第14話 ブラッド、ボスになる
体が光って作り変えられ、暫くすると光が収まった。
ピコン。
〈身体のダメージ及び状態異常を全てリセットし、進化が完了しました〉
〈あなたは種族:ドランクキャットから、種族:クレイジーキャットになりました〉
〈それに伴い、新たなスキルとアビリティを習得しました〉
〈スキル【狂気の瞳】を習得しました〉
〈アビリティ【悪食】を習得しました〉
〈アビリティ【野生の勘】を習得しました〉
おおう、クレイジー……。
ますます進化の方向性がおかしくなっている気がする。
「ブラッドさん、ドラさん、俺……進化しました!」
自慢気にえっへんとポーズを決めるレッドは、毛が赤褐色に変わり、体が一回り大きくなってムキムキに、首から背中に生えているたてがみがスピード感溢れる鋭い形状になっていた。
「強そうだな」
とはブラッドの評価。
「速そう」
と俺も評価する。
「種族はレッドボアから、マッスルボアってのに変わりました。仮の名前として、これからはマッスルと呼んでください」
「わかった。これからもよろしくな、マッスル」
「よろしくー」
「はい!」
レッドからマッスルへと呼び方が変わったところで、二人の視線は俺に向いた。
「で、ドラはなんか……毒々しくなったな」
「食べたいとは思わないですね」
どんな評価だよ。
俺の体はどうなって――ああ、うん。そりゃそういう評価になるか。
自分の外見を確認したら、また一回り大きくなっていた。もう大型犬サイズだ。そして体毛が紫色に変わっていた。
まぁ、いいか。
「種族がドランクキャットから、クレイジーキャットに変わったみたい」
「ぷっ、クレイジー……くく」
「うわぁ……」
ブラッドには笑われ、マッスルには引かれた。
とりあえずブラッドの足で爪とぎして怒っていることを意思表示し、ステータスと、スキルとアビリティの確認に入った。
名前:ドラ(仮)
種族名:クレイジーキャット
レベル:15
スキル:【ネコパンチ】、【ドランクブレス】、【狂気の瞳】
アビリティ:【人語理解】、【酒豪】、【毒耐性・中】、【美化・小】、【精神耐性・中】、【悪食】、【野生の勘】
スキル【狂気の瞳】
・スキルを発動して相手と目を合わせることで、幻覚や幻聴を引き起こし、感情をぐちゃぐちゃにして発狂させる。幻覚や幻聴はランダムで、効果は持続する。自分には効かない。
アビリティ【悪食】
・どんなものでも食べられるようになる。ただし、毒などはそのまま効いてしまうので注意。
アビリティ【野生の勘】
・敵意を察知し、あらゆる不意打ちを自動で回避する。
うわぁ……またえげつないスキルだ。
これ味方に掛からないよう、細心の注意がいるな。
あと、仮の名前どうしよう?
……クレイでいっか。
「とりあえず、仮の名前はクレイで」
「わかった」
「クレイですね」
「それでこれから……どの方向に行くの?」
カエルによって踏み荒らされた道があるので、毒沼まで戻ることはできる。だがそれは自ら危険に近づく行為だ。
ブラッドは森の中を見渡し、来た道とは違う方向を指さした。
「あっちに行こう」
ブラッドが指さした方向に向かって歩き続けていると、日が沈み始める頃になって高い崖下に到着した。目の前には大きな洞窟があり、見張りらしい間抜けな顔のトロールが壁にもたれて座り、ぐーすか居眠りしている。
「ブラッド、この洞窟、どう見る?」
「親玉がいそうだな。丁度いい時間だし、今晩の宿の為に襲うか」
「いいね」
「なら、俺が先頭で突っ込みましょうか?」
「いや、お前らは待機だ。俺一人でやる」
マッスルの提案を断り、レッドは荷物を括りつけたこん棒を下ろした。
おっ、またプロレスか?
「りょーかい。マッスル、ここは任せよう」
「……クレイさんがそう言うなら」
マッスルがちょっとしょんぼりしたが気にしない。
ブラッドは見張りのトロールに近づくと左手で肩を揺らし、起きたところで顔面をパンチして潰し、一撃で倒してしまった。
「おし。ちょっとうるさくするから離れてろ」
言われたので俺たちは離れた。
離れたことを確認したブラッドは洞窟の入り口に立つと、大きく息を吸って大声を発した。
「カチコミじゃああああああああ!」
洞窟の中で声が反響し、数秒後に奥からドスドスと複数の物音が聞こえだした。
振り返ったブラッドはニヤリと笑い、前を向いて堂々と歩いて洞窟の中へ入って行った。
あーもう、カッコイイじゃん!!
自然と口角が上がってしまう。横を向けばマッスルもギラついた笑みを浮かべている。
邪魔にならないよう、俺たちはブラッドの後ろを付いて洞窟へ入った。
中に入れば、早速複数のトロールがこちらに向かって来ていた。
「行くぞオラァッ!」
気合のこもった声を出し、ブラッドが走って勢いをつけ、最初の一体に跳び蹴りを食らわせる。
そこからは的確に殴ったり蹴ったりしながら様々なプロレス技を繰り出してトロールたちを翻弄し、バッタバッタと倒していく。トロールは再生能力が高いので、トドメもきっちりしている。
いいねぇ!
迫力あって見ていて飽きない!
凄いよブラッド。最高だぁ!
テンションが上がって、自分の尻尾がブンブン揺れているのがわかる。うずうずして今すぐ動き回りたい気分だ。
でも我慢。
これはブラッドの戦いで、俺が乱入するのは無粋だ。
「どうしたオラァッ! 来ねぇのか? ああ?」
向かって来るトロールがいなくなり、ブラッドが挑発するが動かない。
「オレがアイテだ!」
奥から野太い声が響く。
トロールたちが滝のように道を開け、奥から一体のトロールが姿を見せた。醜く厳つい顔をしていて、他のトロールより一回り大きく、そして筋骨隆々。右手には使い込まれてボロボロの大剣が握られている。
「……お前がここのボスか?」
「そうだ」
「ならサシで勝負だ。俺が勝ったらあんたの立場をもらう」
「いいだろう。オマエがマケたら、オマエと、そっちのチイさいのはクう」
「いいぜ」
勝手に勝負の景品にされたが気にしない。
いざという時は全員眠らせて俺が始末するだけだ。
ボストロールが大剣を構えたところで、ブラッドは構えを解いて言った。
「なぁ、俺は素手だ。武器なんて捨ててやり合おうぜ。それとも、そんな物を使わないと俺に勝つ自信がない臆病者か? それでもいいけどな」
「……ナめるな。ぶっコロしてやる!!」
挑発に乗ってボストロールは大剣をその場に突き刺し、前に出た。
あらら、単純なこと……。
ブラッドとボストロールは互いに近づき、拳の届く位置で睨み合った。
――――――数秒という短い時間の沈黙の後、動いたのはボストロールからだった。
拳が頬を打ち、ブラッドの口から血が垂れる。
だが、ブラッドはスキル【ブラッドオーラ】を発動せずにそのまま反撃し、ボストロールの顔面を殴った。互いに回避しない殴り合いが始まった。
周りのトロールたちが固唾を飲んで見守る中、ブラッドとボストロールはなん十発も殴り合ってボロボロになり、先に倒れたのはボストロールの方だった。
肩で息をする血まみれのブラッドは、右手を拳にして掲げた。
「俺がここのボスだああああああああっ!!」
新たなボスの誕生にトロールたちが平伏する。
そんな光景を見て、ふと思った。
……ボスになる必要、ある?




