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第14話 固有魔法

「固有魔法(ユニーク・スペル)だと……?」

「ほら、今日の授業で習ったろ? 魔法には一般魔法(コモン・スペル)と固有魔法(ユニーク・スペル)の二種類があるって――」


 この世界に転生してきた俺は、魔法の理論や知識はゼロに等しい。だからこそ、理論をベースとして学んでいく一般魔法(コモン・スペル)はからっきしだ。


 けれど、固有魔法(ユニーク・スペル)なら話は別である。


 そもそも、固有魔法(ユニーク・スペル)は本人の血や資質に宿る、極めて個人的(パーソナル)な能力。

 だからこそ、知識や理論ゼロの俺でも、直感的に魔法を使うことができるのだ。

 ……たぶん。


「お前らは、俺の固有魔法(ユニーク・スペル)で叩き潰す」


 俺の言葉を受けて、取り巻きたちの表情が変わった。

 言葉の真意を測りかねているが、警戒は必要だと感じているのだろう。


「いっとくけど、先に喧嘩を売ってきたのはそっちだからな? 怪我をしても文句言うなよ」


 俺は不敵な笑みを浮かべつつ、右手のひらを上にして開く。

 そして、固有魔法《ユニークスペル》の名を唱えた。


「《《巡れ、ファンタジア》》——」


 瞬間、俺の手のひらの上に光の粒子が集まりだす。

 それは渦を巻きながら、だんだんと形を成して、やがて一振りのナイフへと姿を変えた。


 幻造魔法(ファンタジア)。

 《《使用者のイメージを物質として実体化する魔法》》。


 それが俺(グレイ)に与えられた固有魔法(ユニーク・スペル)だった。


 俺は作り出したナイフの柄を握りしめた。

 

