再点火
その頃の三条は、もしかしたらホストクラブに行くかもしれないと、伊澄に教えてもらった通りに首も含め化粧をして、久しぶりに女装姿で外に出た。
タイミングが良いのか悪いのか、たまたまアフターで女の子と別れたばかりの零に出くわしてしまう。
三条はほぼ二ヶ月、必要な買い物以外で外出はしていなかった。当然零と会うのもほぼ二ヶ月振りとなる。
「あれ〜妹ちゃんじゃん!久しぶり!」
零は三条に気付き手を振ってきた。
「(げ、まさかこんな所でキャストに出くわすなんて)零さん、久しぶりですね」
対して、三条は軽く手を上げる。
「最近来ないから寂しかったよ」
「すみません。行こうとは思っていたんですけど、ちょっと仕事が立て込んでいたので」
適当な言い訳でなく、自身の漫画制作以外にも依頼があり、本当に仕事が立て込んでいたのだ。
「うわ、そりゃ大変だったね。立ち話もなんだし、どっかカフェにでも入ろっか」
零の提案で近くのカフェに入る事となった。一瀬以外のキャストと二人きりになるのはこれが初めてだ。
「そんな大変な仕事な感じ?」
「大変というか、読み続けてくれるファン、新たな読者に読んで良かったって思えるものを届けたいので」
「へ〜。ちゃんと考えてて偉いね」 零は子犬を撫でるかのように、三条の頭を撫でる。
「!」
身内以外の同性に頭を撫でられたのは、これが初めてで開いた口が塞がらなかった。
「ハハ、妹ちゃん可愛いね」
「…からかわないで下さいよ」 頭を手で抑えながら、三条は苦笑気味に言う。
「いや、本当に可愛いなって」
注文して運ばれてきた珈琲を、一口含み口を開く。「あ、あの、零さんに一つ訊きたいんですけど」
「ん、何々?」
「プライベートな話なんですけど、零さんと龍夜お兄ちゃんって一緒にお酒飲んだ事ありますか?」
「何回もあるよ。龍夜ん家で飲んだ事もあるし。それがどうしたの?」
いくら零相手でも訊きづらいと思いつつ、思い切って尋ねる。
「いや、あの…龍夜お兄ちゃんって、お酒ざるなのは知ってるんですけど、次の日記憶無いのかなぁって」
「あー…ハハ」半笑い気味に話を続ける。「酒飲んだ事は覚えてるんだけど、会話とか何してたかまでは覚えてないみたいだよ」
何時も通りの顔で過ごしていたわけでなく、本当に覚えていなかったんだな、と、三条は思った。




