大いなる海魔
正式始動の第一章。
人の探索が進んでいない危険な地域と云われれば、私ならばこの三カ所が思い浮かぶ。
一番に、薄い酸素に遮られた高山地帯。
二番に、零下の気温と絶望の白い大地の広がる南極。
そして、前人未踏の危険なアマゾン奥深くのジャングル。
どれもこれも危険この上極まりなく、探索が進んでいないが、それらよりも身近で、常に危険を孕んだ場所がある。
そう、どこまでも広がる母なる海だ。
地表の七割を覆う海の底には、まだ人の知り得ない事が大量に存在が眠っているだろう。
例えば、真の食物連鎖の頂点に立つ眠れる王。
例えば、数億年前に地球に飛来した神が建造した宮殿。
例えば、現代の人類にとって最大の敵である大いなる海魔の一族を封じ込める結界。
その我々を守っている結界が星辰の動きによって緩みだしているとしたら……そんな有り得なくもない想像をしてしまった。
私はこの文章を安全な地下のシェルターで書いているが、今この瞬間もカリカリと何かを削る音が響いている。
お願いだから誰か私を助けてくれ。監視カメラに写り込む蛙に近い魚人をどうにかしてくれ。
誰か私を、助けてくれ---
(ここから先は何かを書き殴られた後は残っているものの、とても解読ができる状態ではない。しかし、完全防水のシェルター内だというのに、海水に似た液体がノートに染み込み、数ページが破かれ持ち去られたもよう。)
※
音の響きにくい海の底に響くうなり声に似た声があった。
---いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん
---いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん
その声は徐々に大きく、数を増やしていく。
--いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん
--いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん
暗い海の底、人類の到達し得てはならない場所で彼らは声を高々に祈りを捧げる。
-いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん
-いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん
魚も、鯨も、海月も、海鼠さえも集まり、声を上げる。
いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん
いあ、いあ、くとぅるふ、ふたぐん
何時の間にか、私も声を振り上げ、こう言っていた。
いあ! いあ! くとぅるふ! ふたぐん!
いあ! いあ! くとぅるふ! ふたぐん!
そう、私も彼らの仲間だったのだ。
~提示された三カ所
何処も彼処もクトゥルフ由来の土地。
~安全なシェルター
それはフラグ。
~祈り
アナタモイッショニドウデスカ?