想い忘れえぬ者 二
「え…?」
小さな子供特有の音域の高い泣き声を確かに聞いて、行く当ても無くただ歩き続けていた岬は背後を振り返った。だが見渡す限り薄い靄がかかった世界に自分以外の気配は感じられず、岬は納得のいかないまま、結局は前へ前へと歩き続けた。
どこまで行っても靄は晴れず、子供の泣き声は彼を追う。
膝を抱え、小さな体を丸めて泣く少女の姿が容易に浮かんでくるほどの切ない泣き声。
一人、孤独の恐怖に耐え切れず泣くしか出来ない小さな少女は、決して訪れない救いを必死に願っていたのだろうか…。
「女の、子……?」
自分の呟きにハッとして足を止めた岬は同時に愕然とした。
なぜ自分はこの泣声が女の子のものだと確信しているのか。
自分は、いったいどこを目指して歩いていたのか……?
(俺……っ)
まるで空間を支配していた靄が岬の記憶をも覆っていたかのように、彼が自分の現実に目を向けた刹那、ただ果てしなく白かった世界に光が差し込んだ。泣声が遠退き、代わって激情を伴う力強い声が降って来る。
(あ……、河夕だ…)
雪子も、それに光の声も。
なぜか懐かしい人達の強張った表情が、彼らの声から伝わってくる。
そうして岬は自覚した。
(そっか……、俺、死んだんだ…)
無意識に自分の胸に触れて、岬は呟いた。
自ら突き立てた刃の痕は指先に触れなかったが、そこだけ異様に体温が低く感じられた。
そうするとここは死後の世界で、自分の向かう先は『あの世』だったような気もしてくる。
「俺…、死ねたんだ……」
言葉にして、岬はそっと表情を和らげた。
こうして自殺という形での別離を選んでしまったことを申し訳なく思う気持ちは確かにある。大好きな家族を悲しませ、あの気丈な幼馴染を泣かせもしただろう。だが、そうと判っていても、これは譲れない選択だった。
岬が死ねば是羅が死ぬ。
この方程式は岬だけが証明でき、かつ岬だけに解くことを許される現実だ。
「これで河夕や光さんが戦って傷つく必要なんかなくなる……、無関係な人達が巻き込まれて死ぬこともなくなるんだろ……?」
自分を好いてくれたばかりに犠牲になってしまった二人の少女達。
闇に憑かれたばかりに人生を狂わされた楠啓太や、それにあの岡山一太だって、きっと普通に生きていけたはずなのに。
「俺のせいで……、ごめんなさい、皆…」
知らず知らずのうちに流れた涙は頬を伝って靄の晴れた足元に落ちた。相変わらずの白い世界は、靄が晴れて光が差しても果てしなく白い空間に支配され、岬以外の存在は風さえ感じられない。このまま白に溶け込んで消えてしまっても構わないと思う。それでも形を保って存在しているのは、現実世界に在る仲間達の、慟哭ともとれる悲痛な声が彼を繋ぎとめているからだ。
そしていまだ周囲を取り巻く少女の泣声。
数日前に知り合った河夕の妹・有葉かと一瞬思ったが、にしては距離感がなさ過ぎる。河夕達と同様に上空から降って聞こえてくるのが本当なら、少女の泣声はここから聞こえてくるのだ。
「誰……?」
小さく問いかけた岬に、しばらくは何も返らなかった。
空気が乱れたのは、声の主を確かめるべく来た道を戻ろうとした拍子。
――羨ましい人……
少女の声が応えた。
自分とそう年齢の違わないだろう少女の声は、泣いている女の子と似ているようで異なるようでもある。
「君は誰?」
もう一度問いかけた岬に、少女は微かに笑ったようだった。
姿はない。
けれど抑揚の乏しい話し方、静かな息遣い、そういった聴覚に伝わる彼女の様子の変化から推察する。
――…誰だ、なんて聞かないで……私は貴方なのだから……
「俺…?」
――私は貴方…、貴方は私。ずっと一緒にいたのだから……
言われた内容を、からかわれているように感じて表情を曇らせる岬だったが、少女の笑い方があまりに切なくて、女の子の泣声がひどく悲しくて、口を噤む。
岬のそんな心境を察したのか、声だけの少女は静かに謝った。
――ごめんなさい……、私の我儘のせいで貴方に自ら死ぬことを選ばせてしまったのに、こんな言い方しか出来ないなんて……
「君は…」
――本当にごめんなさい…ごめんなさい……
少女の泣声が切なく響く。
女の子の苦しみが痛いくらいに伝わってくる。
この声の主は敵じゃないのだと、なぜかそう信じられた。
――ごめんなさい……
「あ、あの…」
謝り続ける少女に、岬は慌てて口を挟む。
「あのっ、俺には君の言ってることが全然わからない…、解らないけど、でもそんなふうに謝られるのは辛い…」
――…羨ましくも、優しい人…
少女の切ない声が初めて微笑ったようだった。
――私のせいで苦しめてしまったのに…、貴方はそう言って許してくれるの…?
