【46】『本陣突入』
前線基地の柵を挟んで、激しい攻防戦が繰り広げられる――。
相争っているのは、同じ王弟軍だ。
それが共に、
――王兄軍に通じた反乱軍を討て!
と言っている。
自分で仕掛けておきながら、策の効果に驚くばかりだ。
異世界といっても心を支配してしまえば、こうも簡単に人は間違った行動をしてしまうのだ。
だがこの同士討ちは、スキルの力に依存しているのも事実だ。
つまり、スキル『撹乱』『情報操作』の効果が切れれば、みんな我に返る。
それまでに――勝負をつけなければならない。
はるか先の地平線に、朝日も昇り始めている。
暗闇が晴れれば、奇襲の効果も薄れてしまう。
ここからは俺たち自身の戦いとなる。
王弟の所在を突きとめたら、一気にその首を獲りにいかなければならない。
『センチア、瘴気の気配を探してくれ!』
俺は思念体として同行しているセンチアに、ターゲットの捕捉を依頼する。
王兄の正体は、天界より堕天した魔族のなれの果てだった。
それならその一族である王弟も、魔族と考えて間違いない。
センチアは王兄を奇襲する時も、しきりと『魔の瘴気』を感じていた。
王弟が魔族なら――、今回も瘴気を辿る事で、その所在が分かると俺は踏んだのだ。
『フッ、いいとこに目をつけおったの。任せておけ!』
センチアそう言って、しばし沈黙する。
『クッ、王弟の奴め、あの獅子面の兄よりも幾分賢いようじゃの』
『どういう事だ?』
『瘴気を隠そうとしておる――。だが……ワシの目から逃れられると思うてか!』
王弟の潜伏工作に、センチアは闘志をみなぎらせる。
『クックックッ、見つけたぞ! 奴はこの前線基地の中央におる!』
センチアの言葉と同時に、俺はスキル『探索』を展開する。
要塞都市の中央にピントを合わせると、なるほどセンチアの言う通り、広場らしき場所に本陣と思われる一団が確認できた。
ここに王弟が――『暴食神』がいる!
俺はターゲットを確認すると、
「ククル、柵の中に突っ込むぞ!」
弓矢の一斉掃射終わり、白兵戦に移行した戦場を指差す。
「突撃ですわね。露払いはお任せしますわよ」
ククルも臆する事なく、手綱を引きながら、今度は攻撃のために鞭を構える。
そして軍馬のいななきと共に、俺たちを乗せた戦車が、脇目も振らず柵へと激走する。
要塞都市とは名ばかりの粗末な前線基地だが、頑強な丸太で編まれた柵は、馬の体当たり程度では当然破壊できない。
だからククルの言っている、『露払い』が必要なのだ。
俺は両手に念を込めると、柵を破壊するための兵器を錬成する。
――M203グレネードランチャー。
アサルトライフルであるM16に装着したそれを、俺は柵に向かって狙いをつける。
簡単に言えば小型バズーカで、そこまでの威力はないが、不安定な姿勢で撃つなら最適解の武器だ。
俺はククルの隣から身を乗り出すと、柵から約五十メートルの距離で引き金を引く。
数秒後、40ミリグレネード弾が小さな爆炎を上げると、柵の一部にポッカリと穴が空いた。
「あそこだ! 突っ込め!」
「心得ましたわ」
ククルの操る四頭の軍馬が、崩れた柵を吹き飛ばし、ついに俺たちは前線基地に突入する。
そこからスキル『探索』で割り出した経路で、中央広場に続く要塞都市の大通りを目指す。
基地内も混乱の真っ只中のため、さしたる抵抗もなく俺たちの戦車は大通りに到達するが、
「ダーリン⁉︎」
ククルの慌てた声に前を見ると、道の先に整然とした布陣が見える。
――どう見ても数百単位の兵がいる。
おそらく基地の半数以上の兵が、俺が寝返りと誤認させた先発部隊への迎撃に回っているのだろうが、さすがに本陣まで手薄にする愚は犯していなかった様だ。
「クソッ、まだこんなにいやがったのか⁉︎」
俺の銃火器で突き崩すにしても、限界がある。
ククルのスキルも集団戦には不向きだし、ラナの『限界突破』も一撃必殺に特化している。
――何かねえのか? この状況をひっくり返す劇的な一手が⁉︎
もう神に祈るしかない心境になった俺は、
「――――⁉︎」
その神がいると気付いた瞬間、新たな策が脳裏にひらめく。
『センチア――』
そして念話で、その策を打診する。
『――――⁉︎ お前、本気か?』
『一気に勝負をかけたい。奴が魔族なら――きっとこの手でうまくいく!』
『やれやれ、しもべの分際で、神を策に用いるか……。フッ、さすがはワシが見込んだ『強欲』じゃの。よかろう、やってみい!』
センチアは半ば呆れながらも、俺の気迫に素早く決断を下してくれる。
それから俺は、間髪入れずに次の布石を打つ――。
「ラナ、俺が今から道を開く――。勝負は一撃だ。その準備をしておけ」
俺はラナに『限界突破』の準備を促す。
「……はい!」
詳しい説明のない事に少し戸惑いながらも、ラナも大鎌を錬成すると、来たるその時のために気を練り始める。
「ダーリン、準備はよろしくて?」
本陣が近付くと、ククルが不敵に問いかけてくる。
ククルも、俺とセンチアの念話を聞いている。
どうやら俺が立てた大胆不敵な策が気に入ったらしく、いたく上機嫌の様子だ。
ククルがそう思ってくれる事で、なぜか俺も力が湧いてくる――。
「ああ。そんじゃあ、いっちょブチかますぞ!」
そう言って俺は大きく息を吸い込むと、
「聞けーーーっ!」
と、約百メートル先に陣を張る本陣へと、あらん限りの大声で呼びかける。
今から打つ策は、虚報でもハッタリでもない。
正真正銘の――真実。
だからこそ価値がある――。
「我らは神の御使い! これより人の姿を装いし魔族――、王弟を征伐する!」