「さあて、どっからでもかかってきな?」


 取り巻きたちは、ぽかんとした様子で俺のことを見つめた後——


「ぷっ、ぷははははっ!」


 腹を抱えて笑い出したのだった。


「やっぱりお前は落ちこぼれだな! もったいぶって発動した固有魔法が、《《まさかの幻造魔法》》って、なんのギャグだよ。マジで笑えるわ!」

「おいおい、あんまり笑うなよ。可哀想だろ?」


 取り巻きたちは俺の作ったナイフを指さして、嘲り笑う。


「なあ、ブラッドレイ。お前の作り出したそのオモチャのナイフで、ほんとに俺達と戦うつもりか?」

「そのつもりだが?」

「こいつ、マジで頭悪いぜ? どうやらよっぽどケガしたいみたいだな」


 当然、幻造魔法《ファンタジア》がここまで侮られていることには理由があった。


 《《幻造魔法は弱い》》。

 それがこの世界での常識だ。

 グレイが、ブラッドレイ家でも落ちこぼれ扱いされてしまっている理由の一端でもある。


「ブラッドレイ。頭の悪いお前にわかるように、俺達がわかりやすく教えてやるよ。幻造魔法ってのはなあ、《《そもそもがムダだらけの欠陥魔法》》なんだよ」

「そうそう、どんな完璧なイメージでアイテムを作り出しても、所詮は模造品《レプリカ》だ。性能も耐久力も、本物より格段に劣る」

「現にお前がいま作ったナイフだって、わざわざ魔法で偽物を作るより、本物のナイフを使ったほうが早いだろうが。そんな簡単なこともわからねえのかよ」


 取り巻きたちが入れ替わり立ち替わり、ご丁寧にこの魔法の欠点を説明してくださった。

 コイツらは完全に俺のことを侮っている。

 もう、俺のことなど敵としてすら認識していないのだろう。


 だけど俺は、勝利を確信して笑う。


「――君たちに、このナイフについて教えてあげよう」

「あ?」


 俺は不敵な笑みを浮かべ、取り巻きたちを見据えた。


「妖精王の秘剣、エアリアル」

「エアリアル……?」

「このナイフはユニークアイテムの一つだ。ゲーム終盤のダンジョン、妖精の渓谷で戦う隠しボスキャラ、妖精王エアリアルを倒すと、低確率でドロップする――」

「てめえ、何いってんだ……?」

「ステータスはATK(攻撃力)が256。MAT(魔法攻撃力)にも高い補正がついてるぞ。風属性だから、土属性の敵相手に特攻なのが特徴だな――」


 俺が説明をする間、取り巻き達は怪訝そうな顔で俺を見つめていた。


「それと、このナイフにはちょっとした特殊効果がありましてね」


 俺は手の中でぼんやりと緑色に光るエアリアルを、軽く回して見せる。


「特殊効果、だと……?」


 俺はニヤリと笑い、エアリアルを構えた。

 その切っ先を、取り巻きたちに向ける。


「エアリアルを振るだけで、風魔法が使えるんだよ」


「はあ? そんなのありえ――」

「哭け! エアリアルッ!」


 取り巻きAが言い終わる前に、俺はナイフを横一閃に振り抜いた。すると――


 ゴオオオオッ――!

 

 空気が爆発するような轟音とともに、強烈な暴風が発生した。

 噴水の水面が激しく波打ち、風に乗った冷たいしぶきがあたりに飛び散る。

 風の刃がうねりながら取り巻きたちに向かい、勢いよく叩きつけられた。


「うぎゃっ!?」「げぼっ――!」


 二人とも、風の力に吹っ飛ばされて、裏庭の地面に転がった。

 ローブは乱れ、髪はぐしゃぐしゃ。ホコリまみれの無様な姿である。


 俺は軽くエアリアルを握り直しながら、ヤツらの方にゆっくりと歩み寄った。


「どう? これがエアリアルの能力だ」

「ば、バカな……こんな……」

「おいおい、どうした? さっきの余裕はどこにいっちまったんだよ? 顔が真っ青だぞ?」

「ありえない……たかが幻造魔法で作ったアイテムが、こんな威力を持つなんて……ありえない!!」


 取り巻きの顔には、驚きと恐怖の色が浮かんでいる。


「オタクらが言ったように、幻造魔法じゃ、どんなに頑張っても不完全な模造品《レプリカ》しか作れない――」


 こいつらがさっき言ったことは、世間一般の幻造魔法の認識として、何も間違っていなかった。


 人間のイメージなんて穴だらけだから、そもそも本物通りの複製品なんて作れない。

 だから、魔法でアイテムを作るくらいなら、本物でいいじゃん、という根本的な矛盾がつきまとう。

 

 だから幻造魔法はザコ魔法扱いされる。


 現にゲーム原作では、グレイは幻造魔法を使って、原作主人公リオンに襲いかかり、返り討ちにされてしまった。


 なんか凄そうなことができそうな響きはあるのに、実態は実戦ではとても使い物にならない、見かけ倒しのショボい能力。

 それが俺の固有魔法、ファンタジアなのである。

 

 だけど――


 もしも、この世界はゲーム世界で。

 もしも、外の世界からやってきた転生者がいたとして。

 もしも、その転生者は、ゲーム知識を知り尽くしていたとして。

 もしも、その転生者が《《ゲーム終盤に登場する最強アイテムを、実体化したとしたら》》?


 そう、俺は原作ゲーム『アルカナ・クラウン』を、システム面では、結構やり込んだ。

 隠しダンジョンもすべてクリアしたし、ユニークアイテムは全コンプリートしてやった。

 攻略本も読み込んだおかげで、アイテムのステータスはもちろん、フレーバーテキストとして掲載されていた各アイテムの設定資料も頭の中に叩き込まれている。


 

 そうまでしてもBLには欠片も興味はわかなかったけどなぁッ!!



 この出来のいいゲームがBLゲーじゃなくて、普通のRPGだったらどんなに……

 かわいい美少女キャラが沢山出てくればどんなに……


 そんな怒りをぶつけるようにして、俺はこのゲームをやり込んだのである。


 なんか話がずれた気がしないでもないけど、とにかく、俺はその知識を活かして、ユニークアイテム・エアリアルを実体化したのだった。


 もちろんあくまで幻造魔法で生み出したレプリカにすぎない。

 当然ながら、その威力はオリジナルには遠く及ばない。

 それでも、格下のザコを散らすくらいなら、十分すぎるくらいの力を持っている。

 

「くっくっく……オタクら命拾いしたなぁ。これが本物のエアリアルだったら、今頃、体がバラバラに切り刻まれてるぜえ?」


 俺はボロ雑巾のように転がっている取り巻きたちに向かって、ニヤリと笑った。


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