【47】『器用貧乏の意地』
――王弟の正体は魔族。
しかもこいつは、その魔族の本質を抑えきれずに、人食いに走った『暴食王』こと王兄に比べて、ずいぶんと『したたか』だ。
王兄の暗殺をラナにやらせておきながら、それが成功すると、口封じのため貧民街ごと皆殺しただけでなく、同時に王兄の領土を制圧するために軍を動かすなど、並の将にできる事ではない――。
だがその狡猾なやり口は、王兄の暗殺に随行していた近衛騎士を『捨て石』にしていた時から、俺は気に食わなかった。
王弟は強大な力を持ちながら、けっして自分の手を汚さない。
魔族ながら策でもって人間を翻弄し、その上に君臨しようとしている。
そう、あくまで人として生きようとしているのだ――。
王弟には、王兄の様な、魔族を連想させる狂気の噂もない。
おそらく王弟は、魔族の正体を晒すよりも、人として生きた方が得策だと計算したのだろう。
だがその薄汚い思惑のために――。そんな事のために、エルが、アーシャが、カムリが、そしてラナの母親が死んだのだ。
絶対に許しはしない。
俺がその姿を、白日の元に晒してやる。
そのために俺は自分たちを、神の御使いだと宣言した。
そして王弟の正体は、魔族だと。
このままなら、俺の言葉はただのハッタリだ。
だけど――、俺には本物の神様がついてんだよ!
「センチア!」
俺の合図と同時に、頭上の時空が歪む。
そこに――、いつもより三倍増しの光を放ちながら、センチアが現界する。
「者ども! 我は七大神にして『強欲』を司りし、『最高神センチア』! 今こそ我が鉄槌により、魔を討滅せん! 道を開けいーっ!」
一瞬で、センチアの神気が戦場を支配した。
同時に俺たちの後方から、朝焼けの光がまるで後光の様に差してきたのも、まさに僥倖だった。
王弟を守る兵たちは、初めて見る神の姿に呆然としてしまっている。
「道を開けろーっ!」
俺は手にしたままのM16を、道に向かって乱射する。
剣と魔法の世界で、アサルトライフルという未知の武器は、さらに俺たちの存在を神がかって見せる。
そこにククルも鞭を振るいながら、『電撃』や『火炎』などの、ことさら派手なスキルを連射するものだから、兵の動揺はさらに深まっていく――。
その結果、
「うわわわーっ!」
「か、神が……、神が降臨されたぞ!」
王弟を守る兵たちが、次々と左右に逃げ散っていく。
そしてついに――、王弟の姿が見えた。
白銀の鎧を纏い、貴公子然とした姿は王兄とは違い、まるで本当に人間の王族の様だ。
だからこそ胸糞が悪くなってくる。
こいつは倒すべき『暴食神』――。そしてラナの家族の仇の『魔族』だ。
だが俺が魔族だと言っても、まだ兵は王弟を人間だと思っているだろう。
だから狡猾な王弟は、このままでは絶対に魔族の正体を現さない。
――見てろ、その正体を暴いてやる!
「ラナ、道が開いた。あの男が王弟だ――。一気に斬り裂け!」
「はい!」
俺の言葉に、ラナの体から激しい光が放たれる。
仇を目にして、固有スキル『限界突破』が一瞬で最高潮に達した様だ。
「あああああーっ!」
ラナは戦車の荷台から飛び出すと、軍馬を超えるスピードで、一直線に王弟めがけて駆けていく。
もうスキルレベルを確認する必要もない。
ラナの『斬撃』は、確実に『人間』の王弟を一刀両断できる。
「お、おのれい!」
危機を察知した王弟が、動揺した声を上げる。
王弟も今のラナの力が、尋常でない事を肌で感じた様だ。
それでいい――。さあ己の身を守るために、醜い魔族の姿を白日の元に晒せ!
「グガーーーッ!」
次の瞬間、鎧姿の貴公子は雄叫びを上げながら、その身を虎の様な魔獣の姿に変えた。
「フン!」
そして、さらに気合いの叫びを上げると、スキルで自身の肉体を鋼の様に強化する。
やはり王弟も、王兄と同じスキルを持っていたのだ。
「ば、化け物だーっ!」
「お、王弟様は魔族だったぞ!」
王弟の正体を目にした兵が、大混乱を起こし、散り散りに逃げていく。
これで、もはや兵が王弟につく事はない。
センチアをダシに使った、不遜極まりない策だったが、見事に王弟を孤立無援とする事に成功した。
「王弟、みんなの仇!」
ラナが大鎌を、王弟めがけて振り抜く。
だが渾身の一撃は、もはや『人ならざる魔族』となった王弟の肉体強化スキルに阻まれる。
「グハアッ!」
王弟は胸板を深く斬り裂かれながらも、倒れる事なく踏みとどまっている。
万事休すか――。いや、そんな事にはさせない。
「ラナ、あとは任せろ!」
俺は叫びながら、残ったMPで次々と武器を錬成する。
――ドン、ドン、ドン!
俺の目の前に、無骨な鉄の塊が並んでいく。
バレットM82――。
俺が王兄の体を吹っ飛ばした対物ライフルだ。
それを今回は、十挺近く用意してやった。
もちろん俺の『創造』スキルは、まだこれを完全錬成するには至っていない。
そのおかげで、前回は銃身の変形で俺は軽く死にかけもした。
だがな――『器用貧乏』ってのは、同じミスは二度はしねえんだよ!
「ククル!」
ラナが射線から逸れた事を確認すると、俺はククルに合図を送る。
「はい、いきますわよ」
ククルは両手に何本もの鞭を構えると、それを蛇の様に自在に前方に放つ。
ぶっ壊れる前提の固定火器なら、別にその近くにいる必要はない。
引き金を――引きさえできれば、それでいいんだ。
ククルの鞭が、すべてのバレットM82の引き金にかかる――。
「準備完了ですわ」
「よし、撃て!」
俺の叫びと共に、ククルがすべての鞭を勢いよく手前に引く。
次の瞬間、まるで艦砲射撃の様に12.7ミリ弾が、王弟目がけて連射された。




