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闇狩  作者: 月原みなみ
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誓い抱きし者達 序

 ――――――……


 私にはなにもできなかった。


 苦しむ兄を救うことも、兄を失って嘆く少女を殺してやることも、彼らのためになることを、私は何一つしてやれなかった。


 己の罪を認めようとしないばかりか、その罪を隠そうとする連中の傀儡と成果て、影主の位を手に一族の王となっても、私に許されたのはこの記述を未来の子に委ねるのみ。それすら万に一つの奇跡に縋るようなものだろう。一族がこのまま副総帥の子々孫々に監視され、闇と闇狩の歴史における真実は隠蔽され、影見の血筋が欺かれ続けるのならば、この記述は未来永劫、私以外の者の目に触れることはないのだから。


 それでも私は、奇跡を信じていたい。


 遠い未来、兄が抱いた感情を理解する影主が現れてくれることを、願わずにはいられないのだ。


『情』を知ることが罪だろうか。


 誰かを愛すは侮蔑される行為だろうか。


 たった一人の誰かを想い、その誰かを守るためなら死さえ厭わない、それほどまでに愛した人に生きて欲しいと願う気持ちが、存在していた時間までも抹消されねばならぬほどの大罪か。




 ……私には知りようもない、遠い未来でこの記述を目にしている影見の子よ。


 私はここに真実を記した。


 兄、影見綺也が『速水』を斬らなかった過去も罪だとするなら、一族の犯した罪を余すことなく書いたはずだ。


 これを、罪人と知りながらその者達の傀儡となるしかなかった私の懺悔と取ってくれるなら、最後に、どうか私の願いを聞き入れて欲しい。


 兄の死を知り、絶望から暴走し、時空の歪みに落ちて行方知れずとなった速水を救ってやってはくれないか。


 いつ、どの時代に消えたかは判らない。


 千年の未来か、幾千年の古かも知りようがない。


 だがそれでも、どんな手を使ってでも彼女を探し出し、救ってやってほしいのだ。


 こんな形で庇われるのならいっそ殺して欲しかったと泣き叫んだあの少女を、兄の想いを理解した影見の手で解放してやってもらいたい。


 速水の出生を知ったのなら、それがせめてもの一族の罪滅ぼしになるだろう―――……。



 ――速水を、救ってやってくれ……。

 金銀の指輪に導かれて“影主”の想いは今こそ五百年の時を超える……。




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