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初恋泥棒のホスト様  作者: 男鹿七海
3/6

嘘と煙

「ねぇねぇ妹ちゃんはさ、どうやってこの店知ったの?」


 零の問いに、三条の指先がグラスの縁で一瞬止まった。氷が小さく音を立てる。その僅かな間に、頭の中で必死に言い訳を組み立てる。


「……えっと、街で写真見て。たまたま、通りがかって」できるだけ自然に、少し照れたように笑ってみせる。


 零は「へぇ〜」と相槌を打ち、写真の並ぶ外観を思い出したように頷いた。「龍夜の写真、目立つもんね。あれ見たら入りたくなるの分かるわ」


「……だろ?」


 不意に龍夜が口を挟む。グラスを持つ手元は落ち着いているが、視線はちらりと三条を掠めた。


(何かお兄さんの後ろに般若が見える…)

 三条はウイスキーをもう一口含み、喉を潤す。アルコールが背中を押してくれる気がした。

「それに……」少し声を落として続ける。「怪我してた人が、ここで働いてるって知って。気になって」


 一瞬、空気が止まった。


 零が「あっ」と声を上げる。「なにそれ、ドラマじゃん!」


 快斗も目を輝かせる。

「それは……運命的ですね」


「運命とか言うな」


 龍夜は苦笑しつつ、煙草を取り出しかけて、店内だと思い出したのか手を止めた。代わりに指でグラスを軽く叩く。


「……その怪我人、心配してくれたんだ?」


「うん」三条は小さく頷く。「放っておけなかったから」


 それは嘘じゃない。唯、“妹”として言っているだけで。

 龍夜は暫く黙り込み、やがて柔らかく笑った。


「優しいんだな」


 その言葉に、胸の奥がちくりと痛む。でも、あの朝の男を放っておけなかったのも、ここに来てしまったのも、全部本当だ。

 零が空気を変えるように手を叩いた。


「よーし!じゃあ今日は妹ちゃん歓迎会だな!龍夜、ちゃんとエスコートしろよ〜」


「言われなくても」


 龍夜は立ち上がり、三条のグラスに目を落とす。


「次、何飲む? 流石に同じのはキツいだろ」


「……じゃあ、水割りで」


 龍夜は一瞬だけ驚いた顔をしてから、楽しそうに笑った。


「分かってきたな」


 グラスを受け取る指が、ふと触れ合う。その一瞬、龍夜の視線が鋭く三条を捉え、小声で低い声が落ちてくる。

「──後で、話そうな」


 三条は小さく息を呑み、それでも“妹”の笑顔を崩さずに頷いた。


「うん」


 ──嘘は、煙みたいだ。

 吸い込めば誤魔化せるけど、いつか必ず、目に染みる。

 三条は水割りのグラス越しに、龍夜を見つめた。

 この夜が、唯の取材や気まぐれで終わらない事を、もう自分でも分かっていた。



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