第19話 危ない湿原
着陸した場所は、山から流れ出た水が留まる広大な湿原だった。至る所に小さな池があり、トリから降りた足元はスポンジのような柔らかい草や苔になっていて、体重によって加圧されたことで水がにじみ出てくる。
ここ、あんまり長居したくないな。
ゲーム的に言えば、状態異常を多用しそうなヤバい魔物がいそうだし。
「ふわぁー、ここ面白いですぅ。びっちゃびっちゃですぅ」
度胸あるというか、なんというかなー……。
プランは楽しそうにピョンピョン跳ねて、水滴を飛ばしていた。傍にいる俺に掛かるからやめてほしい。
「プラン、とにかくさっさと食べて移動しよう」
「はいぃ。このドラゴン? さんのお肉は美味しそうですぅ」
あらぬ方向に首が折れ曲がって恐らく死んでいるワイバーンに近づき、ガブリ。
ガリッ。
「硬い」
「ふえぇ、歯が欠けるかと思いましたぁ」
思った以上に硬かった。まるで鉄の鎧だ。もっと強くなって爪や歯が通るようにならないとまともに食べられそうもない。
――そうだ。俺らはまだ弱いけど、トリやカマキリに切り分けてもらえば――あっ。
振り返ったところで、二体の足元から無数の触手が飛び出て一瞬で絡め捕り、大した抵抗もできずに地面の中へと引きずり込まれて消えた。
これはマズい。
今度はワイバーンが触手に絡め捕られた。
「プラン、離れろ!」
「はいぃ!」
すぐさま離れると、その間にワイバーンは地面へと引きずり込まれて消えた。
来るか?
警戒し、辺りを見渡すが何もなかったかのように静まり返っている。
…………来ないか。俺たちが小さすぎて反応していないのかな?
「プラン、静かにここから離れようか」
「はいぃ」
俺たちは地中にいるであろう何かに気を付けて、音や振動を立てないようにゆっくりと移動した。
湿原の中に生えている近くの木に到着。プランを無視して木に登り、高いところから湿原を観察した。
じーーー…………む?
湿原の中に、さっき見た無数の触手が一本、ニョロッと短く地面から出ていた。先端がゆっくりと動いて、何かを探しているように見える。
目かな?
いや違う。そんな部位には見えない。
だとすると、外気に触れて音や振動を感知してる可能性がある。
なら、ちょっと試してみるか。
「プラン、ちょっとお願いがあるんだけどいい?」
「なんですかぁ?」
「ちょっと向こうに【寄生ダネ】飛ばしてみてくれる?」
「いいですよぉ」
頼みを聞いてくれたプランが頭の花から種を飛ばした。放物線を描いて湿原の中で落ちると、出ていた一本の触手がすぐさま引っ込んだ。
しばらくして種が落ちた付近に一本の触手がニョロッとでた。さっきとは違い、先端が丸くて明らかに目のようなものが付いている。
近眼なのか、俺たちの方を向いてもまるで気にしていない。
なるほど。
ワイバーンが落ちた時は物だと思ったか、或いは他の餌を呼び込む為の囮だったのか。それでトリとカマキリが現れて、真下まで忍び寄って襲い掛かったと。
じゃあ俺たちが襲われなかったのは……小さいから優先度が低かったってことだな。
少しすると、目が地中に引っ込んで元の位置に触手が出た。
「クレイ、これからどうしますかぁ?」
「んー……プランはどうしたい?」
「私はお肉が食べたいですぅ。それともう一度空を飛びたいですぅ」
「だよねー。あいつから離れて、とりあえず強い魔物を仲間にしよっか」
「はいぃ」
木から降り、俺たちは湿原の中の探索を始めた。
そして早速、魔物を発見。
「……タコ?」
「タコですねぇ」
