十二話 決別
直道の部屋を飛び出した春は、闇夜ををただ一心に駆けていた。
直道は、春にとって、この二年間、唯一の理解者であり、秘密を共有するかけがえのない存在だったはずだ。彼の優しさに何度も救われ、その傍らにいることが、何よりも自然なことだと思っていた。しかし、今、直道から向けられた感情は、泥のように重く、熱いものだった。良き理解者だと信じていた彼の奥底に、自分に向けられた、こんなにも激しい『想い』があったことを、春は初めて知った。
春の心には、これまで感じたことのない種類の混乱が広がっていた。直道が自分に抱いていた感情...
なぜそれが今、これほどまでに制御不能な形で噴出したのか。そして、自らの秘密の全てを知ってしまった直道が、これからどうなるのか。その全てが春の心を重く支配し、どこにも行き場のない深い不安だけが残った。
もう直道とは、これまでのように心から笑い合うことはできないのかもしれないという絶望的な予感が、春の全てを覆い尽くす。紫雲、そして心を許せる静も傍にいない今、直道さえも春のもとから去ってしまうのではないかという孤独が、春を苛んだ。
「うう…ああ…!」
この夜、春は物置小屋の暗闇の中で、声を殺して一晩中泣き続けた。その涙は、恐怖と、失望と、そしてどうしようもない孤独の証だった。