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 三人で鬼ごっこした翌日の火曜日。

 この日は配信前からコメント欄が盛り上がっていた。


 理由は三人が笑顔で映っているサムネにマイクラごっこと書いてあるから。

 待機している視聴者も何をするのか気になっているようだ。


 そして配信が始まる。

 配信画面にロベルトが映し出されると、彼は少し照れくさそうな様子で挨拶を始めた。


「どんぶり飯は五秒で完食!たいしょーおかわり!こんにちはロベルトです。今日は昨日に引き続き沙希ちゃんとみなみちゃんが来てくれてます。そしてもう一人ゲストが遊びに来てくれました!こちらの方です――」

「こ、こ、こんにちは!沙耶ちゃん寝てるの沙耶です。今日はよろしくお願いします!」


 沙希の姉――沙耶がカットイン。

 ガチガチに緊張しながらも笑顔を作る。だが緊張のせいか、俗に言う引き攣った笑顔――オブラートに包まずいえば女の子が見せてはいけない変顔に近い醜態を全世界に向けて晒してしまう。


 そこで沙希とみなみが不満気な表情で割り込む。


「あーぁ沙耶姉。顔がおとうたんに怒られた時みたいな顔しとったんよ」

「そ・れ・に!沙希たちが考えた挨拶じゃなーい!頑張って考えたのにー」

「沙希みなちゃんが考えた挨拶なんて出来る訳ないのですよー!わたし樽でビール飲んだことないのです!それにあの挨拶、完全に酒飲み用じゃないですかー。一応、探索者として配信もしてるのですよ!」