「俺には、君が何をしたのか、本当に全然解らないから…」
白の虚空に向かって言葉を紡ぐ岬を、少女はどこから見つめているのか、岬の困惑の眼差しを受け止めて寂しげに笑う。
――解らないのね…だって貴方は本当に何も知らないもの…。何も知らないままこんな方法を選んでしまったんだもの……
「あの…」
岬はどう言えばいいのか判らずに戸惑い、どういうことなのか尋ねようとして相手の顔どころか名前さえ知らないことに気付く。
「あ、あの…、君の名前は……?」
――私の名前……?
少女は呟いて、そして沈黙。
次に静寂を破ったのは、驚くべきことに小さな小さな嗚咽だった。
「なっ…、どうしたの?!」
慌てて声をかけると、少女も急ぐように口を開く。
――いえ……いえ……
けれど涙は止まらない。
そう繰り返しながら泣き続ける。
名前を聞いただけで泣かれてしまい、岬は何か悪いことを聞いたのか判断することも出来ないままうろたえた。
「あの…、何かいけないことを聞いた…?」
――いいえ…違うのです…、違う…
「でも…」
――いいえ…私には…私には名前などないのです…
「名前がない…?」
――誰も名など呼んでくれなかった…、つけられた覚えもない……、誰も…、誰も私を必要となどしてくれなかったから…、母と言葉を交わすことさえなかった私に名など…
「そんな…っ」
少女の口から語られた内容に、岬は、自分のことでもないのに憤然として声を荒げた。
「そんなひどいこと…っ、お母さんと話したこともないなんて、話しかけてももらえなかったってことなのかっ?」
――怒らないで…、それも仕方のないこと…
「仕方なくなんかない! だってお母さんに名前もつけてもらえないで、話しかけてももらえないなんて! 君がどんなに寂しかったか…そんなのひどすぎるじゃないか!」
――仕方ないのです…私は望まれた子供ではなかったのだから…
「それでも!」
――私は母が不埒者に乱暴されて生まれた子…
「―っ?」
――…母は美しかった…、美しく弱かった…見知らぬ男に辱めを受け、募った恨みを是羅に見込まれて女帝となってしまった人…
「っ! 是羅?! 君のお母さんが女帝って…ってことは君のお母さんが速水だったのか?!」
――速水……?
