第十五話 力の聖堂
今日は金曜日。早くもサーバーが始まって五日目。
7日目はボス戦だから、実質のコアタイムは今日と明日の二回しかない。
チームTKGが残すこの世界の秘密はあと二つ。
このサーバーでの活動時間を見る限り、コアタイム以外の活動はしないだろう。
私は、部外者なのに、少しずつ、緊張感が高まってきた。
チームTKGは、今日は「力の聖堂」を攻略するようだ。
「力の聖堂」は私がこのサーバーで、最も力を入れた部分と言っていい。
彼らにはぜひ、攻略してもらいたい。
――
放課後、僕たちは集まった。もちろんMARIKOさんも一緒だ。
「今日は、力の聖堂に行くの?」
「ああ、その予定だ」カージが言った。
「何か準備した方がいいものあるのかしら?」
昨日まで控えめだったMARIKOさんが食い気味だ。誘ってよかったと思った。
「いつも通りだな。ガムと飴とエナドリを買っておいてくれ」ごーやが言った。
ガムは回復薬、飴はMP回復薬、エナドリは加速ドリンクの事だ。
この学習をテーマとする世界では、まるで睡眠と戦うためにアイテムがあるようだ。
「俺たちは新聞は読まないようにしているからね。新聞は読んじゃだめだよ」
「うん。わかった。」MARIKOさんは、俺には優しい目を向ける。少しドキッとする。
「いづれにせよ、一回、俺たちは攻略失敗しているからな、もう後がない」
「ああ、気を引き締めて行こう」ごーやとカージが場を引き締めた。
俺たちは一度攻略に失敗した。時間切れだったから、アイテムやお金のロストは無かった。
HPはぎりぎりだった。もし全滅していたら損失が大きすぎて攻略はあきらめていただろう。
それだけ、レベルもアイテムもお金もぎりぎりだった。
レベルが低いと、アイテムやお金の消費は激しくなる。
「もったいない」という油断が即命取りになる。
そういう戦いをしていた。そして皆、それを楽しんでいた。
サーバーごとにレベルがリセットされて、他のユーザーと競う。
競っているようで、サーバーとしての勝敗は皆で目指す。
他のユーザーは皆、敵だけど、味方なのだ。このゲームは面白い。
コアタイムになって、みんな揃って「力の聖堂」の前にいた。
数学、国語の秘密は終えている。残りは理科、社会、英語か。
幸い、理科は男3人組が得意だし、MARIKOさんは社会ならいけると言っていた。
英語は……、まあ4人いれば何とかなるだろう。
「よし、こい!」
「力の聖堂」は理科がテーマのようだ。
モンスターたちはどれも面白い形状をしていた。
――
ふふふっ。ここのモンスターは面白いわよ。
例えば、この銅のモンスターね。
元素記号Cu、原子番号29、色は光沢のある橙赤色。
それがイラストになっている。
この国ではクリエイターが多くてイラストとか無限に作れる。
だから、組み合わせて暗記が必要な原子のイラストを作ったの。
胴体は丸くて光沢のある橙赤色。そこにCu、29という文字がくっついている。
何度も倒しているうちに、元素記号や原子番号、色まで覚えられる仕組みよ。
それに、倒した時、緑色に燃え尽きる。もちろん炎色反応を表現している。
当然、弱点だって存在して、銅の場合は錆ね。
中ボス戦は正体不明の敵が複数現れる。ほとんどの魔法が効かない。
ただ、一体倒した時の燃え尽きる色で、正体は銅だってわかるはず。
そしてわかったら、今まで使い道の無かった「錆」の魔法を全体化して一掃できる。
他にも、BTB溶液、フェノールフタレイン溶液を利用した判別方法も利用したりできる。
この聖堂をずっと周回していると、この聖堂のアイドル的な存在を水素原子ちゃんを二人もはべらす酸素原男が憎たらしくなるって噂よ。
しかも、あまりにも安定しちゃってなかなか引きはがせない。
熱を加えるだけでは空中に浮かぶようにどっかに行っちゃうだけ。
生半可な炎では3人を、情熱的に喜ばせるだけなのよ。
なんであんな顔の原男を好きになるんだって、女の私でさえいらいらが止まらなくなるの。
彼らを引きはがすには、雷で少しずつ引きはがすか、植物に頼るしかないの。
この聖堂をやりつくした人は、それはもう、忘れられないぐらいの化学知識が手に入るようになっている。
そう、この聖堂は、理科というより、化学をテーマにしているの。どうかしら?
――
「あれっ?意外とあっけなかったな」TAKASHIは言った。
「そうね。ちょっと準備しすぎたみたい。ごりおせちゃったね。
多分、本当は炎色反応とか元素記号とか利用しないといけないと思うんだけど」
「創作サーバーあるあるだね。まだ、バランスが整っていないんだ」
ごーやの言葉に、皆で笑いあった。
「いづれにせよ、残りは一つだ。皆、明日は土曜日だけど、明日もよろしく!」
「おー!」皆で最後に声を合わせてから解散した。
――
……。
しまった。一番気合い入れてたから、皆に絶対見て欲しくて、弱くしてたんだ……。
バランス調整しないと……。ぴえん。
皆の楽しむところが、もっと見たかったな。
まあ、こういう時もある。これはこれでゲーム作りの楽しみというところね。




