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『シンデレラに転生したけど王子と結婚したくない』

シンデレラに転生したけど王子と結婚したくない

作者: 安和

王子様は出てきません。ご了承ください

むかしむかしある所に、それはそれは美しい娘が居ました。その娘は優しい父と美しい母と楽しく過ごしていましたが、ある時母が病気に倒れ、亡くなってしまいました。母を失った父は世界に絶望し、仕事も上手くいかなくなり、地位だけはあるがとても貧乏になってしまいました。その中でも健気に笑い手伝う娘に父は商家の娘と結婚しました。義母には娘より年上の二人の娘が居ました。当初は優しかったのですが、父が亡くなると同時に性格が豹変し、貴族の正当な跡継ぎである娘を使用人のように扱い始めました。そして、娘を名ではなく、灰かぶりと言う意味のシンデレラと呼ぶようになったのです。



「シンデレラ。床拭き終わったら、窓も拭いておいて頂戴」



 貧乏になった時に父の手伝いをしたといっても、貴族の娘であったシンデレラは意地悪な継母との生活にシンデレラは絶望して毎晩毎晩泣いて暮らして―――――



「お義母様。お義姉様達の部屋から埃が舞って来るのです。そこも掃除しても良いですか?」



――――――いませんでした。むしろ掃除させろと水が入ったバケツを持った状態で義母の方に詰め寄っていました。



「毎日毎日シッカリと掃除しているのに、綺麗になったと思ったら義姉様達の部屋から埃が舞い、廊下が汚れ、ねずみまで出てくる始末。掃除なさらないと言うのならば、私に掃除させてください」


「……貴方は本当に掃除が好きね。あの子達には言っておくわ」



 掃除魂をみせつけ、義母はその熱意に後ろに一歩下がりました。そして溜め息をついて、そう言って足早に去っていきました。義母は当初、正当な貴族の娘であるシンデレラを苛めようと掃除やら料理やら使用人のようなことをやらせました。ちやほやされていた立場から落として、出来ない事を笑ってやろうと思ったからです。しかし、シンデレラは掃除も料理も完璧でした。掃除に関してはこの家一番の綺麗好きで、拘りを持っていました。それが悔しかった義母は、


「お前は今日から使用人として暮らしなさい」


と言いました。そうするとシンデレラは


「判りました。しかし、お願いがあります」


と答えました。とうとう貴族の我が儘が出るのかと思い、それを断わればシンデレラの無残な姿が見れると思った義母は一笑して、いったい何かと聞きました。


「この家の掃除は、私にさせてください」


 それを聞いた義母は目を見開いて、シンデレラをまじまじと見つめました。シンデレラはいたって真剣でした。その状態を見た義母は


(この子は貴族の娘として普通じゃない)


 義母たちはその日を境に意地悪する事をやめ、シンデレラの事はほっとく事にしました。意地悪される事がなくなり、その代わり掃除中以外無関心というこれもまた酷い扱いをしました。そんな扱いを受けてなおシンデレラはその性格を変えることなく一生懸命働いていました。


 

 ある時、お城から王子様の生誕パーティの招待状が来ました。しかしその招待状は三枚しかありません。それも仕方がないでしょう、何せ王子様の婚約者を決めるパーティでもあるのですから、性格の悪い年増――――ゴホンっ、未亡人など数には入っていないのです。城など行った事がない義母はシンデレラに送られた招待状を寄越せと恐喝―――いえいえ、お願いをしました。今までシンデレラが反抗した事がないので、脅す必要などなかったはずですが、このときばかりは違います。お城からの招待状となれば、一部の人間しか行く事のできない特別なものです。御妃様に選ばれれば、子例所にない贅沢を味わう事ができます。この国の女性達の憧れの舞台です。それに漏れずシンデレラも行きたがり悔しそうな顔を―――


「わかりました。私はパーティには出席しません。お義母様、代わりに楽しんできてください。あ、お義姉様達の身なりを整えるのは私にやらせてください」


―――もちろんしませんでした。むしろ義姉達をそれはそれは綺麗に飾り付けました。そうしている間に時間になり、釈然としない義母と興奮して頬を赤く染めた義姉達は馬車に乗って城に向かいました。


 シンデレラは自分の部屋に戻り、ベットの前に膝をつきました。その肩はフルフルと震えていました。泣いているかと思いきや、


(いよっしゃーー!! 今日はもうここには誰もいないし、出て行ってもバレない!! あの陰気臭い義母達とはおさらばよ!!)


