【48】『やっと会えたね』
対物ライフルによる一斉射撃によって、魔族の姿となった王弟の体がバラバラに吹き飛ぶ。
もちろん突破口となったのは、ラナの『限界突破』による斬撃だ。
もし王弟が王兄と同じスペックなら、その肉体強化スキルによって、対物ライフルだけでは倒す事は不可能だっただろう。
だが裏を返せば、同スペックなら王兄と同じ攻略法で、王弟も倒せると俺は予測したのだ。
「グアアアアーッ!」
王兄と同じく、首だけとなった王弟が、断末魔の叫びを上げながら宙に飛ぶ。
ラナの渾身の斬撃で傷さえつけてしまえば、その中身は王兄同様もろいものだった。
バイポッドで地面に固定砲台の様に配置したバレットM82は、あらかた銃身が吹き飛んでいる――。
無人のまま、ククルの鞭で引き金を引くという反則技を使わなければ。俺の身も無事ではなかっただろう。
だが俺は王兄戦から学習した。
攻撃法、そして自分の身を守る防御法――。それらを創意工夫によりアップデートする事で、王弟に無傷のまま勝利する事ができた。
――これで終わりだ。
あとは最後の仕上げにかかろう。
「ラナ、とどめを刺せ!」
「はい!」
ラナが朝日を浴びながら、地を蹴って飛ぶ。
そして大上段から大鎌を振り下ろすと、王弟の首が真っ二つに斬り裂かれる。
「――――!」
王弟は、もはや声を発する事もできない。
それほど凄まじい、会心の斬撃だった。
ドサッという音を立て、王弟の首が地に落ちると、煙の様に消滅していく――。
これで本当に――、本当にすべてが終わったのだ。
幼体だった『暴食神』の分裂体も、宿主である王弟の死によって共に消滅したに違いない。
同時にそれは、この異世界におけるミッション終了を意味していた。
間もなくセンチアに導かれ、俺とククルは別の異世界に行く――。
この世界に残していく、ラナの事がやはり気がかりだが、王弟の配下たちも神の御使いとして魔族を討った俺たちを、遠まきながら拍手喝采で称えている。
たとえ一人になっても、おそらくラナの身分は救国の英雄として、悪い様にはされないだろう――。
センチアは現界したまま、王弟の死体を検分している。
『暴食神』の消滅が確認されれば――、それがお別れの時だ。
「ラナ――」
俺は残された時間で、ラナに声をかけにいく。
「よく頑張ったな」
「はい、レオさんのおかげです」
家族の復讐を遂げた安堵と、俺との別れの悲しみで、ラナは泣き笑いの表情になっている。
「ラナ……、ありがとう」
「そんな言い方……、ずるいです……」
こらえきれず涙を流すラナが、俺の胸に飛び込んでくる。
「…………!」
もう俺も自分の気持ちを、どうする事もできなかった。
「ラナ……」
だから俺が消えてしまう最後の瞬間まで、ラナを抱きしめていようと、肩にまわした腕に力を込める。
その瞬間――、
「はうっ!」
ラナが体を大きく揺らしながら、苦しそうな声を上げた。
「――――⁉︎ どうしたラナ⁉︎」
慌てる俺の耳に、
「おい、レオ!」
というセンチアの絶叫が飛び込んでくる。
「なんだよ、今こっちはそれどころじゃ――」
「ぼ、『暴食神』が……、おらんかった……」
「――――⁉︎」
センチアの動揺した声に、俺もラナを気づかいながらも目を見張る。
「ど、どういう――」
「いったい、どういう事ですの⁉︎ 私たちは王兄、王弟の『二者択一』のミッションを果たしたはずじゃありませんの⁉︎」
俺を遮って、ククルがセンチアを詰問する。
『二者択一しないと出られない異世界』
ククルの言う通り、俺たちはこの『お題』に沿って、『暴食神』を探してきた。
そしてこの異世界を二分して争う、王兄と王弟が『暴食神』だと踏んで、その討伐に乗り出したのだ。
先に討伐した『暴食王』の異名を取る王兄は、結局『暴食神』ではなかった。
ならばと挑んだ王弟討伐を成し遂げたというのに、今また王弟も『暴食神』ではないとは、これでは『二者択一』が成立しないではないか。
それに王兄討伐に出発する時、俺の固有スキル『裏読み』は警告を与えてきた。
だが今回の王弟討伐に、『裏読み』は発動しなかった。
それは王弟こそが『暴食神』であると示唆していたのではなかったのか――?
「本当に、『暴食神』はいないのか⁉︎」
「おらん……。確かに『暴食神エウロラ』はこの世界に……、ワシらのそばにおるはずなのに、王弟の中にはエウロラの残滓がカケラもないのじゃ」
俺の問いかけに、センチアも動揺を深めていく。
ククルも、もはや言葉を失って呆然と立ち尽くしている。
「フフッ」
そんな時、腕の中のラナが小さく笑った。
「ラナ……?」
苦しそうにしていたはずのラナの変化に、その顔を覗き込む。
「ねえ、どうして私の言う事を聞いてくれなかったの?」
「えっ……?」
顔を上げ、意味不明な事を口走るラナに俺は動揺する。
「だ、か、らぁ、私は『違うよ』って教えてあげてたじゃない」
ラナの口調がおかしい。ラナはこんな幼い喋り方をしない。
「――――⁉︎」
突然、俺の脳裏にある記憶が蘇る。
この喋り方は――⁉︎
それは王兄討伐に出発する時――。今と同じ様にラナを胸に抱いた時に、念話の様に俺の心に聞こえた声と同じだった。
あの時、この声は確かに『違うよ』と言っていた。
そういえば、その直後に『裏読み』の悪寒も襲ってきた。
すべての謎が繋がっていく事に、俺は恐怖を覚える。
それだけじゃない――。この幼い声は王兄との死闘の後、俺が意識を失っていた時も同じ事を言っていた。
そして王弟討伐に乗り出さんとした時も――、この声は俺に『混沌が食べたい』と言ったんだ……。
センチアが教えてくれたその正体を、
「え、エウロラ……」
俺は無意識に口走っていた。
同時に俺は、その声が聞こえた時は――、いつもラナと触れ合っていた事に気付いてしまう。
――まさか⁉︎ まさか、まさか、まさか⁉︎
「やっと会えたね、レオ」
ラナが満面の笑みで、俺に笑いかける。
いや、こいつはラナじゃない。
「レオが二人も王様を殺してくれたから――、この世界が『混沌』に染まってくれたよ」
その言葉で俺は確信する。
「エウロラ……。お前……、ずっとラナの中にいたのか?」
「そーだよー。じゃあ、いっただきまーす!」
呆然とする俺に向かって、ラナが大きく口を開ける。
「なっ⁉︎」
次の瞬間、ラナに噛みつかれた俺の喉笛から、真っ赤な鮮血が吹き出した。




