第10話 冒険者が来た
俺もブラッドも進化を果たした翌日の日中。
「おーし、完成だ!!」
ブラッドが声高らかに宣言した。
目の前には丸太を使った粗末で巨大な小屋が一軒と、丸太を削って作られた巨大こん棒が一つ、岩を砕いて作られた大きな石ナイフが一つある。
「おおおー、でかい!」
俺からしたら、巨大な工場並みだ。こん棒やナイフだって規格外の大きさで、不思議の国に迷い込んだように錯覚させられる。
「これで雨風が防げる。ドラの寝床も中に作ったぞ」
「ほう」
中に案内されると、隅っこに枝で四角く区分けされた部分があった。が、それだけ。なんにも敷かれていない。
「……これは、寝床?」
「文句は言うな。俺だって何も敷いてない」
「あっ、うん」
これは藁か毛皮を早いうちに手に入れたいな。
クマ討伐、してもらうか。
「ブラッド、敷布団に一つ当てがあるから付いて来て欲しいんだけど」
「お、それなら案内してくれ」
「あいよー」
そういうわけで、こん棒を担いだブラッドを引き連れて森の中を移動し、昨日出会ったクマの魔物の洞窟にやって来た。
「グオオオオオオッ!」
昨日と同じように黒いクマが洞窟から出て威嚇して来る。
「ブラッド、どう?」
「大きさは物足りないが、現状ではありがたい。手ぇ出すなよ。スキルを試したいからな」
ブラッドは担いでいたこん棒をその場に置いて、首を回し指をぽきぽき鳴らした。
「がんばってー」
てきとーに応援し、離れて見学。
「ふん!」
ブラッドが気合を入れると、血のように赤いオーラを薄く纏った。
おお、よくわからんけどカッコイイ!
「さぁ来いクマ野郎!」
伸ばした片手の指をクイクイっと曲げて挑発すれば、クマはそのジェスチャーを理解したのか大きく吠えて突進した。
ブラッドは正面から受け、地面を滑ることなく止めた。
「そぉい!」
掛け声と共にクマが投げ飛ばされ、地面に落ちた。
おー、いい投げっぷり。
相撲もありかもしれない。
「おらどうした! その程度か!」
「グオオオオオオオオオオオッ!」
投げ飛ばされたクマからはまだまだ戦意が感じられ、再び突進。
また正面から受け止めたが、今度はクマがブラッドに爪を立ててがっしりと掴み、体が浮きこそしたが投げ飛ばされない。
ブラッドの体に爪が食い込んで出血すると、赤いオーラがより強くなった。
「フハハ……力が――湧いてくるッ!!」
ギラついた笑みを浮かべたブラッドはクマを強引に引き剥がすと真上まで持ち上げ、勢いよく地面に叩きつけた。それから渾身の力を込めただろう右手で、起き上がろうとしたクマの頭を殴った。
ぐちゃっと嫌な音を立て、血と脳が飛び散って頭が潰れた。
「お見事。で、今のはどんなスキルなの?」
「【ブラッドオーラ】って言って、自分の出血量に応じて全能力が上がる。【自己再生】のアビリティを最初から持ってるトロールにとって、デメリットなく運用できるから強い」
あっ、ほんとだ。もう傷治ってる。
「下手に攻撃すれば強くなって、しかも再生持ち……ゲームのボスじゃん」
「確かにそうだな。とりあえずこいつの血抜きをしておくから、お前は中を見に行ってくれ」
「りょーかい」
というわけで洞窟の中を探索。
クマが寝床にしていただけのようで、特に目ぼしいものは見つからなかった。
「ただいまー。なんにもなかったよ」
「そうか。ある程度血が抜けたから、帰ろう」
「あいよ」
ブラッドがこん棒とクマを担ぎ、俺が少し先を歩いて帰る。
暫く歩き、もうそろそろ拠点に着くので先に戻っていようと走り出す。
――あっ、マジか!
拠点が見えると、そこには冒険者だろう武装した四人の人間がいた。
顔を隠せるバケツ頭の兜を被り、鎧を着込んで大剣を持つ戦士だろう前衛の人間。
軽装で弓矢を構える、レンジャーだろう男。
ローブを着てトンガリ帽子を被り、長杖を持った男の魔法使い。
鈍器であるメイスを手に持ち、白い法衣を着て帽子のようなウィンプル被った神官の女性。
ブラッドの足音が大きいせいで既に武器を構えてこっちを向いており、目が合ってしまう。
「……キャット?」
戦士からくぐもった女性の声が聞こえた。
――やばっ!
レンジャーの弓がこっちを向いたので即座に逃げる。
飛んで来た矢が体を掠め、木に刺さった。
「くそっ、外した!」
レンジャーの悔しがる声を耳にしつつ逃げた俺は、ブラッドの前に来て言った。
「ブラッド! もう冒険者が来てる!」
「っ! 思った以上に速いな……」
「どうする?」
「目と鼻の先にいるんなら、やるしかないだろう」
「わかった。まずは私から仕掛けて強さを確かめるから、ブラッドは離れてて」
「おう」
ブラッドは担いでいたクマの魔物の死体を下ろすとその場を離れ、俺は少し道を変えて拠点まで引き返した。
拠点では人間四人が固まって警戒していた。
良かった。追うではなく迎え撃ってくれて。
これなら効き目次第で一網打尽だ。
「いたぞ!」
誰よりも早く気付いたレンジャーが矢を射ってくる。
甘いな!
狙いが精確だからこそ避けるのは容易だ。
神官と魔法使いが、体を光らせて何かに意識を集中し始めた。
何か魔法を仕掛けてくるようだ。
その間に戦士がこっちに突っ込んで来る。
だが遅い。
【ドランクブレス】!
こっちはノータイムで出せる。酒気を帯びた煙をもろに浴びた戦士は勢いそのままに倒れて眠った。
レンジャーはバックステップで煙の範囲外まで離れたが、魔法使いと神官は逃げ遅れて煙を吸った。
「っ、これは毒じゃ――」
「ねむ、けが――」
二人は崩れるように眠った。
「レイア! アノン! ルル! くそっ、なんなんだお前は!?」
レンジャーが素早く矢を放ってくる。
動揺していてもその精度は落ちておらず、油断すると当たりかねない。
しっかりと見て回避しつつ、もう一度攻撃。
【ドランクブレス】!
「くっ、すまない。みんな」
レンジャーは煙から離れると、そのまま背を向けて走り出した。
あっ、逃げた。って、追わないとまずい!
俺の情報が渡った上で、これより強い冒険者に来られたら死ぬ。
やらなきゃっ!!
急いで追い掛け、一心不乱に逃げているレンジャーの背後から飛び掛かる。
【ネコパンチ】!
「うっ」
レンジャーは後頭部を強打してバランスを崩し、盛大に転んだ。
動く前に――【ドランクブレス】!
「く……そ……」
起き上がろうとしたレンジャーは眠った。
……よっしゃ!
完・全・勝・利!!
ブラッドに自慢しよーっと。




