第11話 魔法学校の初授業
翌日、いよいよユースティティア学院での初授業が始まった。
「それでは、基礎魔法学の授業を始めて行きましょう――」
来たぜ魔法学……!
ユースティティア学院は、貴族社会における優秀な人材――つまり優秀な魔法使いを育てるための養成学校。そのため当然、その授業のほとんどが魔法に関連することになる。
前世は清く正しいオタクだった俺。
当然、自分が魔法を使えるとなるとめっちゃワクワクしてくるのが性である。
モチベーションは十分。
やってやるぜ!
ちなみにこれから始まる基礎魔法学は、読んで字のごとし、学問としての魔法の基礎の基礎分野を学んでいくらしい。
いわゆる共通科目といったところだろう。
なので、マギナの教室ではなく、別の講堂みたいなところに移動して、ウルザの連中と合同でやっているというわけだ。
「この授業では、一般魔法を取扱います。さて、今更説明も不要でしょうが、基礎の基礎からおさらいをしていきましょう。まずは魔法の基礎概念の理解について——」
壇上に立つのは、三角帽子と黒ローブという、いかにも魔法使いなルックスの中年の女性教師だ。
若い女の子は珍しいくせに、中高年になると女性がちらほら増えてくるのがBL世界の辛いところである。
つーかこの世界の人口構造マジでどうなってんの?
まあ、それは別の話だとして……
「魔法は《一般魔法》と《固有魔法》に分類されます。同じ魔法と名が冠されるこの二つですが、その理論はまったくの別物です——」
先生が手元に握った魔法の杖を軽く振ると、背後に掲げられた黒板に青白い光の文字が浮かび上がる。
「このうち、一般魔法は、魔法の才ある者であれば基本的に誰でも習得可能である一方、固有魔法。これは生まれ持った資質や血筋、環境によって備わる極めて個人的な能力であり——」
先生はファンタジー世界観特有の謎理論を、流暢な口調で説明していく。
「そもそも、魔法とは、世界に満ちるマナに一定の指向性を与える行為であり――その基本的理論は古の魔法使いアリストテーレが理論化した四大元素説に支えられ——近年ではイデア界の研究が飛躍的に進展し、古代魔法の理論が現代魔法へと応用されるケースが増えています。アリストテーレの四大元素説に基づく基礎理論と、最新のイデア界論が組み合わされることで、魔法の効率や精度が向上しているのです――」
ふむふむ、なるほどなるほどぅ?
「具体例として防御魔法を挙げて理論変遷を説明してみましょう。従来は固定された範囲内でしか展開できなかったこの魔法が、イデア界理論による術式改良で、展開範囲を移動させる応用が――」
え、え……ちょっとまって先生?
早いよー、説明が早いよー。
「この術式では、魔力流路【λ】を媒介として、展開範囲を動的に設定します——従来の静的術式との違いは、以下の魔術理論に基づき、定量的に移動速度を表すことが可能で――」
ちょ、はやいはやい。
そんな大きいのもう入らないよぅ///
ノートに書き写す間もなく、次々に新しい情報が飛び込んでくる。
俺の脳内は完全にオーバーフローした。
結論。
全然、授業についていけねーぜ。
はっはっはっ……
はーっはっはっはっ!
「どうしましたブラッドレイ」
「いえ、なんでもありません」
そうだ、高笑いしている場合じゃない。
マジでどうしよう。
ちなみに他のクラスメイトたちの様子が気になって、周囲の様子を盗み見てみるものの、どいつもこいつも涼しげな顔で板書をノートに書き写している。
冷や汗を垂らしながら、授業を受けているのは、俺一人だ。
どうやら基礎魔法学という授業の名称に偽りはないらしく、それほど高度な内容をやっているわけじゃないらしい。
グレイ・ブラッドレイ。
貴様、学園始まって以来の落ちこぼれ設定は伊達じゃないということだな。
つーかさ。コネ入学だとしても、入学した後は授業についていかないといけないわけなんだから、だったらもう少しちゃんと勉強しとけタコ!
「――それでは理論的な話はこの辺りにしておいて、実践に入りましょうか。皆さん、各自杖を持ってください」
ああ、何一つわかっていないまま、なんか授業が次のステージに進んでいるぞ。
仕方ない、ノリで乗り切るしかない。
とりあえず懐から自分の杖を取り出して、見様見真似でそれを構える。
「まず基本中の基本、《ルークス》の術式を試してみましょう。《ルークス》はマナを収束させ、杖の先端に光を灯す魔法です。まずは術式を頭の中で唱え、イメージを集中させてください」
(イメージってなんだよ!? なんか光るものを頭に浮かべりゃいいのか?)
