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初恋泥棒のホスト様  作者: 男鹿七海
16/20

残熱

 目を開けると、そこは一瀬の自宅だった。

 あの後の記憶は途切れていて、どうやらまた眠ってしまったらしい。前髪が目にかかる。ウィッグは外され、素肌に触れる指先には何も残らなかった。


「──お兄さん、あの、さっきはその、ごめん」


 その声は、いつもよりずっと近くで聞こえた。

 前髪の隙間から覗く素顔は、見慣れない程無防備だった。謝りながら、三条は自分でも理由のはっきりしない後悔に戸惑っている。

 好きと言った筈なのに、それが正解だったのか、自信が持てないみたいだった。


「酔っ払いの戯言だ。気にしてねぇ」


 その言葉は、一瀬自身にとっては軽い一言にすぎないかもしれない。でも、二ヶ月前の出来事を覚えている三条には、まるで一瀬自身が心に刃を突き刺しているように見えた。


「アハハ、だよねー。男から言われても迷惑だよね」


 一瀬は何も答えなかった。


「でも、俺は本当にお兄さんの事好きかもだから」


 今度は素面で、一瀬の目を見た。

 逃げ場を探さないように。


「お前、俺がああ云ったのに、神経図太ぇ野郎だな」


 一瀬の声音は、最初から変わらなかった。怒りも戸惑いもなく、唯線を引くだけの平坦さ。

 冗談として流した、それで終わりのつもりだった言葉を、三条だけが掘り起こし、意味を与えようとしている。

 その執着が理解出来なくて、厄介で、だからこそ――思わず本音が口をついた。




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