速水と、少女がその名を口にした途端、白かった世界に微かな色がついた気がした。
ほんのりとした朱が空気を染め、弾むような気持ちが悲しい風を暖かくする。
――速水…懐かしい名前…
「懐かしい?」
――懐かしくも愛しい…、あの方が私に贈ってくれた宝物…
「え…?」
――速水は私。あの方が私にくれた最初の贈り物…それが私の名前…速水……
あまりに急な話に、岬は咄嗟に次の言葉が浮かばなかった。
是羅の魂を守る女、闇の女帝・速水。
岬が速水だから、岬が死ねば是羅が死ぬ―、それが真実ではなかったのか。
「君が速水……?」
それだけをようやく口にして呆然と虚空を見上げると、姿の見えない少女がうなずくのを気配だけで感じ取る。
――そう、速水は私。貴方は高城岬…、けれど私は貴方だから、貴方の死は是羅の死につながってしまう…
「ちょっ、ちょっと待って! それって…ううん、そうじゃなくて、君が速水って、じゃあ速水って……」
だんだん自分の言葉が支離滅裂になってきていると自覚しても、岬には適切な言葉を捜すことも口を閉ざすこともできなかった。
姿のない少女が語る内容はあまりに突飛で、理解の範囲を超えていて、どうしたってすぐに飲み込むことなどできなかった。
自分の中で整理するにも無理がある。
岬のそんな心境を察したのだろう。少女は小さく笑って続けた。
――私は、母が見知らぬ男から辱めを受けて生まれた子…、けれど是羅は、母の胎内に私が宿っているとは知らず弱かった母の憎悪を自らの盾にした…ここまでは解ってもらえますか…?
「う、うん」
――母は闇一族の女帝となって是羅の魂の守人となった。…是羅が女を闇一族の総帥とする理由は、聞いたことがあるでしょう…?
「えっと…愛した女性に赤ちゃんの代わりに魂を預けるんだって…光さんから」
――そうです。是羅は自らが殺戮を楽しむため戦の前線へと出向きますが、自分が死ぬのは恐ろしい…だから自分の魂を一族の最奥に隠す必要がある…、そのためにも総帥は隠し場所を持つ女性でなければならなかった…私の母もそのために選ばれたのです…
「お腹の中に君がいるとは知らなくて…?」
――…、母の胎内に隠された是羅の魂は、胎内に宿っていた子供…、この私と融合して外に出てしまった…
「っ、じゃあ君が是羅の魂を守っているのは…っ!」
――不可抗力と言ってしまっていいのか……、何も知らずに生まれた私は、生まれたときから是羅の盾であったのです…
「そんな…っ」
望んだ結果では決してなかった。
むしろ生まれてくることさえ望まれなかった。
女が気付いた時、お腹の子は堕ろすには成長しすぎていて、是羅は殺戮の遠征に出て不在であったことも災いし生まれてしまった女の子。
闇の王の魂を内に秘めた小さな小さな子供を、赤ん坊を生んだことを知られれば不要になった自分は殺されると判断した母親は迷わず捨てた。
自分の子だなんて思いはなかった。
闇に染まっていた彼女に、辱めを受けた証である子への愛情など欠片もありはしなかったのだ。
名前もなく、力もなく。
守られることもなく野に放たれた少女は死んでしまうのが本当だったろう。だが少女に継がれた是羅の魂がそれを許さなかった。少女は死に等しい孤独と恐怖の中で怯えながら成長していかざるをえなかった。
この遠く近い場所から聞こえる女の子の泣声はその頃の彼女。
一人、救いを求めて泣くしかなかった哀しい存在。
けれど願いは聞き届けられず、少女はすべてのものに拒まれた。
『彼』と出逢うあの日まで、少女は本当に独りきりだった。
――私は私を認めてほしかった…、厭われていると分かっていても母に振り向いてほしかった……、そのためには是羅と母が嫌う連中を殺すことが最も効果的だと…そう考えて私は闇狩一族の本部へと入り込んだ……
「たった一人で?」
