モウダレモアイスコトハデキナイ。
「私、昔――中2の頃、好きな子がいたんです」
早川さんは静かに語りだした。
* * *
「ずっと好きだったのっ!付き合って」
「まじで?いいよ。実はオレ、早川さんのこと、気になってたんだよね」
その時は、あんなに辛い思いをするなんてしるよしもなかった。
運命だと思った。
クラス――いや学年でも女子に人気があるあの人と付き合えるなんて、しかも!!
あの人も私のことが気になってたなんてっ!
私は、有頂天で毎日学校へ通った。
あの人に会うためだけに。
二人きりになると、『小毬』って優しく呼び捨てしてくれることも、
あの温かく大きな手で包んでくれることも
たまにする照れ隠しさえも。
彼の声で「好き」っていってくれただけで、私はとろけそうだった。
その人の何もかもが好きで、愛おしかった。
この人と結婚してもいいなんて思ったほど。
帰り道、狭い路地でこっそり甘く、くちづけしたことも鮮明に憶えている。
私が彼を愛すように、彼も私のことを愛してくれていたと思う。
あの時までは――。
放課後、私の家で談笑をしていた。
私がお茶のおかわりを持ってこようとキッチンに行き、戻ってきたときのこと。
「小毬。なにこれ・・・?」
彼が、眉をひそめて先月号の『ヲトメ倶楽部』を私に見せる。
ベッドの下に隠していたのだが、もっと分かりにくいところに隠せば良かった・・・。
後悔した頃には遅かった。
中身を見ていないことを、心から願った。
「ま、マンガっ」
「・・・小毬ってオタクだったの?」
――バレてしまった。
何よりも知られたくないことが、この人に。
「う、うん」
でも、私がオタクでもBL好きでも、私の事好きでいてくれるよね・・・?
「オレ、オタクって大っきらいなんだよね・・・。じんましんがでるほど」
「え・・・?」
「別れよう。オレの知ってた小毬はお前じゃない」
ワカレヨウ・・・?
あなたの知っていた私ってダレなの――?
海に沈んでいく気分だった。
なにも聞こえない。
なにも感じない――。
彼が出ていくと、私の目から大量の涙が溢れ出した。
モウダレモアイサナイ。
モウダレモアイスコトハデキナイ。
それから私は二次元の住人となった。
けど、人一倍臆病な私だから、外見だけは繕って。
三次元の人間は怖い。
それに比べてマンガやアニメの二次元のキャラは私を裏切らない。
ずっと逃げないで永遠に私のそばにいる。
ずっと―――。