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第37話 悲劇を喜劇に

「グレイ・ブラッドレイ!!」


 憤怒の形相を浮かべたセルヴィス・ギルモアは、俺の目の前で立ち止まった。

 そして、断罪するかのように俺に人差し指を突きつけて、怒りのこもった声を会場に響かせる。


「貴様、自分がいまどこで、何をしているのか分かっているのか!?」 

「もちろん。ディアナイツの場で全校生徒に向かって、アシュレイに対する愛を叫ばせてもらいましたけれど」

「クズが! それをふざけていると言っているんだ!」


 セルヴィスは血走った目を向けて、そう叫んだ。


「時と場所を弁えずに勝手に婚約を宣言しただけでなく、学院を退学させて連れ去るだと!? ふざけるな!! 即刻、アシュレイのそばから離れろ!」


 怒鳴り声が会場中に響き渡り、セルヴィスの声に同調するかのようなざわめきが会場に広がる。

 セルヴィスは、勢いそのままに、口汚く俺の言動を罵りつづけた。


 一方の俺はというと。


「うん、まあ確かに。全部あんたの言うとおりだね」


 そんなセルヴィスの指摘をあっさり肯定してやった。


「相手の都合も考えないで、無理やり婚約宣言しちゃうのも最低だし——」


「権力にまかせて、その話を当事者不在で強引に進めちゃうのも外道だし——」


「あまつさえ、お相手の今通ってる学校を無理やり退学させちゃうなんて、本当に鬼畜の所業だね」


 指折りしながら、言葉を継いでいく。


「公爵貴族のセルヴィスさんよ、あんたの言うとおり、そんなことする奴は、貴族どころか、人間のクズだよね。人類の平和のためには早いところ死んだほうがいいと思うよ」


 俺はにっこりと笑った。

 場違いなほどに涼しい顔で。


「でもいいんだよ。だって俺、悪役貴族だし」

「貴様、開き直るつもりか!?」

「大胆な開き直りは、悪役貴族の特権☆彡」

「このクソが、いい加減に——ッ!」


 ついにセルヴィスの堪忍袋の緒がプッツンしたらしい。

 セルヴィスは片手を伸ばし、俺の制服の胸ぐらに掴みかかろうとする。

 俺はひらりと身をよじって、その手をかわした。


「きゃーこわーい、ぼうりょくはんたーい」

「巫山戯るのもいいかげんにしろ! ただで済むと思うなよブラッドレイ!?」


 俺はニヤニヤと、人の神経を逆なでする表情を作りながら、セルヴィスを見つめた。


「つーかさ、セルヴィスさん。部外者が口を出さないでくれません?」

「なんだと!?」

「だってそうでしょ? この婚約の問題は、俺とアシュレイの個人的な問題だ。アンタはなんの関係もない部外者でしょうが。それをさっきから何様ですか?」


 わざとらしく肩をすくめながら、言葉を続ける。


「もしかして、これが噂に聞く()()()()()()()()()()()()ってヤツ? こっちはBLだけでお腹いっぱいなんだからBSSまで混ぜるのはやめましょうよ、ジャンルがぶれますんで」

「き、きさま……! きさまきさまきさま……!! 何をわけのわからないことを抜かす……!!」


 セルヴィスの顔が、赤いのを通り越して、青ざめてきた。


「——それともなに、部外者じゃないっていうの? そうなら首をつっこんでくる理由をちゃんと説明してちょーだいよ。オタクはアシュレイのなんなのさ?」

「ぼ、僕は——ぐっ!」


 セルヴィスは言葉に詰まる。

 ははっ、そりゃ言えねえよな。


 本当は自分がアシュレイの婚約者で。

 自分本位で婚約宣言したのも。

 相手の弱みを突いて婚約を迫ったのも。

 自分勝手な理由で婚約時期を早めて、退学に追い込もうとしているのも。



 全部、テメエがアシュレイにしたことだもんなァ!?



 腹の中に込み上げてくるのは、煮えたぎるような怒りの情念。

 震えるくらいにきつく拳を握りこんで、無理やりそれを抑え込んでから、口元には涼しい微笑を浮かべて道化を演じ続ける。


「ああわかった! 公爵貴族としての義憤と責務に突き動かされて、アシュレイくんを助け出すために名乗り出てくれてんですね!? 流石セルヴィスのアニキ! ご立派です! 感激です! まさに貴族の鑑! よっギルモア家、日本一!」


