第四十六話 二十日目
正真正銘の10月20日(土)。今の時間は20時だ。
長浜城の最上階にてモールを見かけたが、モールはそっと立ち去ってしまった。
どうやら、また、新聞に載り損ねたみたいだ。
もし、載っていたら「おめでとうございます」の一言ぐらいはあるはずだ。
俺は、新聞を読んだ。また、TKGだった。
時間は27分58秒……。惜しい。俺たちはおそらく28分前後だった。あと一歩届かなかった。
アクションに強いメンバーを集めて走り抜けても勝てないとは……。
TKGはよほどのゲーマーだろう。少なくとも全員が相当なゲーム熟練者のはずだ。
明日は日曜日でほぼムービーを見るだけだから、今日は実質コアタイム最終日。
今日は、ピレジの記事によると、回転床のはずだ。
正直、何の能力があればいいかよくわからない。同盟チャットで解析班に聞いてみた。
「今日は、回転床だとして、どうすればいいと思う?」
「回転して方向が分からなくなるのが一番まずいよね……」
「回転床の上で、回転しないように走り続ければいいのかな?」
「確かに、そうすれば、回ることは無くなるね」
「まるで、ハムスターの回し車みたいだね」
俺もよく動画で見るけれど、ハムスターは回し車の上で、顔は微動だにしない。
手足や体は、ものすごく早く動いているのに……。
なるほど、顔を動かさないで視野を広く保つのが大事だってことか。
途中で力尽きてぐるぐる体ごとまわるハムスターを思い出して、フフッと笑った。
いやいや、笑っている場合ではない。俺もそうなるかもしれない……。
「なら、やっぱりアクションに強いメンバーを集めた方がいいのかな?」俺は聞いてみた。
「私は、そう思います」
「←自信あります!」
「俺ダメ……」
ピレジと自信あるメンバーを集めてチームを組むことにした。
後は待つだけだ。
「今日こそは新聞に載るぞ!」同盟チャットに書き込んだ。
皆の指揮も上々のようだ。
「北の塔出現」の新聞と、北の平原にそびえたつ緑色をした塔を眺め、コアタイムを待った。
21時、コアタイムの開始だ。
昨日同様、レベル上げの後、北の塔に向かう。
生い茂ったツタの緑を身にまとう塔を見上げた。
「今度こそいくぞ!」「おー」
今日もピレジを先頭に門をくぐった。
門の右側には想定通り、ローマ字ではっきりと「Ro」と書かれていた。
門をくぐると、予想通り床が回転している。
床がめちゃくちゃ速く回転するわけではない。
ハムスターほど素早く動く必要はなかった。
ただ、その代わりに止まるために動き続ける必要があった。
そして、それは持久力が必要だという事だ。
さらに、体を回転させないために、足を動かし次の動作を考えなければならない。
頭の回転も必要だ。体を回転させずに、体を動かし、頭を回転させる。
これは、ゲームだから実際に体を動かす必要はないが、頭は使った。
思った以上に大変で、一階をクリアするだけで、少し疲れた。
いやいや、今日こそTKGに勝つんだ。
心持ちゆっくりと階段をのぼり、頭を休ませて、2階へ進む。
結局、ピレジの記事の通り、努力と根性で切り抜けることになった。
とても気分が重くなったが、一応最上階にたどり着いた。
緑色のドラゴンを何とか倒し、ハート形の緑色のクリスタルに触れた。
緑色の不思議な光が装備していた剣、鎧、盾と共鳴し、技を授かることができた。
「昇竜列波」と入力した。いつもの技名だ。
俺が初めて技を授かった時に、何となくつけた技名ではあるが、そこそこかっこよく、お気に入りの名前だ。
とにかく!これで、イベントをすべてクリアしたことになるはずだ。
今日の、北の塔攻略にかかった時間は、35分前後。
いつも30分を切ってくるTKGに勝つのは難しそうだ。
新聞に載れないのは残念ではあるが、北の塔の攻略はなかなか大変だった。
だから、TKGに負ける悔しさよりも、攻略出来た嬉しさが勝った。
俺は、北の塔から、外の景色を眺めながら、疲れ切った頭を休め、そんな達成感に浸っていた。
他のメンバーは、クリアしてそれぞれ別の場所に向かったようだ。
ただ、ピレジは俺と同じようにその場所にとどまっていた。
俺はピレジに声をかけた。
「もう一度、書記をやってみないか?もちろん、冒険をしながらでも構わない」
「えっ?僕のこと、不要だったのでは?」
「そんなことは、決してない。
モールは嘘の記事が嫌だっただけで、他は結構気に入っていたはずだ。
それに、今回の攻略で、嘘とは言い切れないという事がわかった。
モールもわかってくれるはずさ」
「なんだ。僕、てっきり、嫌われたんだと思った」
「俺が気に入らないのは、その長い名前だけだ。他は問題ない」
「でも……。名前は……」
俺は、名前の由来を思い出す。ずいぶん昔の話だ。
◇
「何やってるの?」
「ああ。多分、オンラインゲームってジャンルだな」
「それ、面白い??」
「結構面白い。最近、少しずつ参加者が増えてきていて盛り上がりつつあるよ」
「僕もやりたい!」
「よし。じゃあ、まずはPCにインストールしてログインからだな」
「ログインしようとしたら、名前聞かれた。お兄ちゃんは名前何にしたの?」
「俺はケンイチ」
「じゃあ、僕はケンジにしよっと」
「それはだめだよ。他の名前にしな」
「えっ。なんで?」
「兄弟だってばれるじゃん」
「ばれると悪いことあるの?」
「多分ないけど、少しだけ恥ずかしい」
「えっ。なんで?別に良くない?」
「だーめ。別の名前にしなさい」
そう言ったら、弟は、俺が決して覚えられない謎の名前になった。
俺が何となく嫌がったせいで、弟は、変な名前にしてしまった。
多分、俺への嫌がらせなんだと思う。
ただ、そんな長くて絶対に覚えられない謎の名前を副総裁のモールだけはすぐに覚えた。
◇
「でも……。名前は、お兄ちゃんが嫌だって言うから。
じゃあやっぱりケンジにする!」
「えーだめだよ」
「大丈夫だよ。気にする人いないよ」
そんな感じで、ケンジは書記に復帰した。
「改名してケンジになりました。それと、書記に戻りました!
これからもよろしくお願いします!」早速ケンジは、同盟チャットに書き込んだ。
「ケンジさん。よろしくお願いします!
あれ、えっと……、前の名前なんでしたっけ?」
「ピレ…さん……」「ピレポル……だっけ?何度見ても覚えられない」
「結局一度も覚えられなかった……orz」
「ピレポリネートタグネスゲーサーですよ。ケンジさんよろしくお願いします!」
やっぱり、名前を憶えているのはモールだけだった。
「それよりケンジさんすごいじゃないですか!塔の罠を予測したんですよね!」
昔の嘘だった記事が全て本当になったことは、伝説として噂され始めた。
そんな俺の立派な弟は、当たり前のように同盟に受け入れられた。
俺も弟に負けないように頑張らないといけない、そう感じた。




