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初恋泥棒のホスト様  作者: 男鹿七海
5/8

前払い

 一瀬が三条の家を出て二時間は経っただろうか。三条は伊澄にメッセージを送って、リビングのテーブルに突っ伏していた。

 暫くして、伊澄から返事が届く。


『30分待って』と、短いものだった。


 三条は二人分の食器や箸を洗った後、シングルライダースに袖を通し、黒のチェルシーブーツを履いて玄関を出た。そして、バイクに跨り伊澄の自宅へと走り出した。


 ★


「政宗ごめん、お待たせ」


 玄関から慌てて伊澄が出て来た。


「いや、今来たとこ」そう言い、伊澄にヘルメットを差し出す。


「出かけるのはいいけど、何処行くのよ」


 伊澄はヘルメットを被り、三条の後ろに乗る。


「前に漫画描くのに参考にしたいからって、写真送ってくれただろ?」


「──…。」どの写真だと、過去を思い返し「まさか、アフタヌーンティー!?」驚きの声を上げる。


 ★


 二人はバイクを降り、店内に入る。三条が事前に予約をしていた為、すんなり席へ案内された。

 二人はメニューを確認し、注文をする。暫くしてき紅茶が提供され、二人分のフードが運ばれてきた。


「生で見るとやっぱおしゃれだな」


 三条は写真を何枚か撮りながら、感動していた。


「アンタ今、アタシの事も撮らなかった?」


「可愛いから撮った」


 三条が真顔でサラリと言いのけるのに対して伊澄は、「ちょ、いいから消しなさいよ」三条の手からスマートフォンを取り上げようとする。


「伊澄だって俺の事撮ってるだろ」


「いやまぁそうだけど」


「ならいいじゃん」


 三条はそう言いながら、構図を確かめるように一歩引いた。再びスマートフォンを伊澄に向けている三条を、伊澄はそのままスマートフォンで撮影した。


「え、何で今撮った」


「面白いから」


 二人はスマートフォンを仕舞う。それから紅茶を一口、喉に流し込み、下段のサンドイッチを齧った。


「伊澄、急なのに昨日はごめんな。ありがとう」


 三条は化粧とウィッグについて、改めて礼を述べる。


「あの時間たまたま予約入ってなかったから、別にいいわよ。で?」


「で?」


「マジでホストクラブ行ったわけ?」


 サンドイッチを食べ終え、伊澄はキッシュを皿に移し、フォークで口に運ぶ。


「行ったよ。全体が煌めき過ぎて、男の俺ですらドキッてした。あれは最早異世界。路地裏で助けたお兄さんにも会えたし」


「へぇ、その人ホストだったのね」


 咀嚼していたキッシュを飲み込み「そ、ビックリ」短く返し、再びキッシュを口に運ぶ。


 話が進むにつれ、フードも全て食べ終わり、残りの紅茶を味わっていた。


「伊澄、タイミング悪いけど、これ」


 三条はショルダーバッグから小さな包みを取り出し、伊澄に渡す。


「え、何これ」


「今日誕生日だろ。だから、好みそうなの選んだつもりだけど、気に食わなかったら捨ててくれ」


 毎年誕生日プレゼントを渡していても、やはり異性への贈り物は悩ましいものだった。現在恋愛漫画を連載しているが、そういった場面は、伊澄に訊いたり学生時代を思い返してはいるが、やはり不安が募るばかりだ。


「開けてもいい?」


「ああ、いいよ」


 小さな包みを開ければ、中身は黒銀色の小さなピアスだった。細いチェーンの先に、控えめな月のモチーフが揺れている。

 主張はしないのに、ちゃんと目を引くデザインだった。


「可愛い!結構アタシ好みだから嬉しいわ。政宗ありがとう」


 三条の選択は間違っていなかったようで、伊澄は目を輝かせていた。


「なら良かった」


 喜んで貰えて安堵したのか、内心で息を吐いた。

 二人は席を立ち、三条は二人分の会計を済ませ店を後にした。



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