三話で漸く回りだす
扶桑が入ってきた途端に静かになりだす教室。
‐正体を知らないからこそ騒げる。
‐知らぬが仏のままに。
‐紅一点にして高嶺の花。
クラスの貴重な潤いの前で格好をつけたがる男子の典型例が大量にいる。
‐あっ……。
‐どうした?
‐こっちを見て微笑みやがったぞ。
‐周りからの視線をイヤと言うほど感じるな。
‐死線だな。
‐殺意を殺気に変えて来たな、さっきから。
/カニェッツ、巧くもない事を言うな。
※
授業過程をすっ飛ばして、今日出された明日提出のレポートを図書室に行って書き上げよう。
‐何についてのレポートだったっけ?
‐ラブクラフト御大の作品群から導かれる神話的生物に対する対処法で一番正しいと思われるものについて述べよ。
‐Q,どうすればいい?
‐A1,出会わないようにする。
‐A2,いやな気配がしたら関わらないようにする。
‐A3,諦める。
‐3だな。
‐3だ、これで完結する。
/カニェッツ、それができれば、誰も苦労しない。
※
図書室に移動して、纏めた考えからひたすらレポート制作中。
違う机には磯のにおいを発する制服を着た魚面集団が怪しげな言語で会話をしているが無視だ。
‐クトゥルフがどうとか言ってるな。
‐例え復活させても、寝てたのをたたき起こされた怒りと長年の空腹から食われて終わりだな。
‐失礼しましたとばかりにルルイエに帰って行きそうだ。
/カニェッツ、復活させたと云う事実が欲しいんだろ。
‐とどのつまりは愉快犯。
おい、あと半分で終わるんだ、余計な事を考えるな分割思考。
‐あ、誰か来た。
‐無視しろ。
‐イヤ、あれは……
「ねぇ伊勢くん。ちょっといいかな?」
‐扶桑アンリキター!
‐やべぇ、一番出会いたくないのが来やがった。
‐アンリたんペロペロ。
‐お、おちつくんだ、まずはどう対処するか考えるんだ。
‐今こそA2を実行するんだ。
‐ダメだ、もう話しかけられているから、関わりを持ってしまっている。
ブリャッディ! 最悪のビジョンしかうかばない。
‐逃げよう、切実に。
‐バカ、戦略的撤退と言え。
‐転進、開始します!
‐ッ! 何故だ、体が動かんぞ!
非常に残念な事だが、端から見れば軽く置く程度に、実際には折れない程度の力で肩を掴まれているから動けない。
‐く、肩パットさえあれば……!
/カニェッツ、あってもつけてこれないから意味がない。
‐せめてもの嫌がらせに嫌みに返答しておくべきだ。
「……何のようだ、扶桑さん。俺は今とてつもなく忙しいんだ。貴重なレポート制作の時間を無駄にしてもなお意味のある会話ならしてもいいのだが……、雑談程度ならあっちでやってきてくれ」
そう言って左手の親指を魚面の集団とは違う男子達の方を差す。
‐訳、あっちに行け。
‐男子達がざわめいてる。
‐アイドルのライブに集まるファンの集団みたいだ。
‐ファンクラブが地下組織としてあるらしいから、あながち間違っていない。
「何度も言ってるけど、私のことは『扶桑さん』じゃなくて、『アンリ』って呼んでって言ってるよね?」
「断じて断る」
‐即答かよ。
躊躇して利益に成らないのなら、する意味もない。
「ふ~ん、じゃあいや。せっかくレポートに役立つ情報があるのに」
「是非教えてください、アンリさん」
‐さっきより早いぞ。
‐プライドはないのか?
最後まで残った者勝ちなこの学校で、安っぽいプライドなんていらないのさ。
~※
場面替えの記号。
登場人物がまだ少ないので、まだかなり頻発する予定。
~レポート
学生の最大にして最強の敵。
大量に出されると本気で死にたくなり、終わる前に次のモノが出され事がある。
通称デスマーチ。
~微笑み
薄ら笑いとも。
してくる相手によっては殺意が沸く
~魚面の集団
魚とゴリラと人間を足して、二で割ったような連中。
強靭で大きな肉体に、人間離れした力を持つぞ。
必殺技は軽トラの追突にも匹敵する「十二ゲージショットガンキック」だ!
~プライド
軽いプライドなんて、ない方がいい。
本日のロシア語講座
~ブリャッディ
くそっ