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第23話 人は誰にも弱点はある

「来る、固有魔法ユニークスペル……!」 


 無意識のつぶやきとともに、俺の背筋に、鋭い針を突き立てられたような悪寒が走る。

 本能が、すぐにここから立ち去れと、全力で警鐘を鳴らしていた。

 だが本能の叫びを意思の力でねじ伏せる。


 「我が手に来たれ、選定の剣(カリバーン)よ——」


 詠唱と同時に、ギャリーの手のひらに光が収束する。その輝きは徐々に形を持ち、一本の剣となった。


 「——剣を、精製した……?」


 俺と同じ幻造魔法ファンタジア? 

 一瞬そう思って、すぐに違和感を覚える。


 剣身はまばゆい白光を放ち、まるでRPGのクライマックスで、勇者が掲げる伝説の剣みたいなオーラをまとっていた。


 違う、ただの模造品レプリカじゃない。

 そんな生やさしいものじゃなくて、あれは、本物の——


 「この俺に対して、あれだけ減らず口を叩いたんだ——」


 ギャリーが光剣の柄を握ると、その周囲の空気に、一気に殺気が張り詰める。


「少しは楽しませてくれよ?」


 ギャリーはそう呟いてから、その剣を振るう。


 次の瞬間、轟音と共に光が生まれた。

 凄まじい衝撃が俺の体を襲う。


「ぐ、あッ!?」


 体がふっとばされて、背後の木にぶち当たった。

 胃の中を全部ひっくり返してしまいそうな衝撃に、意識が一瞬持っていかれそうになるが、すぐに踏ん張って立ち上がる。


 ギャリーは視線の向こうで、次の一手を繰り出そうとしていた。


 なんだこの威力……!?

 ヤバい……!

 あんな攻撃を喰らい続けたらあっという間に……!


 とにかく反撃しないと。

 俺は慌てて杖を振り上げようとした——が、その瞬間、奇妙な違和感が走った。


 「……嘘だろ?」


 視線を落とすと、そこにあったのは、根本から真っ二つになって、頼りなくぶらさがる俺の杖だった。


 杖がへし折られてしまった!

 これじゃあ魔法のほとんどが使えない。


 どうする? どうすればいい!?

 焦りに飲み込まれそうになったそのとき——


 「グレイくん! ヘビだ!」

 「……へ?」


 背後からリオンの叫び声が飛んできた。


「《幻造魔法ファンタジア》で、ヘビを作るんだッ!」


 あまりにも唐突だったその言葉。

 一瞬理解が追いつかない。


 だが、その言葉をきっかけに、脳裏を駆け巡る記憶——


 それは前世で姉ちゃんから、一方的にアルカナの推しトークをされているときだった。


 ——このギャリー・スチュアートってキャラが推せるのよ〜! 最初は自己中で傲慢な嫌なヤツなんだけどね、素直になれないだけで、本当はすごく純粋でまっすぐなヤツで……


 ——ねえ、ちゃんと聞いてる? それにギャリーには可愛いところがあるのよ、この子は子どもの頃のトラウマでね……


 そうだ、思い出した。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 俺はとっさに折れた杖を投げ捨てると、すぐさま右手のひらを地面に添えて、残っている魔力のありったけをつぎこむ。


「巡れ、ファンタジア——!!」


 固有魔法ユニークスペル、詠唱。

 そして魔法の発動と共に、俺の手のひらを中心にまばゆい光が生まれた。

 そして光の中から生まれたのは……


 地面を這いずり回る、ヘビの大群だった。


 その光景を見たギャリーの動きがピタリと止まる。

 一瞬、自分の目を疑ったようにまばたきし、そして——


「へ、ヘビぃ!?」


 さっきまでの殺気と威圧感はどこへやら。

 情けない声を挙げて、あからさまに足を引いた。

 その顔面は真っ青、剣を握る手はガタガタと震えている。


 「あれえ、どうしました……? 顔色悪いっすよ王子様?」


 俺が意地悪く言うと、ギャリーはぎりっと歯を噛みしめた。


 「き、貴様、なにを考えている……!? 戦いの最中にッ……!」


 強気な言葉とは裏腹に、ギャリーの声が震えていた。

 そこにさっきまでの冷徹な殺気も、自信に満ちた傲慢さもない。


 「王子様、ヘビが怖いんスよね?」

 「ば、馬鹿な……! 俺はこんな……こんなもので……! ひっ、く、来るんじゃねえ!」


 必死に否定しようとするが、その足はじりじりと後退している。


「ふ、ふざけるな! 早くそいつを消せえッ!」

「消すわけないでしょ」


 俺は勝ちを確信して、底意地の悪い笑みを浮かべる。


「さあヘビ共、あのいけすかねえクソ王子めがけて突撃だ——」


 そして、まっすぐギャリーに向けて指さした。


「ヘビィにいけえ!!!」


 俺の号令と共に、幻造魔法ファンタジアで生み出したヘビのイメージは一斉に這い出して、ギャリーの足元に迫る。 

 ヘビの群れは音もなく広がり、そのままヤツの足に巻きついていった。


「ひいいいいいいいいいッ!」


 ギャリーが叫び声をあげる。

 その瞬間、彼の体から力が抜け、ガクガクと震えながら地面に崩れ落ちた。

 ヤツが手にしていた光の剣(カリバーン)も消え、アシュレイを縛っていた拘束魔法のイバラも、跡形もなく消滅した。


 魔法は精神の強さに依存する。


 ヘビの恐怖で精神が折れた今のギャリーに、もはや魔法を使う余力はないということだろう。


 ならば——やるべきことは一つ。


「終わりだな、王子様」

「汚いぞ……汚いぞ! ブラッドレイ!」


 ギャリーの負け惜しみの言葉に、俺は軽く肩をすくめる。

 ニヤリと笑って、拳を固く握りしめた。


 杖も折れて魔力もすっからかん。魔法はもう使えない。


 それでも俺は抵抗するぜ?

 拳で。


 地面を駆け、ヤツの懐に飛び込む。


「くらえ、クソ王子! 鉄拳パーンチ!!」


 勢いそのまま、全力パンチをギャリーのボディーにぶち込んだ。


「がはあッ!」


 クリーンヒット。

 衝撃に体をくの字に折らせながら、ギャリーはその場に崩れ落ちた。


「……卑怯、者め……」

「ありがとう。最高の褒め言葉だぜ」


 ギャリーの首がガクッと力なく垂れた。

 決着の瞬間である。

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