 と喜び、父が生きていた頃によく行っていた小さな小屋と、小さな畑がある場所に自分の荷物を持ってさっさと出て行きました。震えていたのは喜びで震えていたのでした。

 実はこの娘、所謂(いわゆる)転生者というもので前世の記憶を持っていたのです。



(あ~あ、この世に生を受けた時は幸せだと思ったのに、どうして『シンデレラ』の世界観で私がシンデレラなのよっ)


 娘は内心ぼやいていました。娘の知る『シンデレラ』のお話通りに進むのならば、自分が苛められる事を知っていました。娘は自分が苛められる事になるのが許せない性格だったので、苛められないようにおかしな行動に出る事にしました。いったい貴族の娘が自ら好んで掃除洗濯という家事をやりたがるでしょうか。それだけでも変なのに、昔からそこに仕えていた使用人がいれば、教えてもいない家事を完璧にこなす娘にドン引きになっていた事でしょう。幸いにも、昔働いていた人達はいませんでしたが。


 

森にある小さな小屋に着いたシンデレラはふぅと息をつきました。なんとも幸せそうな顔で。パーティやら舞踏会には興味がありますが、娘は結婚はしたくなかったのです。


(そもそも、出会ってその日に婚約者を決めるってのもどうよ。一目ぼれとかありえないし)


 今日はもう寝てしまおうと簡素なベットに横になったとき、部屋に風が吹いてそこには人が立っていました。



「誰っ!!」



 驚いたシンデレラは鋭くその人物に問いかけました。前世で剣道を嗜んでいたシンデレラは箒を構えてそちらを見ました。煙がなくなりその人物をはっきり見る事が可能になれば、その人物は黒いローブを着ていて、顔がわかりませんでした。



「可哀想にシンデレラ、そんなに怯えて。苛められて、逃げてきて、人を信じれなくなったんだね」



シンデレラからすれば見当違いな事を言ったローブの人間は、そう言うとフードを外して顔を露わにしました。そこに現れたのは長い銀の髪を背に流し、瞳も銀色な、顔が物凄く整った男の人でした。勘違いも甚だしい事を言った男をシンデレラは胡乱な目で見つめていましたが、顔を見た瞬間口をあんぐりと開け、なんとも間抜けな顔をしました。淑女とは思えない顔でした。シンデレラはハッとして自分を取り戻すと、箒を構えなおして麗しい男を睨みつけました。男はそれに悲しげな顔をつくると、



「そんなに警戒しないで、シンデレラ。僕は魔法使い。綺麗な貴女をパーティに連れて行ってあげるよ」



そう言って、シンデレラが否定の言葉を返す前に、使用人のお着せを着ていたシンデレラを華奢なドレスに着替えさせました。そして、小屋の外に馬車と馬を出現させました。


(えっ?! カボチャとかねずみとかシンデレラが用意するんじゃないの?! っていうか魔法使いといえばおばあさんでしょぉ!!)


シンデレラの内心のツッコミなど気付くはずなく、魔法使いは何所からかガラスの靴を取り出してシンデレラに履かせようとしました。



「さあ、シンデレラこれをお履き」


「あ、あのっ!」


「ん? どうしたんだい? そのドレスが気に入らないかい?」


「いえ、そんな事は……という事ではなくて、私はパーティには行きたくないのです!!」



見当違いな事ばかりする魔法使いにやっと本音を言えたシンデレラは、ホッと息をつきました。これでパーティに行かなくてすむと思いきや――――――



「心配しないでシンデレラ。貴女は美しい。王子も必ず貴女に惹かれるから」


(違うわ!!)



 行きたくない理由が、けなされ続けた容姿への不安と勘違いした魔法使い。慰めようとしたその言葉は遠慮深くストレートな褒め言葉がいえない日本での記憶があるシンデレラにとって薄ら寒さを感じさせました。


(気障っ!! ってかキモッ!! あ、顔はすっごくカッコいいけど)


ゾワゾワっと身体を震えさせたシンデレラは、心を落ち着かせる為に深呼吸しました。目の前の男を見ているとイライラした状態のまま殴りかかりそうだったので俯いたまま、もう一度言うことにしました。



「あの、本当に行きたくないのです。私はここで静かに暮らしたいのです」



そう言った後に何も言わない魔法使いにシンデレラは、やっと通じたのかと肩の力を抜きました。その様子が、泣くのを耐え、感情を殺しているように見え、魔法使いの哀愁を誘っていると気が付かぬまま。



