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転生御者の異世界巡行記

転生御者の異世界巡行記

作者: いりえちほ

私が異世界転生ものと婚約破棄の二つをくっつけたらこんな話になってしまった…

硬いタイトルですが、ギャグを目指したはずでした…(笑)

少し雑ですが、楽しんでもらえると嬉しいです。

私の名前はアンビル。

転生者だ。


私は今、夕日をぼんやりと眺めている。

黄昏ているわけではなく、仕事の待ち時間をぼんやり過ごしているだけなのだ。


私の仕事は御者。

依頼を受けた人を安心安全に目的地までお連れするのが仕事だ。

仕事相手は様々だ。旅行に向かう新婚さんやダンジョンを向かう冒険者、そしてたまーに貴族様もお乗せする。


正直、平民が乗るような馬車に貴族様が乗ることはほぼない。

が、アンビル馬車は少し勝手が違うのだ。


もったいぶる必要もないので、お話しするが私は先程伝えた通り、転生者だ。

転生ボーナスで魔法チートなのだ、それも補助系の。

転生ボーナスなのか確認しようは無いが、転生前の記憶が戻ったと同時に補助系魔法の使い方が自然に理解できたので、勝手に転生ボーナスだと思っている。

因みに、補助系魔法では使えないものはないので、こちらも勝手にチート判定している。


何が言いたいかと言うと、補助系魔法をガンガンにかけたアンビル馬車は、とても快適なのだ。


見た目より広い。から、足を伸ばしてお休みいただけます。ベッドだって置くことは可能です。

揺れない。から、三半規管がズタボロな方でも酔わずに快適旅行をお約束します。これ自慢。

襲われない。から、時間厳守は当然のサービスです。認識齟齬の魔法を馬車全体に巡らせてます。

覗かれない。から、プライベートは完全確保します。認識齟齬の魔法は応用が可能です。


とまぁ、VIP対応なのだ。

宣伝はせず口コミのみで仕事をしているのだが、暇がない程度に、なかなか良いお仕事をさせていただいている。


そして、今日のお客様が滅多にない貴族様なのだ。


貴族様仕様として、外装にも補助系魔法をかけている。

貴族様が乗っていても問題ないように見えるよう魔法で外装に変えている。

カボチャを馬車に変えた魔法使いのおばあさんの気分になってしまうのは内緒だ。


今日は貴族界隈では、大事な日らしい。

なんでも、学園の卒業パーティーが行われているとのこと。

私は今日、その卒業パーティーに参加する伯爵ご令嬢を待っているのだ。


往路もお送りしたのだが、その時は簡単な挨拶をして暗い表情だったので、ご令嬢の近くにローズの香りを追加しておいた。

気付かれにくいがメンタルを安定させてくれると評判だ。


パーティー会場にたどり着いたご令嬢は少し表情も明るくなっていた。香り効果が出ていることを期待したいところだ。

「いってらっしゃいませ」

特に話すことは禁止されていなかったので、いつもの癖で送り出しの言葉を伝えると、ご令嬢は驚いたようにこちらを見た。

「…………………あ、ありがとうございます」

ご令嬢の言葉は私にかすかに聞こえるくらいの声色だった。


そして、日本時間で一時間半くらいたった頃だろうか。

ご令嬢が小走りでこちらにやってくるのが見えたのだ。

思ったより早いお戻りだ。

と、私は場所を動かし、ご令嬢が乗りやすい位置に素早く移動する。


他にも待機している馬車はたくさんあるが、こちらに向かっている人間が一人なので、誰にも邪魔されずにご令嬢の前につける。


ご令嬢は素早く乗り込むと「出してください」と一言。

私はなにも言わず、復路を目指した。


5分ほどたったであろうか。

ご令嬢が私に話しかけてきた。

「この馬車はプライベートを厳守する馬車と聞きました」