――…きっと、今思えば死ぬつもりだったのです…。あの頃は自分でも是羅の魂を抱えていることなど知らなくて、孤独に耐えられなかった私は死なせてくれる場所を探していました。自分で自分を滅ぼすには母への想いが邪魔をして、楽にしてくれる誰かを探していたのだと…、けれど……、けれどそうして出逢ってしまった……
「出逢った…」
――一族の者に見つかったところを助けられ、命を救われたばかりか、あの方は私に優しく接してくださった…、怖がらなくていいと、もう大丈夫だと、頭を撫でられたのは初めてで…
「その人って…、誰だか聞いてもいい…?」
遠慮がちに問う岬に少女は小さく笑った。
照れたように笑って、優しい声音で『彼』の名を紡ぐ。
――影見綺也様…
「影見…?」
軽く目を見張る岬に少女は続けた。
――綺也様は当時の影主…、貴方の知る河夕様の血筋に連なる方…
「河夕の…、ずっと前のお祖父さんってこと…?」
――漆黒の髪に黒曜石の瞳…、今生の影主と綺也様はよく似てらっしゃった…、河夕様をお見かけしたとき、私はようやくあの方の傍に戻れたのだと錯覚して…
それきり少女は言葉を途切れさせた。
それはあの晩、金の指輪を悠久の時を越えて取り戻した夜の森でのこと。
岬の異変に気付いて彼を追って来た河夕を、自分を迎えに来てくれた恋人だと錯覚して口付けたことがある。
悪気があったわけではないけれど、河夕が明かさないことを自分が口にすべきではないと判断した少女は困ったように笑って岬を呼んだ。
――岬殿…、どうか誤解なさらないでください。速水の名は闇一族の女帝に与えられる称号ではないのです…速水は私の名…、あの方が、綺也様がつけてくださった、私だけの宝物…
「速水は君の名前…」
『速水』は少女の名前。
母親に厭われ、父親は女性を乱暴するような下衆。
是羅はその存在さえ知らず、そのくせ男の魂は少女に死さえ許さなかった。
苦しく、切なく、悲しく、ひもじく、それでも生きていなければならなかった哀れな少女は、十六歳のあの日、母親の愛情を求めて侵入した敵地で唯一の愛を知ってしまった。
自分が是羅の魂を抱えた身だとは知らぬまま、敵である闇狩一族の総帥影主に恋をした。
影主もまた彼女の想いを受け止め、独りきりだった少女の片翼になろうとした。
――あの方は…私を愛してくださったのです…『速水』は将来を誓う相手に贈ろうと思っていた名前だと…そう言って、私を速水と呼んでくださった……
運命だとか、天の導きだとか、惹かれ合った二人には関係のないことだったろう。
そのすぐ後に闇一族の女帝が捕らえられ、死滅したにもかかわらず是羅が生き続けたために速水の存在が明るみに出たその瞬間まで、二人は確かな幸せを手にしていた。
敵と味方、そんなものは彼らの知ったことではなく、ただ一緒にいられることが純粋に嬉しかった暖かな日々。
歯車が狂ったのは、少女を最後まで厭った母親が闇狩一族に討たれた刹那。
女は死んでなお少女の未来を、幸せを闇に葬り去ったのだ。
自分の愛した女が是羅の魂を守る者だと知って、闇狩一族の王はどれほどの絶望を見ただろう。
どれほどの悲しみに打ちひしがれたのか。
「速水さん…」
岬がぽつりとその名を呟くと、不意に正面の空間に光りの粒子が集い、人形を描き出す。
そうして形になった少女は、長い黒髪に白磁の肌。大きな丸い目を今は涙に潤ませた、十五、六歳の見目麗しい少女だった。
初めて見る姿。
けれど不思議と親近感があり、以前から知っていたような感覚が確かにある。
「その名を…ずっと呼んで頂きたかった……」
「速水…」
「あの方の隣に在って、あの方の優しい声と、暖かな笑顔と大きな想いに包まれながら生きていたかった…私が是羅の魂など持って生まれてこなければ…、ただの女として生まれてこれたなら叶ったでしょうか…私はあの方と生きていられたのでしょうか…」
