第22話 グレイの覚悟
俺の仲間のことを傷つけた、勘違いウンコ王子、ギャリー・シチュアート。
ヤツを叩き潰すために、発動した俺の固有魔法、ファンタジア。
だが、なぜか俺はその発動に失敗してしまった。
「ファ、ファンタジア——!!」
もう一度、イメージを固めてファンタジアを発動する。
だけど結果は同じだ。
うんともすんとも反応がない。
「なんでだよ!? 固有魔法が発動しねえ!」
「グレイ……! きっと魔力切れだ……!」
俺の異変を察したアシュレイの声が、背後から届いた。
「魔法を連発しすぎたんだ! 消費魔力が多い魔法は発動できないんだ……!」
「魔力切れ……マジで? このタイミングで?」
俺は思い返す。確かに、道中出くわす雑魚相手に、調子にのって《アルデオ》を連発した。
したけどもさ!
所詮、《アルデオ》なんて、炎属性の初歩魔法じゃねーか。
それをちょっと連発したぐらいで魔力切れって……
くっそお、グレイ・ブラッドレイ!
最近調子よかったから、お前が学院一の落ちこぼれキャラだって設定を忘れてた!
魔力量が少なすぎだコノヤロー!
「どうした、こないのか? ならこっちからいくぜ?」
冷や汗ダラダラの俺と対象的に、ギャリーは不敵に笑いながら杖を掲げる。
「ちょ、ちょっとタンマ——」
「《テラ・グラディス》——!」
「ですよねー!?」
ギャリーの杖が振られた瞬間、轟音と共に地面がひび割れ、俺の足元が突き上げられる。
「っぶねぇ!!」
反射的に飛び退いた瞬間、更に着地先地面から鋭い岩の刃が生えた。その攻撃も全力で横っ跳びして回避する。
ギャリーは次々と俺の足元に狙いを定めて、魔法を使ってきた。
(やばい、足の踏み場がなくなる……!)
ヤツの狙いは俺を攻撃するだけじゃない。
逃げ道をなくす気だ。
俺は一度大きく跳び退き、ギャリーとの距離を広げる。
足元を削りきられる前に、その動きを見極めるしかない。
相手の出方を慎重に見極めながら、呼吸を整えた。
「さあ、どうする? どんどん逃げる場所がなくなるぞ?」
そんな俺に対して、ギャリーは余裕たっぷりの笑みを向けてくる。
くっそ、腹立つ……!
そのスカした面をグチャグチャにしてやりたい!
だがどうすりゃいい?
魔力切れのせいで、固有魔法でチートアイテムを精製することはできない。
消費量の少ない一般魔法なら、後何発かはいけるかもしれないけれど、俺の使える魔法なんて、《ルークス》と《アルデオ》、あとは戦闘では頼りになりそうもない日用魔法だけだ。
それでも悩んでいる時間はなかった。
とにかく反撃を。
俺はギャリーを中心に弧を描くようにして地を駆ける。
懐から杖をとりだした。
「《アルデオ》——!」
俺は走りながら、《アルデオ》を発動。
俺の杖から放たれた火球は、まっすぐ飛ぶのではなく、空中でうねるように軌道を変え、ギャリーへと迫った。
これはこの間の授業で習った魔法の応用技術――魔法の軌道変化の術式を加えたものだ。
直線攻撃なら簡単に読まれるが、変則的な動きならどうだ!
「無駄だ」
だが、ギャリーは微塵も動じることなく、スッと杖を振る。
「《ディフェクティス》——」
瞬間、ギャリーの全身が淡く輝き、その体を取り巻くように半透明の魔力の壁が展開される。
俺の放った火球が、光の壁に触れた瞬間、まるで霧のように消滅した。
「……ッ!」
手応えゼロ。
まるで何事もなかったかのように、ギャリーは余裕の笑みを浮かべる。
「もう詰んでいるということが、分からないのか? 流石は落ちこぼれのグズだな」
「……わからないね。まだまだ俺の力はこんなもんじゃないし」
俺は内心の焦りを隠すため、精一杯の軽口を叩く。
そんな俺のことを、ギャリーは見下した。
「グレイ・ブラッドレイ……」
「なんだよ、俺の名前知ってたのか。光栄だね王子様」
「いつだかお前は言っていたな? アルカナクラウンを目指すと」
「ああ目指してるぜ。目指しちゃ悪いか?」
「アルカナクラウンの称号は——お前みたいな何の覚悟も決意もないクズが目指していいものじゃない」
「んだと?」
「俺は……この国の王——頂点の存在となるべくして、生まれた人間だ」
ギャリーはふと視線を落とし、一瞬だけ何かを思案するような素振りを見せる。
しかし、すぐに鋭い目を俺に向け、冷ややかに言った。
「背負っているものも、これまで積み上げてきたものも、お前らとは違う。俺は——」
そして始まるギャリーの自分語り。
長かったんで端折るけど、この国の第二王子として、跡目レースを勝ち抜くために、アルカナクラウンをとるのは必須だとかなんとか。
それに加えて、なんか親父や兄弟との確執もあるっぽい。
死ぬほど、どーでもいいわ。
誰も野郎の自分語りに興味はないんだよ。
「——わかったか? お前のような、何も背負っていないクズに、ただ気まぐれで学院の頂点を目指そうなんて言われるのは、虫唾がはしるんだよ」
長い自分語りを終えたギャリーは,鋭い瞳で俺のことを睨みつけた。
俺も負けじと睨み返す。
「覚悟も決意もないって決めつけんじゃねえよ。俺だって、俺なりの理由があって、アルカナクラウンを目指してんだから」
「お前のような怠惰なクズが、何を背負っているとでも?」
ギャリーは軽蔑に満ちた目で俺を見下ろした。
俺はぐっと拳を握る。
何を背負ってるかだと?
何もわかってねえくせに、ふざけんな。
「俺の背負っているものは、もっと重いんだ……」
そもそもお前が背負ってる重荷なんて、所詮、貴族っていう、生まれつき決められたレールの中のもんじゃねえか。
俺は違うぞ。
俺はな……
BL世界に転生したんだ!
わかるか!?
ボーイズラブだぞ!?
せっかくイケメンに生まれ変わったのに!
女の子とつきあいたいのに!
チュッチュしたいのに!
肝心のその女の子がいねえ!
代わりにタケノコみたいにニョキニョキ生えてくるのは、めまいがするくらいのイケメンだ!
いい加減にしろ!
十分重すぎる運命なんだよ!!
それでも俺は、自分の人生に絶望してない!
たった一つのか細い希望に向けて努力してるんだ!
アシュレイとのノーマルエンドという名の未来に向かってな!
「俺は、自分の運命すらぶっ壊して、欲しい未来を掴むって覚悟を背負ってんだ! 決められた道を歩くだけのテメエに、俺の背負ってるもんの重さはわからねえだろうな!」
俺は気づけば、そう叫んでいた。
「どうやらここで死にたいらしいな……」
ギャリーの顔から余裕の笑みが消えた。
代わりに、張り詰めた静寂のような冷たい怒りがその瞳に宿る。
「そんなに死にたいのなら、見せてやる。選ばれし人間が持つ、本物の力をな——」
凍てつくような視線をまっすぐ俺に向けながら、ギャリーは手にしていた杖を一度懐にしまう。
そして代わりに、ゆっくりと手のひらを上に掲げた。
瞬間——周囲の空気が張り詰め、まるで世界そのものが震えたような錯覚を覚えた。
俺は直感で感じる。
「来る、固有魔法……!」
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