うさぎの妖精さん 〜うふとえっぐの休日〜
ここは、妖精さんが住む島。
お空にぷかぷか浮いていて、島にはお星様の形をしたお花がゆらゆら揺れて、ハートの形をした木の実がなっていたり、綿菓子のような雲が浮いていたり。
そんな島に住む妖精さんたちは、色や形が違っていても、みんなウサギのように長いお耳が生えている。
お手伝い妖精として、誰かのお手伝いに向かう。
ありがとうの気持ちを受け取る事が、何よりも嬉しい妖精さんたち。
気が向いた時、誰かのお手伝いをしに、島の真ん中にある湖に飛び込んで、困っている人を助けに行く。そんな生物がここに暮らしている。
とある妖精さんたちは、のんびりと島で過ごしていた。
ひょろんとしていて、全身ピンクなうさぎ耳の妖精さん『うふ』
卵型ボディにうさぎ耳がある妖精さん『えっぐ』
仲良しなふたりは、今日ものんびり遊んでいる。
お手伝いが嫌いなわけじゃない。
お手伝いから帰ってくると、卵に包まれて妖精さんは眠るのだ。その眠りから覚めたのが一昨日である彼らは、少しの間のんびり過ごす。
「あったかーい」
「だね、お日様ぽかぽか」
ひなたぼっこだ。
うふはひょろんとした体をうーんと伸ばして、体いっぱいにお日様の温もりを受ける。
えっぐはちょこんと座って、丸い卵型ボディにお日様をあてる。
――ぐうぅぅ
「「おなかすいたね」」
見合って笑う。
えっぐのおうちに帰って、ふたりでご飯を作り食べる。
パンにたっぷりのオレンジジャムを塗り、はむっとかぶりつけば、爽やかな柑橘の香り、香ばしい小麦の香り、そのふたつが鼻から抜けて、次のひと口をまた食べたくなる。
「このスープ、不思議な香りがするね!」
うふが初めて食べる味のスープに、びっくりしつつも独特な香りを楽しんでいる。
「うん、前にお手伝いに行ってきたところで、桜の花と葉っぱの塩漬けをもらったんだ」
妖精さんたちはお手伝いした時、ありがとうの気持ちを貰えば満足なのだが、中にはお礼の品をくれる人もいて、気持ちと共にありがたく受け取る。
そのひとつを使って、新しいスープをうふに振舞ったえっぐ。
「さくらっておいしいんだね!」
「スープ自体は、じゃがいもと赤かぶだけどね」
桜のスープという名前で教えてもらったレシピ。
桜の塩漬けを少し入れることにより、いい香りが鼻から抜ける。
お腹がじんわりと温まる、ミルクベースのスープ。
「ところで、桜ってなぁに?」
うふは体を大きく傾けて、えっぐに質問を渡す。おそらく首を傾げているであろう動作だ。
「えっとね……うふの体みたいな色をしたお花が咲く木」
「へー。島のお花じゃないのに、美味しいんだね〜」
「そのまま食べても、美味しくなかったけどね」
桜のお話を聞いたうふは、桜が見たくなるものの、島には桜の木がない。
「「ごちそうさまでした」」
うふの作ったパンをえっぐが褒めて、えっぐの作ったスープをうふが褒める。
お互い「えへへへ」と照れて笑い合いながら、ご飯の後片付けを一緒にやった。
食後のティータイム。
乾燥した桜の葉が入った茶葉で淹れた桜ティー。
桜の香りが、ふんわりと部屋を包んでいるような気分になる。
「うーん、どうしたら桜に会えるかなぁ」
「困っている桜がいれば会えるけど、困り事って植物より生物の方が多いんだよね」
お手伝い妖精さんとして、いろんな困り事を助けてきたうふとえっぐ。
困っている人を助けることが多く、動植物の困り事を聞くことは滅多に無い。
「いつか、桜に会えるといいなぁ」
桜が気になるうふは、夢見がちに頬を染めながら、しみじみと言葉を落とす。
「でも、桜が困っているのは嫌だなぁ」
ハッと思い直すうふ。困っているものの助けにはなりたいけれど、困っているものがいてほしいわけではない。
えっぐも同じ気持ちなのか、卵型ボディがポヨポヨ沈む。おそらく頷いている。
「いつか、誰かのお手伝いをしたときに、桜を知っている人がいたら教えてもらうといいよ」
「うん、そうする〜」
いま無いものは仕方ない。
のんびり待つことに決めたうふ。
あたりはすっかり暗くなって、空には星が輝いていた。
「ふぁ……」
「はふぁ……」
大きなあくびが、うふの口からこぼれる。
えっぐもつられて、あくびが出てしまう。
「眠たくなっちゃったから、帰るね〜」
「うちで寝なよ」
「ありがと〜、そうするね〜……ふぁ〜」
目が沈んできているうふを、このまま帰したら木にぶつかりながら歩きそうだ。
うふの眠気は強烈で、木にあたっても転んでも、途中で目を覚ますことはない。
むしろ転んだら、そのまま地面に突っ伏して寝てしまうだろう。
それなら自分の家に泊めたほうが、心配せずに済むのでえっぐはうふをベッドへ連れて行く。
ぽふっと敷布団に身を預けると、うふはすぐに寝息を立てた。
すやすやと気持ちよさそうに眠るうふの寝顔は、えっぐの眠気も誘う。
えっぐは部屋の明かりを消してから、ベッドに潜る。
「おやすみなさい、また明日」