表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

91/114

【43】『食べたい』


 ラナの母親、そしてエル、アーシャ、カムリの亡骸を、家のそばに埋葬し終えると、もう夜明けが近付いていた。


 それから俺たちは家の中に戻ると、今後について話し合う。


「ラナ……。こんな時に悪いが……、俺たちは『暴食神』の討伐に向かう」


「………はい」


 やはりラナは複雑な表情を見せるが、それでもけなげに俺の言葉に従ってくれる。

 だからこそ――、俺は真実を言っておかねばならない。


「聞いてくれ、ラナ。詳しい説明はできないが……、おそらく『暴食神』は王弟だ」


「――――⁉︎」


 その瞬間、ラナの目つきが変わる。


「レオさん、『暴食神』の討伐に、いえ王弟の討伐に私も連れていってください! お願いします!」


 当然、こうなるとは思っていた。

 だから俺は、ラナ自身のために、その覚悟を問う。


「いいかラナ、たとえ王弟を殺しても、死んだ人間は帰ってこない」


「はい」


「お前が俺たちと同行するのは敵討ちという『私怨』だ――。その事も分かっているか?」


「分かっています。私は家族を殺された恨みを晴らすために、王弟を殺したいんです。それがまた私が人殺しになってしまう事だって……、分かっているつもりです」


「もう一つ――。王弟が倒せて、お前がみんなの無念を晴らせても、その後、お前は一人になってしまう……。もしお前の心が虚しさでいっぱいになっても、その時、俺はもうお前のそばにはいない……」


 自分でも、かなり残酷な現実を突きつけている事は分かっている。

 だが、それは必然として起こるのだ。


 俺は『暴食神』である王弟を倒せば、この世界から消える。

 ラナは王弟を殺した後、その手に何一つ残らない事を理解して、かつそれに耐える自信はあるのか――?

 俺はその覚悟を問うているのだ。


 できればこのまま、母親と妹弟たちを弔いながら、静かに暮らす方がいいとも思っている。

 すべて『大罪のカルマ』によって導かれた運命だったとしても、もうこれ以上、辛い思いをしなくてもいいはずだ。


「…………」


 ラナも考えている。

 よく考えてほしい。これは彼女の人生なのだから。


 しばしの沈黙の後――、


「たぶん……一人になるのは、とても辛いと思います」


 目を伏せながら、ラナが呟く。


「きっと、すべてが終わって一人になったら……、私は泣いちゃうと思います」


「…………」


 自分で問いかけておきながら、俺の胸は張り裂けそうになる。

 だがラナは俺が思っているよりも、ずっと強い女の子だった。


「でも、言いましたよね。私は最後の時まで、レオさんを応援しますって……。だから――、最後の時まで一緒にいさせてください」


 ラナはキッパリとそう言い切った。

 そこに一切の虚勢は見受けられなかった。


 もうこれ以上、何も言う必要はない――。


 そう判断した俺は、


「センチア――。認めてくれるか?」


 と虚空に向かって、肉声で呼びかける。


 すると空間の一部が歪んでいき、


「よかろう――。その覚悟、『強欲神センチア』が認めてやろう」


 センチアは現界して、その身をラナに向かって晒す。


 こう言ってはアレだが、いきなり目の前に神を名乗るロリババアが現れたのだから、ラナは目を丸くしている。


「ラナ、驚かせてゴメン。こいつは『強欲神センチア』――。俺が契約した……まあ雇用主みたいなもんかな」


「か、神様ですか……?」


 ざっくりとした説明にもかかわらず、ラナはセンチアの存在に畏敬の眼差しを向ける。


「しもべの分際で、最高神に向かって、こいつとはなんじゃ、まったく」


 センチアはまず俺に苦言を呈してから、


「フン、まあよい――。ラナよ、母より『怠惰のカルマ』を背負いし大罪の子よ。我の剣となるに際し、世の理を知るがよい――」


 そう告げると、宙に浮いたままラナに手を伸ばし、額に手をかざす。


 その手が光を放つと、


「おいセンチア、なにやってるんだ⁉︎」


「やかましい。我ら七大神による世界の成り立ち。それと『暴食神』についての情報を流し込んでおるだけじゃ」


 慌てる俺をよそに、センチアは事もなげに言う。


 そんな便利システムが? と俺は半信半疑だったが、ラナは次第に得心した顔付きになっていく。


「――――。『暴食神』を倒さなければ……、この世界は滅びるのですね?」


「そうじゃ。辛い戦いになるが、ワシらに力を貸してくれるか?」


「はい、センチア様――。私も『大罪のカルマ』を背負った者ならば、他人事ではありません。私にも手伝わせてください」


 本当にラナは、すべてを理解した様子だ。

 ならこれで一丸となって、王弟討伐に向かえる――と思ったが、ふと壁際に佇むククルが浮かない顔をしている事に、俺は気付く。


 明らかに、何か思うところがある顔付きだ。


 だから念話でその真意を問いただそうとした瞬間、


 ――ドドドドドッ!


 という地を揺るがす響きに、俺たちは呆然となる。


「キャッ!」


 ラナがバランスを崩して倒れそうになるのを、俺は片手で受け止める。

 そして、そのままもう片方の手を宙にかざし、スキル『探索』と『索敵』を展開する。


 脳内に流れ込む周囲の立体像――。


「――――⁉︎ 軍だ、軍が動いている! 百や二百じゃねえ、万単位の軍が東に向かって動いているぞ!」


「王弟の軍が……、王兄の領土を制圧にかかったのですわ」


 俺の言葉から、ククルが状況をそう結論づける。


「まずいぞ! 大乱となれば『暴食神』の思うツボじゃ!」


 センチアも王兄暗殺からの、この流れに動揺を隠せない。


 その時――、


『ああ、食べたい――』


 という幼い女の声が、俺の脳内に流れ込んでくる。


 ――――⁉︎ またあの声だ!


「食べたいって、何がだ⁉︎」


 俺は構わず、肉声で語りかける。


『強欲、傲慢、怠惰――。ううん、嫉妬と色欲と憤怒も。その全部が混ざり合った『混沌』が食べたい……。ああ早く、早く私に混沌を食べさせて』


「混沌が食べたいとか、訳分かんねえ事言ってんじゃねえ!」


 俺はラナから身を離すと、声の主を探すべく部屋の中をグルグルと見回す。


「クソッ、どこだ⁉︎ いったいお前は誰だ⁉︎」


 実体の見えない存在に俺は苛立つ。


 そんな俺を、ククルもラナも唖然とした顔で見ているが、


「レオ、落ち着け――。そいつは『混沌』が食べたいと言うとったのか?」


 センチアだけは冷静にそう言うと、俺の頭を両手で掴みながら、額を合わせてくる。


「お、おい、何を――」


「少し黙っとれ。お前の中に流れ込んだ声の痕跡を辿る」


 しばらくすると、センチアが額を離し、神妙な顔付きになる。


「レオ、お前に語りかけとったのは……、『暴食神エウロラ』じゃ――」


「エウロラ……?」


「ああ、正確にはエウロラの分裂体の一つじゃがな。奴め、復活が近いのか相当に空腹の様子じゃ」


「ぼ、『暴食神』が復活するのか⁉︎」


「時が満ちた様じゃ。じゃから早くしろと、お前を急かしてきよったのじゃ。もう時がない。奴が実体を得る前に倒さねば――、この世界は終わる」


 突然、告げられたクライマックス。

 そして『暴食神エウロラ』という存在。


 すべてが理解できない、まさに『混沌』の中で、俺たちは否応なく最終決戦へと追い込まれる事となった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