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第30話 式典の幕開け

 そして迎えたディアナイツ当日。


「グレイくん! 支度まだ? 式典に遅れちゃうよ……!」

「待て……このネクタイが……」


 俺はマギナ寮自室の姿鏡前で、格闘していた。

 実は普段は面倒くさくて、制服のネクタイをしていない俺。

 慣れていないもんだから、ネクタイを結ぼうとするたびに、妙に緩んだり、逆に締めすぎたりしてしまう。


 くそっ、どうなってんだこれ……!?

 呪いでもかかってんのか!?


「あーもう、貸して!?」


 そんな俺にしびれを切らしたのか、リオンが鏡と俺の間に立つと、俺の首元に手を伸ばした。


「グレイくんはじっとしてて! 僕がやるから!」

「お、おう……」


 リオンはそう言って俺の手元ネクタイを掴み取ると、手際良く結び直していく。


「……どう? 苦しくない?」

「……大丈夫だ」


 最後に形を整えた後、俺の襟をぽん、と軽く叩く。


「よし、これでオッケー!」

「お前、手慣れてるな?」

「そりゃ、毎朝やってるからね。グレイくんも面倒くさがらないで、ちゃんとネクタイをしないとダメだよ?」

「まあ、考えておこう」

「あと、手袋はちゃんとした?」

「は? 手袋なんているの?」

「当たり前じゃない正装なんだから! ほら早く!」


 俺はリオンの言葉に従って、クローゼットから薄手の白手袋を取り出すと両手にはめる。


 とにかくこれで準備完了だ。


「じゃあ、行こ! グレイくん!」

「おう」


 俺とリオンは自室を後にして、式典会場へと向かった。


 ***


 ディアナイツは学院の大講堂で開かれる。

 この場所に足を踏み入れるのは、入学式以来二回目だ。


 俺達が会場に到着すると、すでに大勢の生徒たちが各学年ごとに、マギナとウルザに分かれて整列していた。


「グレイくん、マギナの列はあっちみたいだね」


 リオンが指差す先に、見知った顔ぶれが並んでいた。

 俺とリオンは、その行列に滑り込むようにして並ぶ。


 ふう、なんとかギリギリセーフ。

 俺がほっと一息ついてから、俺はアシュレイの姿を探そうと、辺りに視線を巡らせた……のだが。

 俺の視線は、隣に立つ()()()()()()()()()に、縫い付けられたように止まってしまった。


「ギャリー……生きてたんだな」

「ちっ」


 視線が合ったことで、露骨に顔をしかめて舌打ちするイケメンは、この国の第二王子ギャリー・スチュアートくんである。


「いやーよかったよ、ダンジョンで気絶した後、そのまま置いてけぼりしてきちゃったからさ。二週間後の天気くらいには気にしてたんだぜ」

「……黙れブラッドレイ。気安く俺に話しかけるんじゃねえ」

「まあまあ、学院一のクズに無様に敗北しちゃってショックなのは分かるけど。昨日の敵は今日の友って言うだろ? 同じマギナのクラスメイトなんだから。仲良くしようじゃないか。はっはっはっ」


 ギャリーは平然を装いながらも、わずかに肩がピクリと動いた。


「その減らず口……相変わらず虫唾がはしる野郎だ……」


 ギャリーはふんと鼻を鳴らし、髪をかき上げながら言葉を継ぐ。


「言っておくがこの前の戦い、俺は貴様に実力で劣ったなどと思ってない。貴様のとった卑怯な奇策がたまたま当たっただけだ。勘違いするなよ」

「ねー、まさかあのギャリー王子が、あんなにヘビが苦手なんて誰も思わないよねー」

「ば、バカ野郎! 大きな声で言うんじゃねえ!」


 ギャリーが顔を真っ赤にして、声を張り上げる。

 ぷぷぷ、こいつ、意外と煽り耐性ないよな。

 なんていうか、からかい甲斐があるっていうか、おもしれー奴。


「つーかさ、俺の戦い方を卑怯っていう前に、自分の胸に手を当てて、己の行動を振り返ってみろよ。先にゴールに到着してた奴を、後から来て力技で蹴落とそうとするなんて、そういうのこそ卑怯っていうんだよ? 分かる?」

「この俺をここまで侮辱したのはお前が初めてだブラッドレイ。どうやら本当に死にたいらしいな」

「その言葉そっくりそのままお返ししてやるよ。あのときの俺は魔力切れでベストコンディションじゃなかったけど、悪いけど今の俺なら幻造魔法ファンタジアでワンパンだからね?」

幻造魔法ファンタジアだと? そんなへぼ固有魔法(ユニークスペル)で、この俺に勝てると思うなど、思い上がりも甚だしいな。やはり貴様は落ちこぼれのクズだブラッドレイ」

「はいそーやって、油断するところ、敗北のテンプレートです。お前前回の敗戦からなんも学んでねーのな。やだねー、こんな鳥頭の王子様が、俺の住む国の舵取りをしていくなんて考えたくないわー。貴族より鳥貴族の方が似合ってるよお前」


 憎まれ口の応酬。

 気がつけば、俺とギャリーは、互いに額を突き合わせるほど距離を詰めていた。


「……やるか?」

「上等だコラ」


 そして俺とギャリーが、ほぼ同時に懐から杖を取り出そうとした瞬間——


 ガン! ゴン!