岬は跪いて涙する少女の傍らに座り、細い肩に手を置いた。可哀想なくらい震えた体には衣服の上からも素肌に残る傷跡の感触を得られた。どんな辛い目にあってきたのかが言葉よりも鮮烈に伝わってくる。
この少女が背負った運命の残酷さ、許されなかった幸せと救いを求める強い願い。
突きつけられた残酷さに、岬はかけられる言葉を見つけられない。
「貴方には…本当に申し訳ないことをしてしまいました…。貴方の内に是羅の魂がある、それのみを貴方に知らしめることが闇狩一族を憎む是羅の企みであったとはいえ、貴方はご自分が仲間を裏切ったと思ってしまった…」
「……」
「私もそうでした…是羅を倒すのが影主の使命と聞かされ、そのために母を討たねばならないと聞かされて、それでも影主が私との未来を選んでくださったから私は母への思いを断ち切りました…、なのに影主が討つべき本当の敵は私…、私が死ねば是羅は難なく滅びると知らされて、私は…」
速水の表情が明らかに曇った。
苦しげに眉を寄せ、行き場のない強い怒りの炎が潤んだ瞳に浮かび上がる。
「私が…私が死ねばよかったのです…っ、そうすればあの方を失わずに済んだのだし、岬殿にこのような選択をさせずともすべてはあの時代で終わっていた…っ! あの方との約束を破ることになっても、私が是羅の魂ごと滅んでしまえば、あの方がご自分を犠牲にして是羅を封じることもなかったのに……っ!!」
「え……?」
少女の悲痛な叫びの中に思いがけない言葉を聞いて、岬も顔色を変えて聞き返す。
「影主の命が是羅の封印に……?」
「あっ…」
失言だったと、速水が気付くのは遅すぎた。
「影主の命があれば是羅は封印できるってこと?!」
「岬殿…」
今の彼の気持ちを、過去に同じ思いを抱えた速水は切ないほど分かっていた。
影主は−影見綺也は速水にそんな思いをさせまいと、最後まで真実を明かさずに彼女の隣にあり続けた。
魂を抱く女を殺さずとも是羅を滅ぼす方法を見つけた…、そう告げて彼女との最後の幸せな時間を慈しんだ。
「それ…河夕も知ってるの…?」
「…」
「河夕だって一族の王様なんだ…、きっと知ってる…」
「岬殿…」
「俺は河夕を守れたんだね……」
そうして速水が見たのは穏やかな笑みを浮かべる岬の姿。
自殺を選んだことを今こそ心から安堵するような、哀しい幸福。
けれどそれが是羅の魂を抱く、心優しい者達の選択。
愛しい人がいる岬と速水の共通の想い。
「…私も貴方と同じように、この身を自ら滅ぼせればよかった……」
「速水…」
「あの時代にすべてを終えていれば…、あの方にもう一度逢いたいなど、決して叶わぬ願いだと解っていたはずなのに…」
かつて是羅の魂を守った少女と、今このときに是羅の生死を握る少年。
二人は生きてきた環境も、闇狩一族の王への想いも、是羅に対する考え方もまったく異なる世界に存在しながら、今ここで不思議な感情を互いに通わせていた。
二人の気持ちが一つになろうとしていた。
「本当に…、本当にごめんなさい岬殿…けれど想いは捨てられなかった…、もう一度あの方に出逢いたかったのです…、どうしても綺也様を取り戻したかったのです……っ!!」
「もう謝らないでいいよ、速水…」
たった二人の白い世界。
いつしか幼い女の子の泣声は止み『速水』の涙が地に落ちる。
「同じなんだ…、俺も大事な人を守りたかった…、好きな人を失うことがどんなに辛いか、速水と一緒にいた俺には解ってたんだと思う。きっと、解ってた……」
「岬殿…」
「だからこれで良かったんだよ」
「っ……」
少女の頬に新たな涙の雫が落ちる。
傷ついた細い体を、岬はそっと抱きしめた。
白い、どこまでも白い世界。
穏やかな静寂はいつまでも二人を包んでいた――……。