「認識齟齬の魔法にかけています。なにか追加でつけましょうか?」

「防音は可能でしょうか?」

「通常魔法でフォローしております。私にも聞かれなくない内容でしたら、そのように変更しますが」

「そう…変更は要らないですわ」


さらに5分ほどたったころだろうか。

「あなたはこの国の教育システムをどのくらい理解しているのかしら」

再度、話しかけてきた。

ちなみに、往路では30分ほどかかったので復路でもそのくらいかかるものだと思っている。要は、まだ三分の一くらいの旅程だ。


「そうですね…

この国の5歳から10歳までは身分に関係なく教育が受けられる、ということでしょうか。そのお陰で平民の私でも教育を受けることが出来ました。

ここまで教育に特化した国はほかにはないでしょうね。

国に体力がある証拠だ。


平民は基本的に10歳までですが、一部能力が認められればその教育期間は伸ばされて、国の発展のための教育が施される、聞いたことはありますが、まぁ都市伝説なイメージですね。

まぁ、貴族階層のお子様たちはほぼ全員が17歳まで教育されているのですから、国が貴族に対しての期待度というものが計れますね」


私は思ったことを素直に声にしてみた。

そう、この国の教育はかなり進んでいる、識字率も高い。

転生ものは、主人公以外は教育を受けれずに識字率も低い、という描かれ方も少なくはない。私がいる世界は本当に頼もしいとすら思う。


転生前のレベルに達しているわけではないが、それでもまぁ発展していけばいい感じに転生前レベルにはなるだろう。

魔法の存在がそれにどう影響するかはわからないが…


「そうですわ。国が貴族に対して期待していることは、よく治め、より繁栄・発展を目指すこと。これに尽きると思います。

ですが、今の貴族はそれを理解されていない方々もいらっしゃるのです」

呟いた声音はかなり暗い。


私が何も言わずにいるとそのご令嬢はぽつりぽつりと今日起こったことを話し出した。


曰く、今日は学園の年に一度の卒業パーティが行われていた。

知っている、そのために私は御者をしているのだから。


曰く、ご令嬢はこの国の第二皇子の婚約者だった。

この馬車を使うくらいだから、顔の広い貴族様だと思っていたら、本当にかなりの権力者だった。


曰く、途中までは仲良くやっていたものの、能力を見込まれて15歳の時に貴族学園に少女(平民)が一人転入してきた。

あ、その都市伝説事実だったんだ。


曰く、勉強はとてもよくできたその少女は貴族の常識を全く理解せず、好き勝手し始めた。

まぁ、貴族の常識はたまに意味が分からないものもあるからなぁ。


曰く、ご令嬢の婚約者の第二皇子はその少女が気に入ったのか、ご令嬢よりその少女を優先させるようになる。

ん??気に入った程度で貴族の常識がない少女に入れあげるそいつ、やばくね?


曰く、今年19歳になる第二皇子に並ぶようにもご令嬢は15歳にて学園のすべてのカリキュラムを終え、そろって今日の卒業パーティに出席した。

え?このご令嬢15歳なの?飛び級?すごくね?


って…


「え??」

黙って聞いていた私が思わず声を出してしまった。

「どうかしましたか?」


「すみません。話しの腰を折ってしまって。気になったことがありまして…」

「なんなりとどうぞ」

「第二皇子って今年19歳っておっしゃっていましたよね?2年留年したんですか?」

「………………………留学扱いです…」

「留学ですか。でも、留学先で単位を取っていたら、この国でも反映するシステムでしたよね?」

「………………………そうなんですよね…」

「つまり、2年間の留年を隠しておきたくて留学扱いしているが、当然そこでも実績がないから、2年年下の子と一緒に卒業、と」

「………………………そのとおりです…」


えっと

第二皇子ってバカなのかな??


