第四十二話 十七日目
10月17日(水)21時。
コアタイムが始まった。
悪魔は昨日、西の平原を南に向かった。前回と同じだ。
前回と同じなら、南の平原に一軒家があるはずだ。
南の平原に向かうと思った通り、一軒家が見つかった。
前回と同じ、悪魔の顔の旗が飾られていた。
もちろん、TAKASHIたちTKGは居た。
「今日も護衛するのか」
「いや、今日はこのサーバーの秘密を探しに行こうと思う。
悪魔が現れた西の平原にある、悪魔の巣窟を調べてみようと思う」
悪魔の巣窟――もちろん、俺たちだって調査済みだ。
「悪魔の巣窟か。ただ、あそこには何もなかったと報告を受けているぞ。
それでもいくのか?」
「ああ、自分たちの手で調べてみたいからな」
そう言って、TAKASHIとマリオ、KOJIの3人は、北西の方へ向かっていった。
「よし、昨日と同じように防衛しよう」
同盟チャットで皆に話しかけた時だった。
「また、悪魔を保護しているのか」突然話しかけられた。
「ああ、そうだ」
俺たちは、このサーバーで一番大きな同盟だった。
二番目に大きな同盟の総裁が、大勢を引き連れてやってきた。
ただ雑談をするためだけの人数ではない。緊張が走る。
「悪魔を倒さないと、イベントが進まないじゃねーか」
「我々は、悪魔の保護が、物語進行の鍵になると考えている」
「平行線だな。皆の者、かかれー!!」
やっぱりだ。もともと戦う気だったんだ。彼らは突然襲い掛かってきた。
見知った顔が複数見える。そこそこ中堅の同盟の総裁の顔ぶれだ。
敵は、二番目に大きな同盟だけではなかった。複数の同盟の連合部隊だということだ。
我々は一番大きい同盟と自負しているが、それでも、危険かもしれない。
「戦争が始まった。至急増援頼む!」同盟チャットに書き込んだ。
前回の戦争とは比べ物にならない規模の戦争が始まった。
昨日レベル上げをしていてよかったと思ったのもつかの間、彼らのレベルを見て驚いた。
彼らは、我々が防衛に費やしていた時間もレベル上げに上げていたようだ。
昨日は気づかなかったが、陰で我々をつぶそうと連携を取っていたのかもしれない。
取得した経験値は、次の冒険では大幅に減らされるというこのゲームの仕組みのおかげで、
だいぶレベルは均衡しているものの、我々よりも平均レベルが高い。
数でも負けていた。あっさり負けてしまうかもしれない……、そう覚悟していた時、増援が現れた。
同盟チャットへの書き込みから数秒、増援が来るにはもう少し時間がかかると思っていた。
チャットを見返すとモールの書き込みを見つけた。
「南の平原に大人数のプレイヤーが現れた。戦争が起こるかも」
あらかじめ、モールが危険を察知し、注意喚起してくれたみたいだ。助かった。
ぎりぎりまでレベル上げをしていた増援を含む我々と、数の多い彼らとの戦いが始まった。
とても長引きそうだ。一進一退の攻防が続いている。
彼らの主力も暗殺者だった。暗殺スキルは暗殺者相手には効果は薄い。
MPも回復薬もつきかけてきたころ、我々に追加の増援が来てくれた。
これまでレベルを上げていたみたいだ。増援のレベルは高かった。
同盟チャットを確認すると、また、モールが指揮してくれていた。
「前回のTKGのように、直前までレベルを上げた人たちを少しずつ参加させます。
レベル上げの不足を感じた方は、一度戦線を離れ、レベル上げをしましょう」
モールが戦線を把握し、レベル上げと戦線の維持のバランスを取っている。
もちろん前回のTKGの戦法が意識されている。
敵の連合は、私たちの増援を見て、一度撤退したようだ。
そんな中、TAKASHIたちが戻ってきた。
「私たちも参加します」マリオとKOJIも護衛部隊に加わった。
TAKASHIは護衛部隊に加わらずそのまま、悪魔の家の中に入っていった。
しばらくして家から出てくると「すまないが、このまま防衛をお願いしたい」とTAKASHIは言った。
もともと、防衛し続ける覚悟で始めた戦争だ。言われなくても防衛する。
「ああ、まかせとけ。そっちは順調か?」
「結果を見ないとわからないが、手ごたえはある」そう言ってTAKASHIは再びどこかへと立ち去った。
敵はさらに、加勢を集めていたようだ。さらに多くの人数で、この家を、我々を取り囲んでいる。
一触即発の雰囲気が漂っている。
我々と同じように、彼らも直前までレベルを上げていたプレイヤーが集まってきたようだ。
さらに、激しい戦いが予想される。
このサーバーは、プレイヤー対プレイヤーの戦争で終始しそうだと思い始めた時だった。
突然画面が切り替わり、ムービーが始まった。
穏やかで、のどかな村の風景。
村人たちが懸命に働き、次世代に生をつないでいる。
夜になると、流れ星が降ってくる。
そのうちの一つが、洞窟奥深くに潜り込んだ。
地中深くに、邪悪な影は息をひそめた。
「おーい。誰かいるのか」誰かの声がする。
邪悪な影は、そっとその誰かに近づいた。
――すまない。俺は乗っ取られたようだ。
――こいつはこの星を滅ぼそうとしているみたいだ。
――頼む。俺を殺してくれ……。
「オープニングだ。懐かしい」
「そういえば、こんなオープニングあったな」
「ああ、すっかり忘れていたよ」
同盟チャットで、以前、このサーバーを遊んでいた人がコメントしていた。
ムービーが終わると、敵が攻撃を仕掛けてきた。
「お前ら、じゃまだ。やっつけてやる」
長い長い戦いの火蓋が落とされたかに見えた。
マリオが全体チャットにコメントした。
「戦いは不要です。悪魔は既に敵シンボルではなくなりました。
もうエンカウントしません。戦えないから、守る必要はありません」
俺は、一度戦闘を離脱し、家の中に入り悪魔の様子を確認する。
確かに、敵シンボルではなくなっていた。ただのNPCになったみたいだ。
同盟チャットで直ちに連携する。
「もう争う必要はない。直ちに撤退せよ」
争う敵がいなくなった敵連合チームは、一度家の中を確認するとすぐに立ち去った。
TKGの人たちが、家のすぐ近くで集まって相談しているみたいだ。
「助けてくれてありがとう」私はマリオに声をかけた。
「いいえ、助けていただいたのは私たちです。ありがとう」
「あなたたちは、次、何をするんだい?」
「TAKASHIが、行方不明になりました。私たちはTAKASHIを探そうと思います」
確かに、TAKASHIというプレイヤーの存在がこのサーバーから消えていた。
プレイヤー検索をかけても、Hitしない。
マリオはそう言って、TKGの人たちとどこかへ向かっていった。
一旦、落ち着いたみたいだ。
俺は、守り切った悪魔の様子を見に、家に入る。
「今日はいい天気ですね。こんな日は、日焼け止めクリームでもどうですか?」
悪魔は、商売をしたかったみたいだ。商売のために巣窟から出てきたみたいだ。
「もう少し、人から怖がられないように見た目をよくした方がいい」
自動的にNPCとの決められた会話が進む。
悪魔は、殺されかけていたことも知らずに、のんきに「今日はいい天気だ」とつぶやき続けた。