 俺は両手を広げて、わざとらしく拍手する仕草を見せた。

 それから、一歩セルヴィスのもとに近寄ると、その目をまっすぐ見据える。


「それじゃあ、俺も答えてあげないといけませんね」


 俺はそう言うと、手にしていた手袋を外して、セルヴィスの足元に投げ捨てた。


「拾えよ、セルヴィス・ギルモア」


 セルヴィスは、まず俺の投げ捨てた手袋に視線を落とし、それから俺の方に引き戻すと、震える声でつぶやいた。


「貴様……自分が何をしているのかわかっているのか?」

「もちろん」


 会場全体が凍りついたような静寂に包まれる。


 相手の足元に、自分の手袋を投げつける行為。

 これは貴族社会で古く、野蛮な——だからこそ、最も分かりやすい意思表示のひとつ。


 互いに譲れぬ一線を超えたときにしか用いられない、最終手段。


「決闘…………?」


 誰かのつぶやきが、会場にぽつりと落ちる。

 それを拍子に、弾けるようなざわめきがあちこちから巻き起こった。


「おい、決闘の申し込みだぞ……!」

「ディアナイツで……!?」

「しかも相手は公爵貴族って……」

「あいつ、何考えんだ……!?」


 セルヴィスは、俺の投げ捨てた手袋を凝視したまま、言葉を失っている。

 俺はじろりとギルモアを見つめ、言葉を続けた。


「セルヴィス・ギルモア。俺は尊き血族の古き儀法に沿って、アンタに決闘を申し込む。俺がアンタに勝ったら——金輪際、アシュレイに近づくな」

「貴様…………」

「その代わり、アンタが俺を負かしたら、アンタの言う事を何だって聞きますよ」


 そう言って、ニヤリと口角を上げた。


「さあ、拾ってくれますよね? 貴族の婚約話にケチつけてんだ。あんたも貴族なら……いや、男なら、覚悟見せてくださいよ?」


 俺の挑発に、セルヴィスの拳が小さく震えた。


「クズの戯れに付き合っていられるか!」

「え? セルヴィス様、もしかして逃げるんですか?」

「虫けらの挑発にのるなど、我がギルモア家の格を貶めるだけだ!!」


 セルヴィスは震える声を絞り上げるように叫ぶ。


「へえー。ほいほい、挑発に乘ってくるかと思いきや、意外と冷静ですねセルヴィスさん。……いや、やっぱり臆病といったほうが正しいのかな?」

「クズが! 好きにほざいていろ!」

「だけどさあ、アンタ、本当にそれでいいの? 決闘で白黒つけなきゃ、俺は力ずくでアシュレイのことを奪い去るし、それになにより……観衆の反応を見てみ?」


 そう言って俺は顎でしゃくる。


「おい、どっちが勝つか、賭けたら面白いんじゃないか?」


「バカ、セルヴィスは公爵貴族、ブラッドレイは魔法もろくに使えない落ちこぼれだろ? 賭けにならないさ」


「ふん……マギナの落ちこぼれが、ウルザのエリートに楯突くなど、身の程知らずも甚だしいな」


「あれ……でも、この前の課外授業でアルカナコインを手に入れたのって……」


「何かの間違いだろ。奇跡は何度も起きないよ」


「なんにせよ、面白いショーが見れそうだな」


 会場のあちこちから聞こえてくるのは、俺とセルヴィスの決闘を期待する声。


「セルヴィスさん……このとおり俺とアンタの決闘は、観衆オーディエンスにとっちゃ決定事項みたいなものなんですよ。いいの? この状況で決闘を受けるのを拒んだら、アンタ尻尾を巻いて逃げ出した負け犬ワンちゃんになっちゃうけど?」

「なん……だと……」


 俺は片眉を上げて、さらに一歩、セルヴィスににじり寄った。


「それでも俺と戦うのが怖いなら……いいぜ? こっちが売った喧嘩だからな。決闘の条件はそっちが好きに決めてもらって構わない」


 そして、ダメ押しと言わんばかりに挑発の言葉を重ねる。


「それとも、セルヴィスぼっちゃまは、ママとパパに相談しないと決められない赤ちゃんなんでちゅか〜?」


 徹底的にセルヴィスをおちょくった俺の言動に、観衆のどよめきがさらに大きくなる。


 セルヴィスは歯ぎしりをしながら、その場に立ち尽くす。そして、弾かれたように顔をあげた。


「おい! 生徒会!! いつまでこのクズの茶番を許すつもりだッ!?」


 セルヴィスは会場に向かって叫ぶ。


「この男は明らかにディアナイツの進行を妨害している! この式典の主催はお前ら(生徒会)だろう!? はやくこの害虫をつまみだせ!」


 セルヴィスは、この会場のどこかに控えているであろう生徒会の役員たちに向かってそう叫んだ。


 ……あーあ、心底情けねえ。

 ここまでお膳立てしてやってるのに、あくまでも他人の力にすがろうとするわけ?

 こいつどこまでプライドないの?

 公爵貴族ってのはこんな腰抜けの雑魚ばっかりか?


 とはいえ、この期に及んでセルヴィスが挑発に乘ってこないのは俺としても予想外だった。

 なにせ、俺が語っているアシュレイとの婚約なんて話は、なんの裏付けもクソもない、ただのホラ話なのだ。

 だから、今この場で決闘までたどり着けなかった場合……俺の計画は破綻してしまう。


 ——ちっ、次の一手を考えるしかねえ。


 俺がそう心の中で舌打ちした矢先。


「——その裁定、僭越ながらこの僕が引き受けよう」


 会場に、凛とよく通る声が響いた。

 俺は声のした方に視線を向ける。

 俺だけじゃない、会場の誰もの視線が、その声の主に吸い寄せられた。


 視線を一身に浴びながら悠然と佇むのは、一人の男子生徒だった。


 モデルみたいな長身に、金髪碧眼。

 身にまとう制服の胸元に飾られたエンブレムにより、ウルザクラスの三年生であることが分かる。


 口元に微笑を浮かべて佇むその姿は、一見するとただの優男だ。


 けれど、その瞳に宿っているのは、まるで全てを見透かしているかのような、冷静で底知れぬ知性。

 そして、騒然としていた会場を一瞬で静まり返らせることのできる、支配者としてのカリスマだった。


 俺の口から、独り言のように、その生徒の名前がこぼれ落ちる。


「……アレクサンダー、先輩」


 背景に、薄紅色のダリアの花を溢れんばかりに咲かせながら。

 俺たちの前に立ったのは、ユースティティア学院生徒会長、アレクサンダー・シチュアートだった。





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