 コメント欄は剣姫――沙耶の登場で大いに湧いた。


 沙耶はポンコツではあるが、現在、探索者界隈にて剣術はトップの探索者。剣しばりの対人戦は敵なしの実力者。

 しかし本人が生粋の怠け者ということもあって配信頻度は極めて低く、配信があっても晩酌配信という有り様。

 ダンジョンでの配信というのも本当に久しぶりだった。


 配信は賑やかに始まり、沙希が今日遊ぶことを発表する。 


 ちなみにロベルトは今日はマイクラごっこをすると聞いているが、詳細はまったく聞かされていない。


「沙希ちゃん。マイクラごっこって何するの?」

「えーとねー。シールドの魔法をブロックにして遊ぶんだー!」

「おいたんも気にいると思うよー!」


 ロベルトが話を聞いても理解することが出来ずにいるとそこで沙耶が補足を説明。


 シールド魔法は発動者から一定の距離で発動するのが一般的で、個人差はあるが最長でも五メートルくらいが限度。

 しかし魔法の練度があがれば、シールド魔法の発現距離を大幅に広げることが出来る。 


 加えてほとんどの探索者が盾の形状でしか使用していないが、シールド魔法は自由に形状を変える事ができ、ブロック型のシールドを作ることも可能だ。

 しかしシールド魔法の形状を変えるのは難易度が高く、沙耶が知る限りでは使えるようになれる人は探索者の中でも数人くらいだろうという。


 真剣な表情で話を聞くロベルト。

 だがその表情は理解していないようにも見えた。

 それはきっと脳筋というイメージがそうさせているのだろう。


 ロベルトは沙耶に言われた通りの手順で、まずはシールドを遠くに出す練習から始めた。


 ロベルトはここで早くもつまずく。

 魔法に関しては超基礎魔法しか使えなかったので実はシールド魔法をやったことが無い。

 なので沙耶が実際にシールドを出現させ、触ってみたりしてイメージを固めることから始め、何度も練習を重ねようやくシールドを出すことが出来た。

 しかしシールドを遠い位置に出すことが出来ないでいると三人がアドバイスをくれる。


「おいたん。遠くに出す方法はスパイダーマンと同じだよー!」

「そうそう!糸を出す感覚を思い出して!」

「ですね!こうやって手をかざしたりするとやり易いかもしれません。魔法はイメージが基となっていますので」


 沙希とみなみがお手本でやってみせる。


 ポンッポンッとテンポよく二十メートル先、三十メートル先にシールドを発現させ、終いには上空にも発現させていた。

 これにロベルトが感動。

 シールド魔法がここまで自由度が高い魔法だとは思っていなかった。しかも上空にまで発現させている。

 ロベルトが上空に発現させたシールドを愕然と見上げていると、沙耶が上空にあるシールドの利用価値を教えてくれた。


 上空にシールドがあれば弓矢の襲撃や飛行系の魔物を食い止めるのに便利だという。

 遠くにシールドを発現させる利点は危機管理が早い段階ででき、その分攻撃や防御、回避に余裕が生まれるという点だ。


 ロベルトが練習を重ね、しばらくすると何とか遠くへシールドを発現させることが出来た。

 そこからはシールドの形状変更の練習へと移る。


 ブロック型のシールド。

 盾としては防御範囲が狭く、加えて防御面を含めて六面もある為、必要とされる魔法の熟練度や使用魔力が多く、普通のシールド魔法に比べたら習得するのは格段に難しい。

 そんなこともあってわざわざシールド魔法をブロック型にする探索者は誰もいない。


 しかしこのブロック型シールド、実はかなり使い勝手が良い。


 このブロック型のシールドを作るきっかけは、沙希とみなみが小学生の頃マイクラにどハマりしていて、魔法でブロックを作って遊んでいた時だった。


 二人はあらゆる属性の魔法でブロックを作って遊んでいたが、空中にブロックを浮遊させた上でそのブロックを組み合わせて建築することが出来なかった。

 浮かべることは出来ても、ふわふわと安定しなかったり、逆に空中で安定していてもブロックを接触させると魔法どうしで反応し消えてしまう。


 そして当時、どうしても空中に浮かぶブロックで遊びたかった二人は麗奈に相談した。

 それがシールドの魔法でブロックを作るきっかけだった。


 シールド魔法は指定された箇所に固定される。空中であっても変わらず固定され動く事はない。それがシールド魔法の特性だ。

 それに加えて元々がシールドなので物理的な接触や対外的な魔法にも対応している。


 沙希とみなみが望むマイクラごっこに最も適した魔法がシールド魔法だった。

 シールド魔法の特性を活かしながら、シールドの形を変えて、遠くに発動することが出来ればシールドブロックが出来る。


 とはいえ、それが一番難易度が高い。


 そんなこともあってロベルトはブロック型を発現させることが出来ないでいると沙希とみなみがロベルトに声を掛ける。


「おいたん。ほら見てー!シールドブロックの上に上がれるんだよー!」

「空中散歩しようぜ!おいたん」

「めっちゃ楽しい!おいたん早く遊ぼうよ」

「おいたん今日は沙希たちと遊ばないの?」

「ぐぬぬ。二人とも待ってな!シールドブロックなんかすぐに作れるようになるから!」


 楽しそうにシールドブロックで遊ぶ沙希とみなみを見て、ロベルトは気合いが入った。


 悔しいという気持ちよりは、早く一緒に遊びたいという純粋な気持ちの方が強い。

 その純粋な気持ちに応えるように、ロベルトの上達はここから早かった。


 形状変更のコツを掴んでからは一面だったシールドがニ面、三面と苦戦していたのが嘘のようなスピードで増えていく。

 一時間ほど練習を重ね、ロベルトはようやく六面のシールドブロックを作ることが出来た。


