修正液で全てを払拭し
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「良いかお前ら。耳の穴よーくかっぽじってききやがれ! 私の夢は世界征服、ハーレム作りだ」
新学年のクラスになって最初の自己紹介。ここで何を言うかにより、その者の一年間が決まるといっても過言ではないほどの重大なひと時。
そのトップバッターである相崎真由が発した言葉は、誰もが耳を疑いたくなるものであった。
空気が氷点下になり、全員の痛い視線が彼女へと注がれる。かなりの年を食っているであろう担任も、さすがに言葉を失っており蒼白とした表情を作り、頬の肉をひきつらせていた。
「ちなみに、この修正液で私の過去は消された! 中学生時代など詮索しないでくれたまえ」
机の上に置いていた、液体のそのまま入っている小さなボトルを高々と掲げる。
この相崎。黙っていれば相当な美人の部類であり、男女問わず好かれそうであった。しかしながら高笑いを続け、周囲を気にしていないその発言は、電波で頭のおかしい厨二病患者そのもの。
もれなくクラスメイトからはそういった認識がインプットされてしまう。
「皆何か勘違いをしているようだがな、逆ハ―ではない。男などという気持ちの悪い存在に囲まれるなど、想像しただけで嘔吐してしまう。それはそうと、無論女子の楽園だ! この私のハーレムに加わりたいという可愛子ちゃんは常に大募集だ」
ダン、と勢いよく机に足を上げ、
「まぁ手始めに、これを使って学校征服でもしようか。そこから世界征服へと踏み出――」
「あー……。相崎、もういいぞ座れ」
「なに、この下賤な豚目。だまれ、お前のようなオス豚などこの地球上から消えてしまえ。……いや、私が世界を征服し百合の楽園ハーレムを作り上げたあかつきには奴隷としてやるぞ。男など全滅させたいところなのだが、そうすると繁殖ができなくなり女子が生まれなくなるからな」
担任をののしりながら高らかに宣言し、睨む。
ますます冷え切るクラスの事など彼女は一切気にしない。
そしてあろう事か、ボトルのふたを開いて中身を彼に向ってぶちまけた。当然、ざわめきという名の波が一斉に広がる。
してやったと言わんばかりの顔をして、鼻で笑うと相崎は着席した。
スーツに白い染みができてしまった担任の頭に、見る見るうちに血が上っていく。
「お前はいったいなにを考えている!」
「え、ですから修正液を使って世界征服およびハーレム作りだと言っていますが」
怒号に対ししれっと彼女は答える。
電波少女、降臨。
/三題噺
・修正液
・世界征服
・ハーレム
より