【完結】記憶の狭間に揺れる影
20✕✕年────
私は病院のベッドで目を覚ました
「ここは……………。」
暫く状況が吞み込めず私はベッドに横たわったままボーッとしていた。ずっと寝たきりだったせいか、身体が妙に痛い。
暫くすると看護師が巡回にやって来て、私が目を覚ましたのを確認した時はとても驚いた表情をしていた。すぐにドクターを呼んで来て私は問われたことに答える。
「………………わからない…。」
そう、それが私の彼からの質問に対する全てへの答えだった。
「記憶喪失のようですね……………。どうやらとても強く頭を打っているせいでしょう。一時的な場合もありますのでゆっくりと様子を見ていきましょう。身体の方は既に問題ありません。2~3日で退院出来るでしょう。」
ドクターは私の家族という人達へそのように説明をしていた。
「由仁ちゃん……………。」
哀し気な顔で私の顔にそっと手を添えるのがどうやら私の母らしい。その隣で困惑した表情を見せるのが父らしい。
どうやら私は今をときめく大企業「uni-uni」グループ会長の直系の孫らしい。会長、鈴茂修は息子が一人、それが私の父とのことだ。修には弟がいてその息子にも一人娘がいて、その従姉はどうやら私と年齢はさほど変わらないというのだ。
話を聞いても私は何も覚えていない……………。
「ごめんなさい。私、何も思い出せない…。」
私は父と母にそう答えるしか出来なかった。
病室で三人での時間を過ごしていた時、カツ!カツ!カツ!と慌ただしいヒールの足音が部屋に近付いてきた。
扉はノックもなしにいきなり大きな音を立てて開けられた!
────バン!
「由仁!お見舞いに来てあげたわ!」
そう言って勢いよく入ってきたのは従姉にあたる柚葉(26)だ。髪を巻いて少し濃い化粧をして服装もどちらかというと男性受けをしそうな服だ。とてもお見舞いに来るような服ではなかった。
「まあ、柚葉さん、またそんな恰好で…!ここは病院ですよ?」
母が柚葉に言った。
「あら、おばさま。服装なんて関係ないじゃないですか!私がわざわざ時間を割いて来た事に感謝してもらいたいですわ。」
現uni-uniグループ社長である父の目前でこのような横柄な態度を取る柚葉には理由があった。
どうやら私が怪我をして意識不明になっていたのは3年で、その間に次の後継者として柚葉に決まったというのだ。本来であれば父の娘である私が後継者になったはずだが、2年も意識不明が続き、目を覚ます見込みがないことからそうなったのだと聞いた。
「柚葉。いくら儂の後継者だからと言ってまだ儂が健在なのだぞ、そのような横柄な態度では認められん。」
父が柚葉に向かって強く抗議をした。流石の柚葉も今更後継者を取り消すなんて事はしないと思いながらもやはり権力の前では大人しくなるのだろう。
「わかったわ。おじさま。」
しおらしくそう言って私の傍に来て耳元でささやいて行く。
「由仁。せっかく目覚めたけどもう遅いわ。あなたから貰った会社、返さないわよ。そのまま目覚めない方が良かったかもね。ふふっ。」
私は驚いた。事情がわからなくてもこの言葉には悪意を感じた。
「あ、あの…?」
私の様子がおかしいことに柚葉は気付いたようだ。
「………………?由仁、どうかしたの?おじさま。」
「ああ、記憶が少し…。」
父の言葉を聞いた柚葉の顔は驚くほど別人だった。
「────そう。記憶喪失なの。へぇ…。」
口元が歪んで笑いをこらえているのを私は見逃さなかった…。どうして?従姉なのに……………。
それから数か月が過ぎて、日常生活には何も問題はなく過ごせるようになってきた。ただ、過去の記憶が一切ないだけだ。人との接し方も相手に事情を話せば相手もゆっくりと由仁に合わせてくれた。それは由仁の人柄によるものなのだろう。
「お父様…。こんなにボディーガードは…。」
「いいや、お前にもしもの事があってはならないからね。」
私にはボディーガードがつくようになった。怪我の原因である転落事故が再び起きないようにということだった。
「由仁、これからショッピングにでもいかない?」
そう言って柚葉が車に乗ったまま誘ってきた。珍しいわね…。そう思いながらも私は柚葉の車に乗った。ボディーガードには従姉と一緒だからと言って離れてもらった。
だけどまさかそれがあんなことになるとは────
「あら、柚葉さん、ここは港じゃ…。」
私はショピングをするはずなのに段々海沿いに走る車に不安を感じていたが、到着したのは何と港の倉庫がある場所だった。こんな人がいないような場所に何の用事が…。
「いいえ、ここで合ってるわ。あなたにはこの海に沈んでもらうわ。」
「────!?どうしてっ?」
私は驚いた。既に後継者になっているのに何故こんな事を計画したのか…。
「そんなの決まってるわ!目障りなのよ!あんたがいる限りいつ私の地位が脅かされるかわかったもんじゃない!それにあの事を思い出されても困るからよ!」
「────?あのこと?」
私が柚葉に問うが柚葉は顔をしかめて慌てて
「それよりもそこの樽の中に押し入れていやって!」
柚葉は自身のボディーガードに命令をした。彼らは由仁の両手を後ろ手にして縄でくくり樽に押し込めようとした。
────樽に入れられたらそのまま海に沈められてしまう!それは駄目!
私は恐怖で必死に藻掻いた!樽に足などぶつけるから身体中が痣らだけになっている。だがそれでも諦めずに藻掻き続けて抵抗した。
その時に私は頭をぶつけた!
────思い出した!
あの日も柚葉と共に歩いていて歩道橋から柚葉に背中を押されたんだったわ。階段を転げ落ちながら見上げた柚葉の笑う顔が今、鮮明に思い出された!
今頃思い出してももう遅い……………。
そう思った時だった────
「そこまでだっ!」
現れたのは由仁のボディーガードと父だった。
彼らは素早く行動し、あれよあれよという間に柚葉とそのボディーガード達は捕まった。
父は真っ先に由仁の元に向かった。
縄を解き、由仁を抱きしめる。
「お父さん!」
由仁のその言葉で父は由仁が記憶を取り戻した事を悟る。
「無事でよかった……………!」
どうやら由仁の服にGPSのチップを埋め込んでいたらしい。ボディーガードから別行動をするという報告があったのでそれで追跡したのだと言うことだった。
柚葉たち一行は警察にそのまま逮捕されて署まで連行された。
そのことでuni-uniは後継者から柚葉を除外し、改めて由仁を指名した。
由仁はしっかりと受け止めて父に教えを乞うことを決意した。
「儂はずっとお前はきっと目を覚ますと信じていた。本当に無事でよかった!」
父のあの日の涙を私は一生、忘れないだろう。
「ところで由仁。あとはお前の結婚だけが心配なのだが……………。」
「え、お父さん、私はまだまだ結婚なんてしませんよ?」
「何を言うの?仕事もいいけど結婚して家庭を築くのも幸せの一つよ?」
「お母さんまで…!」
こうして温かな家族と再会し、何気ない会話に幸せを感じた。そうね、それも悪くないわね。
私は光輝く未来が沢山待っているということに胸を躍らせずにはいられなかった。
ご覧下さりありがとうございます。短編は難しいですね。2800字くらいですが、この中に全てを詰め込むのは難しいです。一気に書き上げましたがどうでしょうか。もっとサスペンス風に伸ばした方がよかったかな?と思いつつこの形にしました。
まだまだ下手ですが、良かったら他の作品も見て下さると嬉しいです。