吸盤付きの八本の触手、丸い頭、湿原に適した迷彩柄のような体表をした、どう見てもタコな魔物がニョロニョロ動いていた。大きさは二メートルほどとかなりでかい。
「どうしてこんなところに?」
「気にしたら負けだと思いますぅ」
……確かに。
「とりあえず、使役したらどう?」
「うーん、タコは食べたいんですけどぉ……仕方ないですねぇ」
残念そうにしながらもプランは頭の花から種を発射した。直撃したタコの頭に小さなピンクの花が咲いた。
「使役完了ですぅ。では早速、お肉を取って来てくださいぃ。あっ、でもぉ、食べられないように気を付けてくださいねぇ」
指示を出し、タコが獲物を探しに移動を始めた。
これで食料の確保は問題ないな。
それじゃあ、俺は俺で探索しよう。危険な場所だからこそ、情報収集はしておきたい。
「プラン、私は単独行動するから、日が沈む前にさっきの木に集合で」
「ふえぇ、なんでですかぁ!?」
無視。
俺はプランを置いてさっさと動いた。
細心の注意を払いつつあっちこっち見て回り、地形や魔物を把握していく。予想した通り、この湿原には如何にも状態異常攻撃をしてきそうな見た目の爬虫類や両生類や昆虫などの水棲生物が多数生息していた。流石に単独行動中は死ぬ危険があって戦うのは自重した。
そろそろ帰るか。
「お? これは……」
日も傾き始め、お腹が空いたので集合場所に戻ろうとした時、キノコを発見した。笑っているかのような歪な形状の傘をしていて、緑と紫の斑点模様をしている。
「スマイルダケってところかな」
そのキノコをとりあえずスマイルダケと命名。
じーーー…………。
ちょっとだけ、食べてみようかな。
小腹が空いてるし、お肉ばっかりだと栄養も偏るだろうしね。うん。
自分に言い訳しつつ、ちょっとだけ――ぱくり。
うま~。
歯応えがあって松茸みたいな風味。他にマイナス要素がなくて非常に美味だ!
「おお? なんか……すっごい楽しくなって来た! あはは、あははははは、あははははははははははは、なにこれなにこれ!?」
笑いが止まらない。
楽しさが内側から溢れ出してくる!
それと同時に景色が変わる。
湿原がドンドンパフパフ賑やかな遊園地に変わり、目の前のスマイルダケに可愛い目が二つ生えて傘の部分が口になって動いた。
「やぁクレイ。僕はスマイルダケ。みんなが笑顔になれるとっても美味しいキノコだよ」
またシャベッタアアアアアア!!
おもしろー!
「ここには僕がいっぱいいるから、幸せが続く間に沢山食べてね。そしたら新しい力が手に入るかも。青い蝶が案内してくれるから、頑張ってねー!」
言いたいことを言ったスマイルダケから目が消えて動かなくなった。
青い蝶が目の前を通り過ぎる。
「あははははは、楽しいしやろう!」
ぱくりとスマイルダケを食べ、遊園地の中を駆けだした。
道中は玩具の生き物が襲い掛かって来てアトラクションみたいで楽しい。ひょいひょいっと避けながらちょうちょを追い続ければスマイルダケを発見。ぱくりと食べると幸せいっぱいで気分上々、まさに有頂天。
無数の毛糸が捕まえようと地面から生えて襲って来ても、テンションアゲアゲだから怖くないしむしろ楽しい。触れられることなく避けきった。
二つ、三つ、四つとキノコを食べ続け――――十個目を食べた。
ピコン。
〈アビリティ【毒耐性・中】が【毒耐性・大】になりました〉
〈アビリティ【精神耐性・中】を【精神耐性・大】になりました〉
アナウンスと同時に幻覚が消え、湿原に戻った。
「……あぁ、幸せ気分も消えた……残念」
テンションが平常まで一気に戻った落差で虚しさを感じた俺は、集合予定の場所まで戻ることにした。
ところで、ここどこ?