 それからロベルトは夢中でシールドブロックを積み重ねていった。

 シールドブロックで階段を作りながら、ちょっとした展望台のような建築物を作った。

 不恰好だがロベルトは満足していた。

 初めての建築物。

 ダンジョンを一望出来る空中展望台。

 気分が高まり胸が躍る。

 ロベルトは興奮で高まる身体を落ち着かせ、完成した階段をゆっくりと上がってみる。


 シールドブロックはカツンカツンと小気味良い音を響かせ、一歩一歩、噛み締めるように階段を登っていく。

 半透明のシールドブロックを見下ろせば足元は地面とかけ離れ宙に浮いてる感覚だ。


 思わず口から「うおースゲー」と声が漏れた。


 ロベルトは自分でもニヤケているのが分かっていた。

 地面から十メートルほど高さに作った展望台の最上部にて、しばし景色を眺める。

 気分は最高だった。



 だが、そんな至福の時も束の間。

 ロベルトが突然「ぐぬぉぉぉぉぉ」と叫ぶ。



 突然の悲鳴。

 理由は単純な事だった。

 シールドブロックの魔力が切れてブロックが消失したのである。

 それ故、ロベルトの足元を支えるシールドブロックが無くなり落下したのであった。


 ロベルトは結局、上手く着地出来ずに大の字で地面にダイブした。


「おいたん、魔力切れ気をつけないとー」

「そうそう!でも上手になった!」

「ガハハハハ、シールドブロックすげぇ!空を歩いてる気分だったぜ!」

「でしょー!おいたんおいたん。何して遊ぶ」

「おう!さっき沙希ちゃんが言ってた空中散歩しようぜ!」


 三人は楽しそうに笑いながらポンッポンッとシールドブロックを作って再び遊び始めた。




 一方。

 沙耶はというと別行動で周辺にいる魔物を倒していた。


 これには理由がある。 


 それは沙耶がいつも世話をして貰っている友人にプレゼントをしたいと三年前から考えていた品物が一つだけあった。

 かなりの貴重品。

 その品物を以前から麗奈にお願いしていたが、しかし素材が極めて希少で扱いにくく、公にし難い品物の為、麗奈自身も入手出来ないでいた。


 そして状況が変わり。


 昨日麗奈から条件次第ではその品物を渡してもいいと連絡があった。


 その条件が素材と魔石の収集。

 だから沙耶は頑張って魔物を倒しまくっていた。


 数ヶ月ぶりの運動に沙耶の息が上がる。

 というのも沙耶の大学が夏休みに入ってから怠け者の真骨頂を発揮し、ずっと晩酌ばかりしていたことが原因だろう。


 麗奈はそれらを見越して素材と魔石を集めさせていた。こうでもしないと沙耶がダンジョンに行くことはないだろうと踏んでいたのだ。


 実のところ麗奈にとって沙耶が持ってくる素材や魔石はどうでもよかった。

 それよりもこの生粋の怠け者をどうにかしたかったのが麗奈の本当の目的だった。 

 そこで沙耶に取引を持ちかけ釣れた。


 この機会を逃すと、沙耶がまた堕落の道を突き進むだろうと思っていた麗奈にしてみればしてやったり。

 沙耶が望む品物は無償で渡しても良いとも思っている。


 ちなみにこの取引。

 麗奈は素材と魔石の量や質を意図を持って指定してはいない。

 麗奈のさじ加減で収集任務が完了する取引となっている。


 麗奈の思惑にどっぷりとハマった沙耶は、

「運動した後のビールがまた美味しいのですがー。流石に今は駄目ですよね」

 と、ひとりごちりながら魔物を倒していく。


「いつも見ているロベルト兄さんの配信にお邪魔するなんて夢でも見てるのでしょうか?


 あいたたた。

 夢ではないみたいですね。良かった良かった。


 それにしても今日のロベルト兄さんも素敵でしたねー。こんな機会を与えてくれた沙希みなちゃんとれい姉に感謝です!


 むふふふふ。

 おっと思わず変な声が漏れてしまいました。今日は気をつけないといけませんね!何たってロベルト兄さんと一緒ですからね。お淑やかな私をアピールしなきゃなのです。


 むふむふふふ。

 でもでも調子に乗って帰る時に体力がなくなって、いつものように沙希みなちゃんにおんぶしてもらうのは流石に恥ずかしいので今日は気をつけなきゃですね。うんうん。


 むふむふふふふ。

 もしかしてもしかしてなのです!今日をきっかけにロベルト兄さんとお近づきになって、今度一緒にごはん食べましょうなんてことも有るかもしれません!


 むふむふむふふふふふふふ。

 ど、ど、どうしよう。どうしよう。嬉しすぎて変な笑い声が漏れてしまうのです!」


 沙耶は一人妄想の世界に足を踏み入れて、とても楽しそうだった。






 ▽▼▽






 お昼の時間帯になり沙希とみなみはシールドブロックで場所を作り、魔物狩りをしていた沙耶を呼んできて四人で昼食。


 今日のお昼は魔力をいっぱい注ぎ込んだシールドブロックを高さ十メートルのところに作り、最高の景色を眺めながら頂くことにした。


 ロベルトは鞄から弁当を取り出し、三人に配る。弁当は昨日よりも大きなサイズでコメント欄が「弁当デカすぎ」と草を生やす。


 四人は作ってくれた大輝にお礼し、いただきますをした。


「やきとりたん。トンカツ美味しい!ありがとー!」

「やきとりたん。ポテサラも美味しいよ!ありがとう」

「ははは。大輝はやきとりたんになっちまったな。うん美味い!沙耶さんどうですか?」


 ロベルトの振りに沙耶が慌てながら振り返る。


 彼女の手にはいつの間にか銀色のアルミ缶が握られていた。


「あ、あ。このから揚げ美味しいです!このから揚げにはやっぱりアレがあいますよねー。あっ!そういえば、プ、プロテイン飲まなきゃ!あー!忘れてた忘れてた。うっかりうっかり!」

