第五十二話 東の塔
TAKASHIが悪魔の巣窟へ向かった。
「KOJI、敵がどんどん増えるよ。それにレベルも高いまずいよ」
ごーやが話しかけてくる。
戦争が終わる気配はない。言われなくてもわかる。危機的状況だ。
しかし、人数の少ない我々にできることは何もない……。
いよいよ始まるかと思った瞬間に、ムービーが流れ始めた。
「あっ。懐かしい。オープニングだ」
全体チャットの様子で、流れているムービーがオープニングだと知った。
オープニングが終わると、全体チャットで悪魔が敵シンボルでなくなったことを伝え停戦を呼び掛けた。
マリオは冷静に状況を確認し、やるべきことをやっていた。
そのおかげで、戦争の緊張感が消えた。ほっと息をつけた。
オープニングが流れ始めた頃から、TAKASHIがいない。
今この場だけではない。ボイスチャットにもいなくなっている。
同盟欄の参加者一覧からも消えていた。
皆と一緒に、TAKASHIを探しに、再び悪魔の巣窟へ向かった。
けれど、悪魔の巣窟には、TAKASHIはいなかった。
最下層には何も起きない部屋が残っているだけだ。
平原の悪魔に話しかけても「今日はいい天気だ」ばかりで意味は何も無かった。
俺は、肩を落とすマリオに「そのうち見つかるよ」と声をかけた。
ただの気休めだった。
一週目、二週目の魔王の様子を思い浮かべても、見つかるのはきっと最終日、決戦の時だと感じた。
それまでの間、塔の攻略を進めるしかない、そう感じてた。
◇
安らかなBGMに、ぼやけた美しい画像が心地いい。
魔王との対面を終え、操作を受け付けなくなった。
操作を何も必要としない、無の空間。
それに、画面を見ると、GCが大量に増えている。
一秒間に10GC。一時間に36000GC……。
頑張って新聞に載っても10000GCと考えると破格だ。
ただ、GCが増えていることで、俺はもうこのサーバーには戻らないと確信した。
戻らないから、サーバー通貨はもう意味がない。
だから代わりにGCをもらうんだ。
何もしていないのに、増え続ける数字を眺めているのは心地よかった。
そんな夢心地の中、俺は夢を見ていた。安らかな夢だ。
子供の頃、普段は家の中、そろそろ眠る時間。
でも今日は一年に一回のお祭りの日。
辺りが真っ暗なこの時間でも、友達と遊んでた。遊ぶことが許された。
夕食も消化され元気いっぱい。騒がしい喧噪が俺の幼心を掻き立てる。
走り回りたい。駆け回りたい。飛び跳ねたい。
そんな夢を見ていた。
ただ、居心地のいい夢は、一か所かけていた。
ジグソーパズルの最後一つのピース。
俺は、何も考えず、ただ当然のようにその一ピースを埋めた。
絵が完成すると同時に、胸を貫いていた杭が抜けたように、体が軽くなった。
◇
翌日、TAKASHIは戻ってこない代わりに、東の塔が出現した。
「この塔を攻略しろってことなんだな」俺はなんとなくTAKASHIからのメッセージだと思った。
いつも通り、少しレベル上げをしてから東の塔へ向かった。
総裁のTAKASHIが不在の間、俺が代わりに総裁的ポジションを取った。
といっても、TAKASHIがいる時だって、チームをうまく調整したりしてた。
特に、いつもと変わらない。一人いなくなってなんか寂しいだけだ。
東の塔を見上げるムービーが始まる。
なんだか、禍々しいオーラを放っている気がする。
塔について会話していた皆の言葉を思い出す。
AYATOは確か、東の塔は落とし穴があると言っていた。
塔の入り口の右側にはマリオが言っていた通り「Pi」とローマ字で書いてあった。
一回目の時は、こんなにはっきりとした文字ではなかったように思う。
マリオは、薄い文字に気が付いてメモを取っていたという事だ。
そんなかすれていた文字が、今でははっきりと光って見えている。
「なんだか嫌な予感がする」気づかないうちに俺はつぶやいていた。
ごーやの言った通り、床に怪しげな模様がある。
俺は、試しに飲み終えた加速ドリンクの空きビンを転がした。
カラン、コロンと音を立てて転がると、突然消えた。
怪しげな模様の床には、実体がないみたいだ。
やっぱり落とし穴だった。遅れて、下からガシャンとビンの割れた音がした。
よく耳をすまして聞いていると、後ろからも音が響いている。
振り返ると、入り口の横に下へと続く階段があった。
(・ωK)
「すごいな。本当に落とし穴があったよ。さあどうしようか」
(・д- )ゴ
「ジャンプで飛び越えればいいよ」
(・ωK)
「えっ?このゲームに、ジャンプなんてあったっけ?」
(・д・)ゴ
「ああ、この前の南の塔の攻略だったっけ?
なんか飛んでくる気がして焦った時に、スペースキーでジャンプできることに気が付いたんだ」
(・_・ a)
「あっ、本当だ。ジャンプできる」
(・ω・_)ケ
「部屋の左端を通れば、ジャンプ一度だけみたいだな……」
ケータの言う通り、部屋の左端を、ジャンプで落とし穴を避けて通った。
部屋の落とし穴をジャンプで回避して塔を登っていく。
最上階に着くと、赤いドラゴンが待ち構えていた。
塔と同じように、オーラを放っているような気がする。
オーラを纏い、以前より一回り大きくなっているように見える。
「気をつけろ。ボスも本気だぞ!」
レベル上げと念のため補充しておいたアイテムのおかげで、そこまで苦戦せず倒すことができた。
細長い球の形をした赤いクリスタルに触れると、赤い光の中に封印の鎧が見えた。




