今一度、心に刻もう。
『姉、命』と。
改めてそんなことを思い、チラッと横を見ると、姉上様に抱き付かれた。
「んふふふふーもーヒロってばー。なーにー?」
そしてほっぺたにちゅーの嵐。
異世界に来てから最高得点に機嫌がいい。
姉センサーが俺からASA(姉へのすごい愛情)を感じ取ったらしい。
高性能すぎるだろ姉センサー。
もしや俺の脳内になんかのチップでも埋め込まれているんだろうか。
俺の思考は姉に全て筒抜けで、姉の掌で転がされているのでは?
そうはいっても心当たりはな・・・ありすぎるな。
まさか、知らぬ間に姉の操り人形になっていたとは。
ダメだな、ちゃんと自我を持たないと!姉の支配からの卒業だ!
でもよく考えると、姉の掌で転がされるのも悪くないな。
むしろいつもどおりの平常運転だ。
なら別にいっか。
そんなことを考えている間も姉の弟へのキス・ストームは絶賛吹き荒れている。
部屋にはちゅっちゅちゅっちゅという音だけが響いている。
「あ、あのー、もしアレだったら、少し席をはずそうか?耳もふさぐぞ?」
目の前のノエルさんの顔も(いつもとは違う意味で)真っ赤だ。
そして気の遣い方がおかしい。
「じゃあ二時間くらいお願いします!」
「「何をする気だ!」」
初めてノエルさんとハモッてしまった。
姉へのツッコミ役が増えると俺の負担が減るため、喜ばしいことだ。
しかし、同時に姉とのスキンシップが減るということでもあるため、非常に悩ましい問題でもあった。
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