「シンデレラ、我慢しないで。本当にしたいことをすれば―――――」


「さっきから行きたくねぇっつってんだろこの勘違い魔法使いが!!」



魔法使いの『我慢しないで』という言葉に抑えていた怒りが爆発し、持っていた箒で魔法使いを殴ってしまいまったシンデレラ。魔法使い、その一撃でノックダウン。


 はぁ、はぁ、と怒りで息が乱れたシンデレラは荷物を持って外に出て、森に向かって走り出しました。


(こんなところにいちゃ、あのバカにお城に連れて行かれちゃうっ)


その一心で、シンデレラは掛けて行きました。



「……その勇ましいところも素敵だ。シンデレラ……王子に渡すのは、惜しいな」



と魔法使いが頬を染めて見ていた事を知らずに。


「パンツの色は挑発的な黒――グホッ!!」


 そう呟いた時、その小屋の主人の心に反応するように、魔法使いに向かって棚が倒れていました。



 森の中を走っていたシンデレラは木にもたれかかるように座っていた。裸足で走ってきた為、草で足を切ってしまったのです。



「クソッ、あの魔法使いめ……」



 ボソッとシンデレラは呟きます。シンデレラがここまで結婚を嫌うのは、男性不信だからです。シンデレラは前世で、彼氏の浮気相手に逆恨みでナイフで殺されてしまったのです。浮気がわかった時点で別れようと言ったシンデレラを泣いて引きとめようとする男にすでにドン引きだったシンデレラにすれば、それの浮気相手に殺されてしまったとなれば致命的でしょう。ここが『シンデレラ』の世界で己が『シンデレラ』ならば、王子様と結婚しなくてはなりません。何が悲しくて競争相手の多い王子と結婚しなくてはならないのか。これこそ逆恨みは前よりも大きい。しかも妃となればいろいろ大変となります。静かにゆったりと暮らしたいシンデレラにとって、一番なりたくないものです。しかし、婚約者が決まらなくてはパーティの呼び出しも度々あるでしょう。ですからシンデレラは【ある程度綺麗】な義姉達を【誰もが振り返る美人】に仕立て送り出したのです。義姉達は王子様に憧れている。それなら王子の気持ちを掴んで来いと心の中で思ったのです。王子に見初められれば、義母達は恐らく家には帰ってこないだろうし、家にもお金が入り取り潰される事は無く、万々歳なのですから。なんとも他力本願で策士なシンデレラでしょうか。【純粋な掃除好きの変な娘】として義母達に認識されていたシンデレラですから、シンデレラがそんな事を考えているなどと、義母達は思いもしなかったでしょう。利用しているつもりで、利用されていたなんて。



 魔法使いに悪態をつきながら、息を整えていると、後ろに人の気配を感じました。魔法使いが追いかけてきたのかと警戒すると、それとは違う穏やかな声が聞こえてきました。



「お嬢さん。ここでどうしたんだい? おや、足を怪我しているじゃないか」



 そう言って青年はシンデレラの足を優しく治療してくれました。その青年は城に行く途中で、馬に水をあげている最中にうろうろしていたら馬車から離れてしまったと、恥ずかしそうに言いました。それなのに何故治療セットを持ち歩いていたのか不思議ですが。



「お嬢さん。綺麗なドレスを着ていますね。これからお城に行く途中ですか? それにしては周りに人がいませんが……」


「あ、あの、私は……」



 シンデレラが事情を話そうとすると、がさがさと他の人が来る気配がしました。青年は立ち上がりその人物をこちらに呼びました。そこに来たのは初老の執事で、青年を見るとあからさまにホッとした表情をみせました。そしてシンデレラの方を不思議そうに見ました。それに気が付いた青年は何を思ったのかシンデレラを横抱きにしました。シンデレラが状況を理解する前に目の前に馬車が現れ、そのまま乗せられてしまいました。



「ここであったのは何かの縁です。お城までご一緒しましょう」



 それに一瞬ポカンとしたシンデレラはフッと意識が遠のく気がして後ろの背もたれにパフッと倒れた。それを青年は安心して気が抜けたのだと勘違いしました。つくづく運の無いシンデレラ。シンデレラが会う男の人は勘違い野郎ばかりのようです。


(ちゃんと話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!)


シンデレラの心の声は誰にも届くことなく、馬車は城に向かう。



(つづく?)


 一気に書き上げました。名前だけ『シンデレラ』。だけど色々ぶち壊し。

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[一言] これはもう、前世はどうとか関係なく。物語通りにどうしても行きたいのね? っていうのがありありで、主人公頑張れ!って応援したくなりました。 こんな自立性心旺盛な女性は大好きです!
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