第二十四話 五日目
昨日ファイルをなくしている。少し気が重かったが普通に出社した。
1日の遅れぐらいであればなんとかなるはずだ。
無くしていたと思ったファイルはあった。
本来、バックアップ用にコピーしてから、リネームをしていたが、コピーを忘れていただけだった。
リネームだけされたファイルはちゃんとあった。少しほっとした。
その日はとても順調に仕事を続けた。
まあ、誰にでも失敗なんてある。自分は時々、こういう勘違いをするんだ。
家に帰って、ログインして新聞を読む。
相変わらず、自分の記事もチームTKGの記事も無かった。
初日が出来すぎだったんだ。と思った。
チームTKGは昨日「水の塔」を攻略したと言っていた。
水の塔の攻略記事を読む。
水の塔の入り口は水中にある。湖の奥底にもぐらないと水の塔の入り口にはたどり着けない。
そして水の塔の最上階だけ湖の上に顔を出している。残念ながらそこから出入りはできない。
火の塔と同じようにメルヘンチックな絵で、かわいらしい印象を受ける。
ボスは、氷の精霊で、こちらは防御力が高く時間との勝負になりがちらしい。
鍛冶屋で鍛えられた武器がポイントと書いてある。俺の作った武器が役に立ったようだ。
眠りが友好で、眠らせてひたすら殴り続けろと書いてあった。やっぱり寒いと眠くなるのだ。
最後に、水中呼吸用の風船を道具屋で買う事を忘れないようにと注意書きが書かれていた。
半額シールの時間、今日はお弁当を買えた。
昨日ついていなかった分、今日はついている。少し気分がよかった。
帰り際に、一つ気づいたことがある。というより、自分の勘違いに気が付いた。
彼らは、毎日、一日一つ必ずオリハルコンを俺に渡していた。
二日目の経験値稼ぎの時も渡してくれたし、他の塔の攻略の時もくれた。
オリハルコンは、コアタイムだけに取得可能な貴重なアイテム。
ということは……。彼らは、オリハルコンの入手と攻略を同時にしていた。
新聞に載っている人たちは、経験値なら経験値のみ、塔の攻略なら塔の攻略のみしぼって攻略していたはずだ。
でも、彼らは、わざわざオリハルコンの入手もしていた。
彼らは、それが一番効率がいいと判断したという事だ。
もし俺ならもっと新聞に載るよう攻略する。それが最善だと思っていた。
でも、彼らは彼らなりの最善の方法を採っていた、ということだ。
俺は以前、ゲームを極めるために、時間を際限なくかけていた。
だから、彼らの行動が少しものたりないと思っていた。
しかし、彼らはできるだけ時間をかけずに、効率よく攻略を進めているようだ。
そして、その方法は社会人の俺でも可能な、一日一時間の集中した遊び方だった。
お弁当を食べながら、申し訳なかったと思った。
彼らが手を抜いているなら、俺も手を抜いていいだろうと心の中で少し思っていた。
彼らは彼らで真剣に、このゲームに臨んでいた。
それなら、俺ももっと真剣に、このゲームに臨むべきだ。
それが、俺のゲーマーとしての流儀だったはずだ。
俺はお弁当をさっと食べ終わると、すぐにゲームにログインし、集中力を高めた。
集中力の高め方なら、昔、ゲーム上達の一環として練習したことがある。
俺の方法は、目を閉じて軽く瞑想し、自分のプレイングを思い浮かべる事だった。
個人差はあるだろう、誰もがこの方法がいいとは思わない。自分にはこの方法が最善だった。
瞑想して、昨日の自分のプレイングを思い返していく。
21時になった。昨日受け取ったオリハルコンで鍛冶を開始した。
このミニゲームは、ノーミスだと難易度がどんどん上がる代わりに、時間が延長されるようだ。
過去かつてないほどの集中力でミニゲームを続けた。
結果、ノーミスだった。ゲームにストイックだった過去の俺でも真似はできないかもしれない。
「最上級装備+200」というアイテムが出来上がった。異次元の出来だ。
通常のアイテムは白、ランクが上がるにつれて、白→赤→銀と表示の色が変わる。
昨日のアイテムは銀色だったが、今日のアイテムはさらに上の金色だった。
22時頃になる。チームTKGが戻ってきてから、出来上がったアイテムを渡した。
まだ鍛えられた武器を持っていない、魔法使いのごーやが受け取った。
「神の杖+200」になった。みんなすごすぎて声を失っていた。
少し時間が経って落ち着いて、お礼を言われた。
「ありがとうございます!すごすぎます!」
「いいえ、こちらこそ何度も用意してくれてありがとう!君たちのおかげだよ」
俺はそう答えた。
このゲームの楽しさ、楽しみ方を教えてくれたのは彼らだった。
真剣さを取り戻させてくれたのは、間違いなく彼らだった。
今日もオリハルコンをくれた。