「………………………続きをどうぞ…」


私はこの辺で少し嫌な予感を覚えてしまった。

展開が読めてしまったのだ。というより、最近流行りだと有名な小説とそっくりなのだ。

私は読んだことはないのだが、その小説を最後まで読んだ女冒険者は「本気でそんなことする王子様がいたら、その国から俺は一番に逃げる」とのたまっていた。勇ましい女冒険者で、ランクも高く、人望もあるとのこと。

げらげら笑いながら言ってはいたが、多分彼女は本気だろう。目が全く笑っていなかった…。

彼女がほかの国とか行ったら、ある程度の冒険者の流出は免れないだろう…

私のお客さんにも影響しそうだなぁ…

はぁ


曰く、今日の卒業パーティで婚約破棄を言い渡されたらしい。

Oh , my God

先ほどの女冒険者が「ありえない現実」と何度も言ったことが、ご令嬢から口から出てきた。


曰く、お前のような可愛げのない女に王妃には向かない。


「は??」

黙って聞いていた私が思わず声を出してしまった。

「どうかしましたか?」


「すみません。二度も話しの腰を折ってしまって。気になったことが二つほどありまして…」

「なんなりとどうぞ」


軽いデジャヴュを感じるものの、そんなこと構ってられない。

本題はそこではないのだから。


「まずですね…ご令嬢の婚約者って第二皇子、ですよね?ってことは第一王子がいてその方が皇太子だと認識していたのですが…いつの間に皇太子が変わっていたのでしょうか?」

「………………………そうなんですよね…」

「確か皇太子さまにはちゃんとした婚約者様がいて、今年20歳でとても優秀だと評判なのですが…」

「………………………そのとおりです。

これから話すことは後宮内ではとても有名なのですが、外聞が良くないので外には出ていない話なのですが…。皇太子の第一王子は現在の王妃様のお子様でとても優秀です。少し天然なところもありますが、それがとても良いバランスで、周囲もギスギスすることなく、業務を進めてらっしゃいます。

一方、第二皇子はご母堂は側室の身分ではございます。とても優秀な女性なのですが…」

「あー。息子はぼんくら」


私のストレートな言い様にご令嬢は少しあっけにとられている。まぁ、無礼っちゃ無礼な言い方だが、この馬車の中は、治外法権を謳っているのだ。


「文武両道で美しいと評判なお兄様に比較されて、あまり誇れるものがない息子はひねくれてしまったってところでしょうか。それで人より2年長くかけて卒業したものの自分の婚約者はそれを2年飛び級でクリアしているものだから、自分を見下げていると勝手に思い込んで、より卑屈になったんでしょうかね。貴族常識のない少女を自分より劣っていると、安心して入れあげたって感じですかね。まぁ、少女が留年もしていないのであれば、第二皇子の方が劣っていると判断されてもおかしくない案件ですよね」


たまにあるのだ。

親が美しくても子供が美しくなるかどうかは分からない。

優秀な親の元に生まれるのが優秀かどうかも、正直わからないのだ。

遺伝子の神秘だ。

私の個人的な見解を言うながら、ほとんど教育環境、つまりは本人のやる気次第なのだ。


私の物言いに、ご令嬢はクスクスと笑い出す。

「その通りですわ。第二皇子はぼんくらなのです」


ご令嬢は少し開き直ったのか、声音が開き直りに比例した分だけ明るくなる。笑いを抑えきれない様子だ。

「御者さま。気になったもう一つのことは何でございますか?」


「私に敬語は不要ですよ。

王妃に可愛げって必要なのですか?可愛げで統治が出来るほど、国政は甘くないと思うのですが…」


私の言葉にご令嬢は耐えきれなくなったのか、笑い出す。

とはいえ、ご令嬢としてのプライドがあるのか、必死に笑い声を出さないようにしている。


「この馬車は防音室です。笑っても泣いても、誰にもばれはしません」


私の言葉にご令嬢は遠慮なく笑い出す。


「私、頑張ってまいりましたの。

第二皇子がぼんくらなのは周知の事実。私が足りない分を補えばよいと必死に勉強に勤しみましたわ。第一王子と婚約者様の雰囲気が羨ましくて、第二皇子との関係にも心を配りましたわ。

