燻り火
一瀬は仕事を終え、店の外に出た。すると、そこに人影が一つ。もう見慣れた光景と顔だった。
「何やってんだ、こんなとこで」
「お兄さんの事待ってた」煙草の火を消してから、手に持っていた袋から、封筒と細長い包みを手渡す。「看病、してくれてありがとう。これ、食費代」
「は?要らねぇよ」一瀬は封筒を三条の胸に押し付け突っ返す。
三条は財布を取り出し、無言で札を一枚ずつ追加していく。
「待て、何してんだ」
「お兄さんが受け取ってくれるまで、手は止めねぇから」
札を封筒に入れる手は止まらない。
何時の間にか二枚ずつになっているのを見て、一瀬は三条の手首を掴んだ。
「分かったから、そういうのやめろ!」三条から封筒を奪い取り握りしめる。「金で看病した覚えはねぇんだよ」
一瀬は三条を睨み据えたまま、低く続ける。
「お前、まだ俺に好きかもって気持ちあるなら、ホストの俺は金で買えても、一瀬辰樹を金でどうこうしようとすんな」
「!」胸がドキリとし、目を一瞬見開いた。「ごめん、悪ふざけしすぎた。でも、迷惑かけちゃったし」
「…チッ」
手首を掴み止められてなければ、所持金を封筒に突っ込まれていたかもしれない。舌打ちだけが漏れた。
「後、こっちは誕生日プレゼント、です」
「何で知ってんだ」
「今日──もう昨日か、美人なお姉様方が店先で龍夜の誕生日だって言ってるの聞こえて」
「ああ…」
「お兄さんのイメージカラーと、似合うの探したけど、好みじゃなかったら捨ててくれていいから」三条は細長い包みを指先で軽く持ち上げて、差し出したまま動かなくなった。さっきまでの強引さが嘘みたいに、距離の取り方だけは妙に慎重だ。
「……高いもんじゃねぇから」
先に言い訳を置いてしまうのは癖だった。期待されるのも、外れるのも、どちらも怖い。
一瀬の反応を待つ間、三条は包みから目を逸らす。似合うと思ったのは本当だ。でも、それを自分が選んだという理由だけで、価値が落ちる気がしてならなかった。
「気に入らなかったら、ほんと捨てていいから。俺の見る目なんて、あてにならねぇし」
一瀬は無言で受け取った。その無言は、三条にとって余計に評価を下げさせた。
「──お前にしちゃあ悪くねぇんじゃねぇの。ありがとう」
三条はほんの一瞬、息を呑んだ。自分の選んだものが、こんなにも素直に受け入れられるなんて。普段なら、「どうせ外れる」とか「迷惑かも」とか、先に頭の中で断りを入れてしまう癖が出てしまうのに、今は目の前の笑顔が、そんな迷いを軽々と押し流してくれた。
胸の奥がじんわり温かくなり、思わず小さく笑う。視線をそらしたくなる気持ちを押さえながらも、確かに、喜んでもらえたんだ──自分でも意外なくらい、素直に嬉しかった。




