前払い
一瀬が三条の家を出て二時間は経っただろうか。三条は伊澄にメッセージを送って、リビングのテーブルに突っ伏していた。
暫くして、伊澄から返事が届く。
『30分待って』と、短いものだった。
三条は二人分の食器や箸を洗った後、シングルライダースに袖を通し、黒のチェルシーブーツを履いて玄関を出た。そして、バイクに跨り伊澄の自宅へと走り出した。
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「政宗ごめん、お待たせ」
玄関から慌てて伊澄が出て来た。
「いや、今来たとこ」そう言い、伊澄にヘルメットを差し出す。
「出かけるのはいいけど、何処行くのよ」
伊澄はヘルメットを被り、三条の後ろに乗る。
「前に漫画描くのに参考にしたいからって、写真送ってくれただろ?」
「──…。」どの写真だと、過去を思い返し「まさか、アフタヌーンティー!?」驚きの声を上げる。
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二人はバイクを降り、店内に入る。三条が事前に予約をしていた為、すんなり席へ案内された。
二人はメニューを確認し、注文をする。暫くしてき紅茶が提供され、二人分のフードが運ばれてきた。
「生で見るとやっぱおしゃれだな」
三条は写真を何枚か撮りながら、感動していた。
「アンタ今、アタシの事も撮らなかった?」
「可愛いから撮った」
三条が真顔でサラリと言いのけるのに対して伊澄は、「ちょ、いいから消しなさいよ」三条の手からスマートフォンを取り上げようとする。
「伊澄だって俺の事撮ってるだろ」
「いやまぁそうだけど」
「ならいいじゃん」
三条はそう言いながら、構図を確かめるように一歩引いた。再びスマートフォンを伊澄に向けている三条を、伊澄はそのままスマートフォンで撮影した。
「え、何で今撮った」
「面白いから」
二人はスマートフォンを仕舞う。それから紅茶を一口、喉に流し込み、下段のサンドイッチを齧った。
「伊澄、急なのに昨日はごめんな。ありがとう」
三条は化粧とウィッグについて、改めて礼を述べる。
「あの時間たまたま予約入ってなかったから、別にいいわよ。で?」
「で?」
「マジでホストクラブ行ったわけ?」
サンドイッチを食べ終え、伊澄はキッシュを皿に移し、フォークで口に運ぶ。
「行ったよ。全体が煌めき過ぎて、男の俺ですらドキッてした。あれは最早異世界。路地裏で助けたお兄さんにも会えたし」
「へぇ、その人ホストだったのね」
咀嚼していたキッシュを飲み込み「そ、ビックリ」短く返し、再びキッシュを口に運ぶ。
話が進むにつれ、フードも全て食べ終わり、残りの紅茶を味わっていた。
「伊澄、タイミング悪いけど、これ」
三条はショルダーバッグから小さな包みを取り出し、伊澄に渡す。
「え、何これ」
「今日誕生日だろ。だから、好みそうなの選んだつもりだけど、気に食わなかったら捨ててくれ」
毎年誕生日プレゼントを渡していても、やはり異性への贈り物は悩ましいものだった。現在恋愛漫画を連載しているが、そういった場面は、伊澄に訊いたり学生時代を思い返してはいるが、やはり不安が募るばかりだ。
「開けてもいい?」
「ああ、いいよ」
小さな包みを開ければ、中身は黒銀色の小さなピアスだった。細いチェーンの先に、控えめな月のモチーフが揺れている。
主張はしないのに、ちゃんと目を引くデザインだった。
「可愛い!結構アタシ好みだから嬉しいわ。政宗ありがとう」
三条の選択は間違っていなかったようで、伊澄は目を輝かせていた。
「なら良かった」
喜んで貰えて安堵したのか、内心で息を吐いた。
二人は席を立ち、三条は二人分の会計を済ませ店を後にした。




