残熱
目を開けると、そこは一瀬の自宅だった。
あの後の記憶は途切れていて、どうやらまた眠ってしまったらしい。前髪が目にかかる。ウィッグは外され、素肌に触れる指先には何も残らなかった。
「──お兄さん、あの、さっきはその、ごめん」
その声は、いつもよりずっと近くで聞こえた。
前髪の隙間から覗く素顔は、見慣れない程無防備だった。謝りながら、三条は自分でも理由のはっきりしない後悔に戸惑っている。
好きと言った筈なのに、それが正解だったのか、自信が持てないみたいだった。
「酔っ払いの戯言だ。気にしてねぇ」
その言葉は、一瀬自身にとっては軽い一言にすぎないかもしれない。でも、二ヶ月前の出来事を覚えている三条には、まるで一瀬自身が心に刃を突き刺しているように見えた。
「アハハ、だよねー。男から言われても迷惑だよね」
一瀬は何も答えなかった。
「でも、俺は本当にお兄さんの事好きかもだから」
今度は素面で、一瀬の目を見た。
逃げ場を探さないように。
「お前、俺がああ云ったのに、神経図太ぇ野郎だな」
一瀬の声音は、最初から変わらなかった。怒りも戸惑いもなく、唯線を引くだけの平坦さ。
冗談として流した、それで終わりのつもりだった言葉を、三条だけが掘り起こし、意味を与えようとしている。
その執着が理解出来なくて、厄介で、だからこそ――思わず本音が口をついた。




