第3話 その女神は腐っていた
組み分けの儀の最中、なんか精神世界的な空間で、女神ユースティティアと対峙する俺。
「……あなたがユースティティア様ですか」
「ええ、そうですわ。わたくしが運命と審判を司る女神ユースティティアですわ。よろしくお願いいたしますわね、新入生さん」
「ユースティティア様! 俺は――」
「早速ですけれど、あなたの経歴、少し拝見させていただきますわね」
女神ユースティティアは、俺の言葉をシカトしつつ、こちらに向かって片手をかざすと、なにやらむにゃむにゃと呪文のようなものを唱え始めた。
「ええと、グレイ・ブラッドレイ……15歳、と。なになに……? 悪名高いブラッドレイ公爵家の三男でして? 魔法の才能には恵まれず、ご実家でも冷遇されていらっしゃる……この学院には世間体を気になさったご両親が無理やりコネで入学させた、と。まぁまぁ、なかなか終わっていらっしゃるご経歴ですわねー」
どうやらユースティティアは女神特有の魔法的能力で、俺の経歴を読み取っているらしい。
しばらくそうしていると、彼女の表情が、驚いたような顔に変わった。
「まぁ、あなた、外つ界からの転生者でいらっしゃるの? それも前世の記憶をお持ちになっていて?」
「そうですけど、何か文句でもあります?」
「はぇ~、稀にございますけれど、今年でもう二人目ですのね。なかなか珍しいケースでしてよ。あなた、随分と興味深い運命をお持ちになっておりますわね」
……なんだこのなんjお嬢様部みたいなエセお嬢様口調は。
こいつホントに女神なんだろうな?
……いやいや、そんなことよりだ。
「貴女が創生神の一人なら、一つ、言いたいことがあるんですけど!」
「わたくしにおっしゃりたいこと? 何でして?」
俺が質問の声をあげると、女神は小首を傾げた。
せっかくこの世界の創造神とやらと直接話せる機会。
それはすなわち、この世界の歪みを正すチャンスかもしれない。
俺はひとこと物申すことにした。
「この世界、おかしいですって! なんで男同士がやたらと盛ってるんですか!?」
俺は女神にくってかかるように訴える。
だが、彼女はきょとんとした顔で――
「だって、そのほうが尊くてよろしくってよ?」
「は? 尊い?」
「わたくしを含めまして、ここをお造りになった女神は三名いらっしゃるのですけれど、みなさま揃ってBLがお好きでしてよ〜。それで、この世界をお創りする際に、『私たちのご趣味で満ち溢れる素敵な世界にいたしましょう』と三人でお決めになったのですわ、うふふん」
「オタクの脳みそ腐ってんの?」
しかも、なに?
他にも女神様がいて、揃いも揃って腐女子だって?
マジでなんの冗談だよ。死ね!
世界を正そうとする、俺の試みはまったくの徒労に終わる。
「それにいたしましても――あなた、本当に面白い方ですわねぇ。興味深い運命をお持ちになっていらっしゃるわ。うふふん、そんなあなたには、マギナとウルザ、どちらが相応しいかしら? やっぱりゲロを煮詰めた純正ゲロみたいなパーソナリティを踏まえるとウル――」
「マギナでオナシャス!!!」
ユースティティアが組分けのことを口にした瞬間、先手を打つように俺は即答した。
精一杯の誠意を示すために、ジャパニーズ土下座スタイルを添えて。異世界の女神に、その誠意が通じるかはよくわからんが。
「マギナですって? ……もはやメビウスの輪と化した、あなたの捻じ曲がった性格を鑑みますと、どちらかといえばウルザのほうがしっくりくるのですけど……」
「ウルザだけは勘弁してください!」
「なぜですの?」
ユースティティアの問いを受けて、俺は顔を上げた。
「マギナに俺の運命の人がいるからですッ!」
「運命の人?」
「はい! アシュレイ・アストリッドくんです! 彼……いや彼女は俺にとってのファムファタールだ! 俺がこの腐った世界で幸せになるためには、アシュレイくんルートに入るしかない! そのためには彼女と同じクラスになる必要があるんですマジで!」
万一、ウルザに振り分けられたとしよう。
ゲシュタルト崩壊を起こしたイケメンの群れの中で、絶望の学院生活を送ることになる。
それはさながら、ホラー映画とかでありがちな、人間よりも上位の存在である怪異に魅入られた、登場人物のように……
俺の精神もちょっとずつ闇の波動に浸食されていって……
この世界に対する違和感を失っていき、BLに対する忌避感もちょっとずつ、ちょっとずつ、なくしていって……
そして、いつしかイケメンに、自分の意思で、身も心もお尻の初めても捧げるなんてことに……
アッー!
ウルザは嫌だウルザは嫌だウルザは嫌だ!
「マジでウルザは勘弁してください! 後生ですからマギナにしてくださいマジで!」
そう懇願する俺の体勢は、もはや土下座を通り越して、五体投地の構えになっていた。
「ふふん。よろしくってよ」
「……!」
ユースティティアの声を受け、俺はバッと顔を上げる。
女神の口元には、薄い笑みが浮かんでいた。
「あなたの願いを聞き入れますわ」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、もちろんですわ。あなたの素直で一生懸命なところ、とっても可愛らしくて気に入りましたの。ですから、その願いを叶えて差し上げますわ。」
「ありがとうございます! ユースティティア様! 俺、転生前の実家は浄土真宗でしたけど、改宗しますんで!」
「その代わり……」
「へ?」
ユースティティアの口元がゆがんだ。
「貴方にはとびっきりの運命を授けてあげますわ。その運命を乗り越えて、あなたの言う運命の人と結ばれることができるか……じっくりと見学させていただきますわね」
「え、それってどういう……」
「というわけで、あなたの学院生活に幸あれ……頑張ってくださいまし〜」
ユースティティアが笑顔でヒラヒラと手を振る。
その瞬間、俺の意識は猛烈にこの場所から遠ざかっていく感覚があって……
「……!」
俺の意識は、元いた場所に舞い戻っていた。
キョロキョロと辺りを見渡す。
教会みたいな雰囲気の部屋の中、目の前には、天秤を掲げたユースティティア像が立つ。
そして、その天秤がゆっくりと――左にふれた。
その瞬間、女神像の傍に立った先生が、厳かに宣言する。
「グレイ・ブラッドレイ――ユースティティアの審判の結果、クラス・マギナに振り分けるものとするッ!」
「うおおおおおおおッっしゃあああああ!」
俺は、ワールドカップ決勝で逆転ゴールを叩き込んだサッカー選手もかくやというくらいに、天を仰ぎ、両手でガッツポーズを決めた。
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