第32話 再開
魔王になり、固有スキル【ワンダーキャット】で瞬間移動した先は暗くじめっとした巨大な洞穴の中。
「うおっ、なんだお前!?」
後ろから聞き覚えのある男の声が聞こえて振り返る。
わぁっ、凄いイケメン!
思わず心臓がドキリと高鳴る。
上半身裸でマントを羽織った真っ赤で巨大なトロールが、岩を削って作られただろう椅子に座っていた。
顔は男らしさのある超絶イケメンで、体は筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》としている。
確認を兼ねて、名前を呼んでみる。
「……ブラッド?」
「あぁ? なんで前の名前を知って――いや待て。お前、面影があるな。まさかクレイか?」
よし。この反応はブラッドだ。
「うん、久しぶりブラッド。見た目が大分変わっちゃったけど、クレイだよ。今はチエって名乗ってる」
「おぉーそうか! 久しぶりだな! 俺は今、ヘルって名乗ってる。生きてたんだな……」
「ん。ブラッド――じゃなくて、ヘルこそ。あの後どうやって生き延びたの?」
あの時、死亡フラグ立てても生き残るって俺が言ったけど、内心では死んでると思ってた。
「あーあの時のことか。あの後もエルフと戦いが続いて、俺は洞穴に逃げたんだ。それで天井を叩いてわざと崩落を起こして姿をくらませ、時間を掛けて傷を癒してから手で穴を掘って別の場所に出て、森を抜けて逃げ延びたってわけだ」
「なるほど」
確かにそれなら生き延びられる。
「チエ、お前はあの後どうしたんだ?」
「旅に出て、新しい仲間に出会って、西の果ての砂漠に着いた。今、楽園を建設中」
主にボタンとコンゴウが。
「へぇ。そこ、いい場所か?」
「んーどうだろう? 誰もいない巨大なオアシスに住み着き始めたところだから、暑いのと寒いのが大丈夫なら、いい場所なんじゃない?」
「そうか。新しい仲間ってのは?」
「えーっと……」
あの二人についてどう説明しよう?
めんどくさいな。
「見た方が早いよ」
「それもそうか。なら、俺も楽園とやらに移住しよう」
「いいの?」
「ああ。ここにいるのは俺だけだ」
「そう。じゃあ今、何やってたの? 椅子に座って休憩中?」
「まぁそんなところだ。スキル【ブラッドオーラ】は覚えてるだろ?」
「うん」
「あれが発展して、オーラを分身として動かすことができるようになったんだ。今はそのオーラが色々と活動している」
「つまり雑事を自動化してるってこと?」
「そういうことだ」
凄い便利だなぁ。
羨ましいスキルだ。
「あっ、そうだヘル。一ついい情報が手に入ったよ」
「お、なんだ?」
「街を一つ壊滅させるほどに人を殺して数百人だか千人だか食らえば、魔王になれるよ。それと大勢の人から信仰されると神様になれるんだとか。あっ、これじゃ二つだね」
「はは。だが確かにいい情報だな」
「でしょ。私は既に魔王で、街というか国の首都を一つ落としたところ。死体が大量にあるから食べるといいよ」
機嫌の良かったヘルが、急に申し訳なさそうな表情に変わった。
「……ありがたいが、それは遠慮しておく」
別に恩を売ってどうこうは考えてないんだけどなぁ。
「なぜ?」
「楽をしてるようで、俺自身が納得できねぇ。それに、街一つの人間で事足りるんなら、自力でできそうだからな」
「あぁ、そう。じゃあ仕方ない」
そういうことなら無理強いはしない。
……会えたし、伝えるべきこと伝えたし、帰るか。
「ヘル、数日後にまた来るよ」
「おう、マッスルによろしくな」
「あ、うん」
あぶねぇ、マッスルに会いに行くの忘れるところだった。
というわけで、マッスルのところに瞬間移動!
固有スキル【ワンダーキャット】を発動し、瞬間移動した。
――――ん!? 寒い!!
それになんか、横を誰かが凄い勢いで通り過ぎたような……?
瞬間移動した先は、吹雪が発生中の雪原のど真ん中だった。周囲を見渡してもホワイトアウトという気象現象によって数メートル先も見えなくなっている。
唯一わかるのは、誰かが二足歩行で通り過ぎてできた、雪を掻き分けた足跡のみ。
……多分、さっきのはマッスルなんだろうけど……いつの間に人化したんだろう?
「まぁいいか。もう一回瞬間移動しよう」
【ワンダーキャット】、発動!
「――あれ?」
瞬間移動したが景色が変わらない。隣を誰かが高速で通り過ぎたのが一瞬見えただけ。
…………止めないとダメかも。
もう一度瞬間移動し、すぐさま動いて通り過ぎようとする奴に蹴りを入れる。
「ぐえっ」
声を出してそいつは雪の上を転がって止まった。
「どーもー、元クレイことチエだよ。久しぶりだねマッスル」
「いてて……クレイ? ほんとにクレイさんなの?」
イノシシの耳と尻尾を生やした、上半身裸の細マッチョなイケメンが起き上がって俺を見つめてくる。
「うん。今の名前はチエ。君はマッスルで合ってる?」
「合ってます。今はマックスって名乗ってます」
「そっか。久しぶり」
「はい、お久しぶりです!」
手を差し出して握手と同時に起こす。
マックスの身長は俺より随分高く、体温が極端に高いのか吹雪の中でも蒸気を体から発していた。
「チエさんは随分とその……綺麗になりましたね」
そういってマックスが視線を横に逸らした。
「まぁ、アビリティの【美化】が【絶世の美女】になったからね」
もしかして惚れた?
残念だけどお前は好みじゃないから、付き合う可能性はゼロだ。
「そうですか。それで、チエさんはどうしてこんなところに? もしかしてわざわざ会いに来てくれたんですか?」
「そんなところ。逆に聞くけど、マックスはどうしてこんな雪の中を走ってたの?」
「ああ、それは単純に移動する為、真っ直ぐ走ってただけです。体も温まりますし」
吹雪の中を走るか普通?
「……とにかく、さっきヘルという名前に変えたブラッドに会って来た。数日後に魔王になってから合流する予定だけど、マックスはどうする?」
「ブラッドさんが……うーん、合流するのは吝かじゃないけど、その魔王になってからっていうのは?」
「街を一つ滅ぼすほどの大量の人間を殺して食らえば、超強い魔物として魔王になれる。実は私、既に魔王だよ」
ちょっと驚かせてやろう。【魔王の覇気】!
「っ!? ――これが……魔王!」
ぼわっと、大容量で禍々しい紫オーラが体から出ると、マックスは目を見開いて大層驚いてくれた。
「どう? 魔王になる気になった?」
この状態では話し辛いだろうから、スキル解除っと。
するとオーラが体の中に引っ込んだ。
「……はい。今までは人間の街を避けていたんですが、やる理由ができました。俺も数日後に、また会いに来てください」
「おっけー。それじゃあ、またね」
「はい!」
いい返事だ。
これは数日後が楽しみだなぁ。
スキル【ワンダーキャット】の瞬間移動を発動し、俺は元の場所へ戻った。




