第31話 違う世界
式典自体は、退屈そのものだった。
エルサゲート校長を始め、副校長や、王族代理、元老院代表などなど……いかにも偉そうな肩書を持った人たちが次々と壇上に立ちスピーチをしていくのだが、これがまあ長い。
「誇りを胸に〜」とか、「責任ある行動を〜」とか、テンプレ台詞ばっかりで、内容はまったく頭に入っていない。
こういうのって、どこの世界でも一緒なんだな。
心ここにあらずで立ち続けること数十分。
「——次に、ユースティティア学院生徒会長より、祝辞があります」
——うん? 生徒会長?
視線を壇上に向けると、一人の男子生徒が登壇するところだった。
金髪碧眼に白い肌。すらっと背が高く、遠目からでも分かる均整の取れた体つき。
制服の胸に飾られた徽章により、ウルザクラスであることが分かる。
そのイケメンは、壇上からこちらを一望するように辺りを見下ろすと、にこりと微笑みを浮かべた。
途端に会場がざわめきに包まれる。
「きゃー! アレク王子よ!」
「今日もなんて麗しいの……!」
「素敵だわ……私、あの方になら抱かれてもいい……」
そんなモブ女子生徒たちの色めき立った声が、あちこちから湧き上がりだしたのだ。
そのざわめきの中、生徒会長は爽やかな笑みを浮かべて、口上を述べはじめる。
「一年生諸君——あらためてユースティティア学院への入学、おめでとう。僕はウルザクラス三年、アレクサンダー・シチュアートだ。在校生を代表し、諸君らに祝辞を申し上げよう——」
よく通る澄んだ声。
全校生徒を前に威風堂々と祝辞を続けるその姿は、まるで一枚の絵画かってくらいに様になっていた。
会場の女共がキャーキャー騒ぐのも納得だ。
俺はそんな生徒会長の姿を見上げながら、とあることを思い出していた。それは原作『アルカナクラウン』のゲーム知識だ。
このゲームには、二つのメインルートが存在する。
一つはマギナクラスを主な舞台とした、クラスメイトとの交流がメインになる『マギナルート』。
そしてもう一つが、学院の生徒会を舞台とした、上級生や他クラスの生徒との交流がメインとなる『生徒会ルート』である。
生徒会長アレクサンダー・シチュアート。
たしかこいつ、生徒会ルートに進んだときのメインキャラだった……気がする。
それにシチュアートという名字。
さっき誰かが王子様って言ってた気がするけど。
俺は隣に立つギャリーに小声で尋ねる。
「なあ、ギャリー。あいつもしかしてお前の兄ちゃんか?」
しかしギャリーは俺の問いは答えず、苦々しい顔で「貴様には関係のないことだ」とつぶやくだけ。
けれども逆にその反応で、俺はすべてを察する。
間違いなくギャリーの兄弟だ、と。
たしかギャリーは第二王子だっだよな。
つまり、あのアレクサンダーが、この国の第一王子になるわけか。
生徒会長で、全校生徒からの憧れの的で、先輩キャラで、第一王子と。
はい、アウト。
BLフラグのよくばりギフトパックかよ。
お札して封印しとかないとダメだろ。
こわいこわい、絶対に近づかんとこ。
俺が心のなかで固く決意する間にも、アレクサンダーの祝辞は続く。
「——このあと、生徒会が主催する、ささやかな交流パーティーも用意している。どうか今日という一日が、君たちにとって、忘れられない日となることを願って」
そして、結びの言葉を言い終えると、恭しく一礼して壇上を後にするアレクサンダー。
その後ろ姿に、また一段と大きな歓声が沸き起こったのだった。
その後も退屈な式典は続き——
「——これにて、本年のディアナイツを終結する。この魔法界の未来を担う人材に、幸あれ!」
やっと終わりの時間が訪れた。
ということで、このあとは生徒たちにとってのお楽しみ。
ある意味これがディアナイツ本番とも言える、社交パーティーの時間だ。
***
俺達は生徒会関係者の引率に連れられて、パーティー会場へ移動した。
会場はいつもの大食堂なのだが、レイアウトも含めてすべてが社交パーティー仕様に魔改造されている。
床には赤絨毯が敷かれ、天井にはシャンデリアがきらびやかな輝きを放っていて、さながら王宮の晩餐会だ。
給仕係がいるのはもちろんのこと、会場の奥には楽団が控えていて、生演奏まで流れているという、贅沢すぎる空間。
これを全部、生徒会が手配したってこと?
すげーな、生徒会。
会場は、立食ブースと、おそらく社交ダンスに使用するであろう、ホールブースに仕切られていた。
立食ブースには、シワ一つない真っ白なテーブルクロスが敷かれた丸テーブルが立ち並び、その上には、豪華な料理があふれんばかりに盛られている。
俺はあらためて、ユースティティア学院が、魔法学校であると同時に、貴族の学校であることを思い知る。
と、俺が会場の豪華さに面食らう一方で、会場に到着した生徒たちは、特段のリアクションもなく、ドリンクを片手に、さっそく交流の輪を作り出していた。
皆、家と家のつながりを意識して、貴族として立ち回るのだろう。ご苦労なことである。
その点、俺はなんちゃって貴族だから、そんな気苦労とは無縁。テーブルからドリンクと手頃な料理を盛り合わせて、壁際にもたれながら、一人くつろいでいた。
そんな風にして、しばらく料理の味に舌鼓を打っていると、ふと視線の先に、俺はアシュレイの姿を捉えた。
俺は声をかけようとして——
やめた。
普通に忙しそうにしていて、邪魔しちゃ悪い。
そのかわりに、なんとなく視線でアシュレイのことを追う。
アシュレイは、優雅な所作で、貴族子弟たちの輪に自然に溶け込み、当たり前のように談笑している。
その姿は美しく優雅で、誰がどうみても完璧な貴族。いや、王子の風格すらある。
ギャリーなんかよりよっぽど王子様だ。
そんなアシュレイを眺めているうちに、モヤモヤとした、よくわからない気持ちが、胸の奥から湧き上がってきた。
アシュレイは、楽しそうに笑っている。
俺がいてもいなくても、あいつはあんなに社交的で、完璧で、魅力的だ。
いや、それでいいだろ。
別にいいんだけどさ。
……なんだろうな、この微妙に寂しい感じ。
アシュレイは、俺とは違う世界の人間だ。
俺みたいなダメ貴族が、あいつと結ばれようだなんて、そもそもがおこがましいことなんじゃないか。
今のアシュレイの、完璧な貴族としての振る舞いを見ていると、そんなことをモヤモヤと考えてしまう。
「いや、何、一人でいじけてんだ俺? らしくねー」
俺はそんな卑屈な考えを頭の中から追い出すために、手にしたドリンクを一息で飲み干した。
そのとき——
「グレイくん!」
俺の名前を呼ぶ無邪気な声が耳に届く。
声の方に視線を移すと、笑顔で駆け寄ってくるのはリオンだった。
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