「ぐぁ!?」 「痛ってえ!?」


 俺とギャリーの頭上に、ほぼ同時に鋭い衝撃が走った。

 振り向くと、そこに立っていたのはクラス担任のリド先生だった。


「おい、アホども。これから式典だってのに、じゃれてんじゃねえ」


 俺とギャリーは二人して頭にできたタンコブをさすりながら、互いにすごすごと引き下がる。


「……グレイくん」


 そんな俺に背後から小声で話しかけてきたのは、リオンだった。


「……なんだ?」

「さっき、すごく息ぴったりだったよ」

「は? 息ぴったりってなにが」

「グレイくんとギャリーくん。よかった、仲良くなったんだね!」

「なってねぇわッッ!」


 反射で叫んだ俺の声が、講堂の天井にこだまする。

 次の瞬間——


 ゴン!


「いってえ!」


 俺の頭上に、二発目のリド先生の鉄拳が降った。


「いい加減にしろ。次騒いだらつまみだすぞ」

「す、すんません……」


 俺は雪だるま状になったタンコブを涙目でさすりながら、リオンが放った一言を、心の中で否定する。


 俺とギャリーが仲が良いだと?

 そんなわけあるか。

 あんなもん、ただ喧嘩してただけじゃねえか。

 喧嘩するほど仲が良いなんてのは、一昔前のラブコメか、BL漫画の中だけ……


 ……

 いや、待て。


 そんな俺の脳裏に、前世で腐女子の姉が語っていた台詞がよぎる。

 あれは確か、姉が某週刊少年誌に載っている、国民的人気を誇る海賊漫画わんぴいすを読んでいたときだ。

 姉はその漫画に登場していた、剣士とコックのカップリングに鼻息を荒くして、妄想にふけっていた。


 そんな姉に対して、俺は呆れつつこんな質問をした。


 ——姉ちゃんを見てていつも思うけどさ。そんなBL要素が欠片もない漫画から、よくそこまで妄想を膨らませられるよな。


 そのときの姉の答えがこうである。


 ——甘いわね。よく訓練された腐女子は、たとえホウキとチリトリでもカップリングできるものよ。


 ——腐女子はね、誰もが脳内変換()ィルターをもっているの。このフィルターを通せば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わ。



 そのときはやっぱり腐女子って脳みそが腐ってるんだなあと、小学生並の感想を抱いた俺。

 だがしかし、ここに来て、その言葉が圧倒的なリアリティを帯びて、俺に襲いかかる。


 BLにおいては、男同士のどんな関係性も、フィルター一枚で恋愛関係になってしまう。

 そしてこの世界は、そもそもBLゲー世界である。

 ということは、この世界のキャラクターである俺もまた、その一挙手一投足が、BLのフラグと化してしまいかねない。


 なのに俺は無防備に、ギャリーと絡みにいったのだ。

 必要無いのに。わざわざ自分から。


 なぜだ?


 よくよく思い出してみれば、会場に来る前のリオンとのやり取りも、()()()()()()()()()()()()()かもしれない。

 曲がったネクタイを直してもらうシチュエーションとか、飢えた腐女子の前ではカップリングの格好の餌食である。



 ——もしかしてちょっとずつ、この世界(BLゲー世界)に対する警戒感が、薄れてきているのか?



 そう自覚した瞬間、俺の背筋を、強烈な悪寒が駆け抜ける。

 思わず自分で自分を抱きしめた。



 受け入れてもBL。

 否定してもBL。

 どうあがいても、絶望《BL》。

 俺に残された時間は、実はそう多くないのかもしれない。




「はやくアシュレイと結ばれないと——」





 半分無意識に、そんな言葉が俺の口からこぼれ落ちた直後。

 大講堂に荘厳なファンファーレが響き渡った。

 天井に掲げられていた魔道灯がゆっくりと色を変え、祭典の開始を告げる演出に、生徒たちのざわめきが一斉に静まった。


 講堂の壇上には、ユースティティア学院校長のエルサゲート先生が登壇。相変わらずとんでもない美貌の先生だ。


「ユースティティアの新たな一年に、祝福を——」


 そんなエルサゲート先生の挨拶と共に、学内式典、ディアナイツが幕を開けた。





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