俺は頭の中で光り物のイメージを浮かべる。
スマホのバックライトとか、コンビニの看板とか、車のテールランプとか。
だけど、悲しいかな。
RPG的価値観から遠く離れた俺のイメージは、杖先を光らせるに至らない。
周りでは、クラスメイトたちが次々に杖の先端を光らせはじめる。
隣に座るアシュレイも、当然のように成功させていて、光が手元の杖先で穏やかに揺れていた。
俺はリオンの様子も気になって、後ろの席に視線を向けた。
ヤツは俺達貴族とは違って平民出身である。
ということは、これまで魔法に触れてきた機会は少ないはずで、俺と同じく手こずっているはず——
なんてこった! リオンの野郎も、あっさりと杖先を光らせてやがる。
「どうしたの、グレイくん?」
「なんでもねえよ、裏切り者が」
「え? なんの話?」
きょとんとした顔で首をかしげるリオン。
俺はその言葉をシカトして、自分の手元に視線を戻した。
(どうやらやるしかないようだな)
もう一度、祈るような気持ちで、杖先を光らせるイメージを込める。
だけど悲しいかな――杖には、なんの変化も起きない。
(おーい、どうなってんだよ、俺のマナ……いや、そもそもマナってなんなんだよ。話はそこからだよ)
「……大丈夫ですか、ブラッドレイ」
そうして悪戦苦闘している俺に、見かねたように先生が声をかけてきた。
はっと我にかえる俺。
周りを見渡すと、どうやら《ルークス》ができていないのは俺一人らしかった。
何人か——特にウルザ寮の連中のクスクス笑いが聞こえてくる。
てめえら、全員その顔覚えたからな?
ブラッドレイ家の執念深さ舐めんなよ。
俺がこの学院を卒業して、ビックな貴族になった暁には、金と権力を駆使してテメエらの人生叩き潰して——
いやでも一般魔法一つ満足に使えないんじゃ、ビックになる前にフツーに退学……
「ブラッドレイ、大丈夫ですか?」
「は、すいません、大丈夫です。いや、ご賢察のとおり、全然大丈夫じゃないですね! はっはっはっ」
俺は笑顔でサムズアップしてみせる。
「正直でよろしい。ですが、このままでは授業が進みませんね」
先生は一瞬考え込むと、ふと俺の隣に座るアシュレイに視線を向けた。
「ふむ、あなた、魔法の操作が非常にスムーズですね」
「私ですか?」
「はい。ちょうどいい。席も隣なことですし、ぜひブラッドレイに、基礎から手順を教えてあげてください。実際に手を動かしながら説明してみるのが、あなた自身の理解の深化にもなることでしょう」
「分かりました」
アシュレイが俺の方に向き直る。
「というわけだ。私にうまく務まるか分からないが、よろしく頼むグレイ」
「いや、すまん。助かる」
「それじゃあ……まずは体から杖の方に、マナを流し込んでみてくれるか?」
「それってどうやるんだ?」
「え?」
「え?」
アシュレイと俺は、互いに顔を見合わせた。
「どうやるって……杖を体の中を流れるマナの通り道に見立てるんだ。その流れを意識的にコントロールして、杖先まで流していく感じだ」
「なるほど、うん、全然わからん。そもそもマナってなに?」
俺がそう言うと、アシュレイが一瞬フリーズした。
そして少し間を置いてから、声を潜めるようにして、俺に耳打ちしてくる。
「グレイ……君はこれまではどうやって魔法を使っていた?」
「どうやってて言われても……ゲームのコントローラーを操作して、ステータス画面から魔法を選択して、属性の相性とMPの消費量に気にかける感じかな」
「え?」
「え?」
またしてもお見合い状態になる俺とアシュレイ。
それも仕方ない話だ。
前世の記憶を取り戻して以降、一度も魔法なんて使ったことがないのだから。
「ちょっと待ってくれ、グレイ……今、君にも分かるような説明を考えるから。少し時間をくれないか」
だが、そんな生まれたての赤ちゃん状態の俺を前にしても、アシュレイはさじを投げることなく、俺に付き合ってくれるようだ。
皆、この面倒見のよさを見てくれ。
きっとアシュレイの半分は優しさでできているに違いない。
ありがとうアシュレイ。
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