「「「……」」」


 突然始まった沙耶の大根芝居。


 沙希とみなみそしてロベルトがじっとりと沙耶に視線を送る。

 そして下手な芝居を打ちながら、沙耶はおもむろにアルミ缶のプルタブに手をかけ――




 プシュ〜。 




 明らかにプロテインではない飲み物を開ける音が響く。

 それから沙耶は飲み物のラベルを隠しながらゴクゴクと一気に喉へと流し込み。




 プッハァァァァ!




 えらく満足した表情を浮かべる沙耶。

 これもまた明らかにプロテインを飲んでる様子ではない。


「美味しそう。みなみも飲みたい!」

「沙希も飲みたい!」

「あ、あ。これは大人用のプロテインだから二人はまだ早いのですよ!」

「沙耶姉、口元にビールの泡ついてる」

「え、え。嘘?!なんだついてないじゃないですか!……あ、あ。やっちゃいましたか。

 違うんです。違うんですよみなみちゃん!ノンアルコールだから、ほら見てノンアルコールって書いてあるでしょー!」

「沙耶姉は何であんな下手な芝居でいけると思ったん?」

「だってロベルトさんの前だし、なんか堂々と飲むのも恥ずかしいじゃないですかー」

「沙耶姉、大丈夫なんよ。沙耶姉の恥ずかしいところなんて、おいたん知ってるから」

「おいたんはそんな小さいこと気にしないよー?ねー、おいたん」

「おう!沙耶さん、俺本当にそういうの気にしないんでいつもどおりにして下さい!それも沙耶さんの魅力のひとつだと思いますし」


 沙耶はロベルトの言葉に胸が熱くなり涙が出そうになった。


 ロベルトを長年見続けている視聴者達も嬉しそうに「よく言った」と称えるコメントが溢れ「これがロベルトという男よ」と古参勢が誇らしそうに胸を張る。



 ロベルトの言葉に嘘はない。



 そして当の本人はロベルトを褒めるコメントを見たのか、照れ臭そうにしていた。

 その様子を見たみなみが話題を変える為にマイクラごっこの感想を聞くとロベルトは楽しそうにやや興奮しながら語り出す。


 ロベルトはシールド魔法が意外と自由度が高いことにまず驚き、形を変えられることにも驚いて、それに乗れてしまい今みたいに空中で昼食を食べていること自体想像を超えていて、とにかくビックリしているとロベルトが笑う。


「おいたん。マイクラごっこはまだ面白いことがあるんだよー!」

「え。まだあんの?」

「シールドブロックとスパイダーマンがコラボしたら――」

「うおー!まじかー絶対面白いやつだ!」

「そうそう!ちょっとマリオっぽいところもあるんだよー!」

「それ分かる!さっきシールドブロック作っている時、なんかマリオっぽいと思った」 


 楽しそうに探索者の配信らしくない会話を繰り広げる沙希とみなみ、そしてロベルト。


 沙耶はそんな三人を見ながらゴクゴクとノンアルを飲む。表情はニヤケ顔で極めて緩み、自宅でロベルトの配信を見ている時とかわらなかった。


 沙耶が時折「良きかな良きかな」と小さく呟き、楽しそうに話す三人を眺める。

 沙耶は昔から好きだった――

 沙希とみなみが楽しそうに遊んでいる姿が。

 二人並んでゲームしている時や、ふれあい広場で遊んでいる時。沙耶はそれを眺めているのが大好きであり、癒やしでもあった。


 実家を離れて三年。


 久しぶりに見た沙希とみなみの楽しそうな姿。

 そんな沙希とみなみに加えて大好きな探索者のロベルトが一緒という奇跡。


「おっと、飲み物がもうありませんね。さてさて追加補給をしましょうかねー!」


 ぼそりと沙耶が呟く。

 三人は話に夢中で沙耶の呟きに気がついてないようだった。

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