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第18話 課外授業


  校長から直々に退学予告を受けとった後も、俺の学院生活はこれまでどおり続き、気づけば二週間が経っていた。


 もしもセルヴィスが、またウザ絡みしてきたらどうしようと心配していたのだが、結果として杞憂だった。

 そもそもヤツとはクラスが違うわけだから、会う機会自体がそれほど多いわけじゃない。

 それにセルヴィスからしたら、パパに泣きついた時点で、俺の問題は解決したということなんだろう。

 俺としても、クソ野郎のクソみたいな顔を見なくてすむのはありがたい。


 おかげで、この二週間は魔法の勉強に集中できた。

 そう。今や俺は勉強の虫といっても過言じゃない。


 自分でいうのもなんだけど、魔法についてメチャクチャ真面目に勉強している。


 授業に真剣に取り組むのはもちろんのこと、放課後は毎日、図書館に通って閉館時間まで、ぶっ通しで自習している。


 そして今もマギナ寮の自室にて、俺は机の上に広げた魔術書にかじりつく。


「グレイくん、そろそろ寝たほうがいいんじゃない? もう日付が変わるよ?」


 ルームメイトのリオンが、そんな俺の身を案じて声をかけてきた。俺は魔術書から視線をそらさずに返事だけを返す。


「もうちょっとでキリが良いとこまでいくから、そこまでやってから寝ることにするわ。先に寝ててくれ」

「ほんと努力家だよね……でもあんまり根を詰めすぎたらダメだよ?」

「おう、心配してくれてサンキューな、おやすみリオン」

「あ、そうだ。寝る前にホットミルクでも飲む? 僕、淹れるよ」

「お、マジで? サンキュー」

「ちょっと待っててよ!」


 パタパタと足音を立てながら飲み物を準備するリオンの気配を背中越しに感じつつ、俺は再びペンを持つ手を走らせる。


 そんな努力の甲斐もあってか、魔法学について理論的なところは少しずつ理解できてきたし、一般魔法コモンスペルについても、ちょっとずつ使える魔法が増えてきた。


 こうなってくると、魔法がますます楽しくなってくる。

 時間がいくらあっても足りないと感じるくらい、魔法の世界にのめり込んでいってしまうのだ。


 そして、今の俺にはその努力に意味を与える、具体的な目標もある。


(アルカナクラウンになるためには、もっと努力しないとな……)


 そう心の中でつぶやきながら、俺の研鑽は続くのだった。

 


 ***



 そして翌日。

 今日の授業は課外授業だ。

 俺たちは学院近くにある森の入口までやってきていた。


 目の前に広がるのは、霧に包まれた薄暗い森。

 巨大な木々は幹をねじらせ、根は地を這い、不気味な雰囲気を漂わせている。


「……随分鬱蒼とした森だね」


 俺の隣に立つリオンが、ぽつりとこぼす。

 視線をうつすと、その顔からは不安の色がありありと見て取れた。

 不安そうな顔を浮かべているのはリオンだけじゃない。

 周りに整列するクラスメイトたちは皆、一様に顔を強張らせていて、妙な緊張感が場を支配している。


 それも無理のない話だった。

 この森は、基本的には立ち入りが禁じられている場所。


 中は高い魔素で満ちていて、その魔素の影響で凶暴化した生き物——魔物が跋扈ばっこする空間なのだ。


 そう、この森は()()()()()なのである。


 今日の課外授業はダンジョン探索。

 俺たちはこれからこの森の中に足を踏み入れることになっていた。


「リオン、そんな顔すんなって。ダンジョンの中に入るからって、これは授業なんだから。ちゃんと学院側が安全対策をしてくれてるさ。なあアシュレイ?」

「ああ……そうだな」


 そう返事するアシュレイは、リオンほど露骨じゃないけど、唇がぎゅっと引き結ばれていた。


 いつもは王子様みたいに凛々しいアシュレイだが、やはり本来は女の子。ダンジョン探索はやっぱり怖いんだろうか。


 いや、いいぞ。だとしたら凄くいいぞ。

 こういうギャップはグッとくるものがある。


 それにこれはアシュレイの好感度を上げるチャンスかもしれない。

 せっかくだし、頼れる男をアピールして、さりげなく好感度を上げていこうじゃないか。むふふ。



「諸君、これより本日の授業を始める——」


 俺がそう決意を新たにしたところで、森の入口の側に立っている先生が口を開いた。

 それで生徒たちの間に広がっていたざわめきが一気に収まる。


 課外授業の担当教師は、少し厳しめの表情をしたガレット先生だ。

 鼻の下に蓄えた立派な口ひげが特徴の、ナイスミドルな先生である。

 彼は実戦魔法の教科を担当していて、噂によると魔法の腕前は相当なものらしい。


 ガレッド先生は鋭い目つきで生徒たちを見回すと、静かに言葉を続けた。


「お前たちはこれから魔物が出没する危険区域に入ることになる。授業とはいえ、軽率な行動一つが命の危険に直結する。気を引き締めるように——」


 その言葉に、生徒たちがごくりと唾を飲む音が聞こえた。


「課題内容はあらかじめ予告しておいたとおり、ダンジョン探索だ。諸君らには今から伝える目的地に向かってもらう。そこには、帰還リコルディアの魔法陣が設置してある。それに触れれば課題クリア。一番先に帰還した者には、報酬としてアルカナコインを一枚与えよう」


 来たぜ、コインゲットチャンス。

 よーし絶対にモノにしてやる。

 俺は拳をギュッと握りしめた。


「探索にあたりパーティーを組むか、ソロで行うかは自由。また、緊急脱出エスケープの魔符を配るので、死ぬ前に使え」


 淡々とした説明の後、ガレッド先生は胸下のポケットから、懐中時計を取り出した。


「今から五分間、諸君らに時間を与える。探索の準備をしろ。はじめ——」


 先生の指示で、一斉に生徒たちが動き始めた。

 もちろん、俺は迷うことなく——


「アシュレイ、リオン。一緒に行こうぜ」


 いつもの二人に声をかけた。


「もちろんだ、グレイ」

「うん、頼りにしてるよ。グレイくん!」


 二人から快諾の声が返ってくる。

 これでパーティーメンバーは決定だ。


「時間だ、それでは順次森へ入っていくように——」


 準備時間はあっという間に過ぎ、ガレット先生の号令とともに、生徒たちは次々と森の奥へと踏み出していく。

 俺たちもそれに続き、霧が立ち込める森の中へと足を踏み入れた。

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― 新着の感想 ―
これは次の展開が気になりますなぁ!(上から目線やめろ笑 次回も楽しみにしております
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