その結果が『俺を見下している』って…。

だったらどうすればよかったのかしら…第二皇子と一緒に呆けていれば良かったのかしら…」


ご令嬢の言葉は少しずつ、水分を帯びたものになっていく。

私は何も言わずに、補助魔法を展開する。少しだけ、心を軽くするローズの香りを薄く流す。


「貴族の教育機関は御者様の言う通り、国を治めるものを教育する機関。

血税を収めてくれる人たちによりよい生活を、快適な生活を送るために作られた機関。

そのために、私たちの先祖は試行錯誤を重ねて、それを作り上げた。

そのことを思うと、私は第二皇子と一緒に呆けるなんて選択肢は取れませんでした…」


そこからご令嬢に背を向けている私でもわかるくらい声を殺して泣いていた。

その合間に「好きだったのです。政略結婚とはいえ、私は第二皇子をお慕いしていたのです…」と小さなつぶやきが聞こえた来たが、私は聞かなかったことにした。


好きだから努力をした。好きだから我慢をした。好きになってもらう努力の対価が罵倒ではその努力は報われない。

軽く10分は泣いていたと思う。少し呼吸が落ちついた。


とはいえ、このご令嬢は視野が広いな。

確かに学園にはそのような側面もある。だが、それ以上に…


「ご令嬢。

貴族の教育機関は、これから国を治めるための必要な強い味方や仲間を見つめる場でもあるのだと私は思うのですが、そのような方との交流はありましたか?」

「………えぇ。

趣味の話から、学術の話、市政に必要な施設や法律についてなんか熱く討論した方はたくさん」


「そうだと思いました。ご令嬢はとても視野が広く、思慮深い。どんなに頭が切れても、仲間がいなければ飛び級のクリアなど難しいと言いますから」

「友人には恵まれました。第二皇子のことも早く見切りをつけろと数名の友人から言われていて…

そうですわね。そういった友人と出会えたことを思えば私にとってもとても意義ある時間ですわね」


通常、飛び級を行う上で最後までやり遂げるためには友人のフォローは必要不可欠になる。

もともとの同学年の友達と離れ、年上と一緒に学ぶことになることは、浮いてしまったり、同年代の友達ができずに悩んでしまったりする可能性もある。

飛び級先でも友人を得ることが出来たのは、ひとえにこのご令嬢の努力のたまものでもあろう。


そんな年下とはいえ、努力する姿を見て友人になった貴族のご子息・ご令嬢たちが今回の婚約破棄騒動を黙って見逃すわけがない。


まぁ、第二皇子のことは知らんし、平民の少女のことも知らんが、このご令嬢には味方いるようで安心した。


私は苦手な部類に入るジャンルの魔法で小さな氷を出すと、ハンカチでそれをつつみご令嬢に渡す。

「これを目に当てていてください。少しですが、目のハレが落ち着きますので」

ご令嬢は何も言わないが、衣擦れは聞こえたので、受け取ってその通りにしたと勝手に判断する。


残りの工程は二人とも無言で過ごし、短い復路も無事何事も起きずにご令嬢宅に到着する。


到着を伝えると、ご令嬢はにこりと微笑む。

「御者様。お名前を教えていただけますか?」

気は少しは晴れたのか、今日初めて見るご令嬢の笑みだ。癒される。


「アンビルです」

「アンビル様、ありがとうございました。私の名前はローズ。ローズ・ヴァロワですわ。バラの香りありがとうございました」

私は気づかれないだろう香りのサービスに気付いてくれたことに驚きつつも答えると、ご令嬢、もといヴァロワ嬢の言葉に私は微笑みを返した。


翌日、私が職場に向かうと職場は一つの話題で大盛り上がりしていた。

昨日の卒業パーティで第二皇子が何かをやらかしてしまい、大多数の貴族の支援を打ち切られて孤立無援状態になってしまったよう。

それまで何とか支えていたご母堂(側室)と第二皇子の元婚約者はこれ以上は無理…と愛想をつかされてしまった模様。

ヴァロワ嬢の名前は出てこなかったが、婚約は無事破棄されたこと、これの責任が第二皇子にのみあるとされたのをみて、この国はまだ大丈夫だな、と女冒険者にはそれとなく伝えようと思う。


あ、渡したハンカチ返してもらってないや。

アンビルは御者組合に加盟して仕事をする20歳男性。転生前の情報が全くないのは…ご容赦ください。


ヴァロワ嬢の周りが全力でヴァロワ嬢を守りに来ました。多分、ヴァロワ嬢は幸せになります。

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