表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/114

【42】『さよならエル』


 虫の息のエルを抱えて、ラナの家に戻る。

 最初ラナは、エルの姿を見て歓喜したが、矢傷によってその命が終わろうとしている事を知ると、俺と同じく絶望した。


 だがエルはまだ生きている――。

 俺たちは最期の瞬間まで、彼女を見届けてやらなければならない。


 そして、エルをラナの腕にそっと託す。


「ラナお姉ちゃん……」


 もはや腕を上げる力さえないエルが、嬉しそうにラナに手を伸ばそうとする。


「エル、ごめんね! ごめんね――!」


 その手を掴んで、ラナが号泣する。


『ダーリン、この子はもう……』


『ああ、分かっている』


 もう手のほどこしようがない――。

 わざわざ念話を使ってくれた、ククルの気遣いに感謝する。


「どうして、こんな事に……」


「ラナお姉ちゃんが出ていって、少ししてから王弟様の軍隊が街に入ってきたの――」


 悲嘆にくれるラナに、エルが最後の力を振り絞って経緯を教えてくれる。

 俺は王弟軍の動きが、ラナの出立とリンクしていた事で確信した。

 王弟は、ラナが王兄暗殺を成功させるのと同時に、証拠隠滅のために貧民街ごと消し去るつもりだったのだ。


 おそらく俺たちに付けた近衛騎士の他にも、伝令がいたのだろう。

 それが暗殺成功を知らせるのと同時に、貧民街の掃討を始めたのだとしたら、時間的に手際がよすぎる事にも説明がつく。


 それなら――。

 俺はスキル『索敵』を展開する。


 やはりそうだ!

 暗殺を『依頼』したという事実を隠蔽するなら――、必ず実行犯である俺たちも殺りにくる!


 ――ドシュッ! ドシュッ! ドシュッ!


 俺は無言で錬成したベレッタM92Fを、右手は天井に、左手は屋外に向かって連射する。


「あああーっ!」


「ぐわっ!」


 天井、屋外それぞれから絶叫が上がる。


「弓兵⁉︎」


 窓の外に倒れる男を見て、ククルが声を上げる。

 壁越しに9ミリ弾を食らった弓兵は、そのまま絶命した。

 待ち伏せしていた事からして、こいつがエルに矢を放った兵に違いない。


 続けて、


「ううっ――」


 という呻き声を上げながら、天井から男が落ちてくる。


 その両手には刃渡りの長い、コマンドナイフ状の剣が握られていた。


「テメエ……、なんで子供を殺した⁉︎」


 ラナの母親、そしてアーシャとカムリを無慈悲に刺し殺したであろう相手に、俺は怒りを抑える事ができなかった。


「フッ、何を言っている……」


 男はうつ伏せの状態で、それでも顔を上げ、俺を睨みつけてくる。


「貴様らは、いったい何人の我が軍の要人を殺してきた? 昨日は王兄軍につき、明日は手のひらを返して王弟軍につく――。そんな卑劣な生き方が、いつまでも許されると思っていたのか? これは――因果応報だ」


「…………!」


 因果応報――。その言葉に俺だけでなく、その被害者であるエルを抱くラナも絶句する。

 確かにラナは、王兄、王弟両軍から暗殺依頼を受け、まるで二重スパイの様にその要人を殺し続けてきた。


 だから話の筋道は通っている――。

 だが――、今それを認める訳にはいかない!


「ふざけるな! だからって子供を犠牲にしていいものか! 元々はお前ら王族の問題だろ! それに子供を巻き込んでおきながら、勝手な事を言うな!」


 俺は湧き上がる怒りを抑えきれない。


「お前らが手にかけた、エル、アーシャ、カムリ――。いやラナだってまだ大人じゃない! そんな子供たちに大人の事情を押し付けるな! 子供は大人のものじゃない、子供の人生は子供のものだ! それをお前たちは――」


 気が付けば、肩で息をしていた。

 それでもまだ言い足りない俺の肩を、後ろからククルがさすってくる。


 見れば――男はもう事切れていた。

 仇は討ったが、やり切れない思いに虚しささえ覚える。


「レオさん……、ありがとう。これからも……、ラナお姉ちゃんを守ってあげてね」


 打ちひしがれる俺を、まるで慰める様にエルが声をかけてくれる。


「エル……」


 心優しい妹の頬に顔を寄せ、ラナがむせび泣く。


「ああ、まかせとけ。約束する」


 そして俺はまた嘘をついた。

 それでエルを安心させてやれるなら、もう俺はどんな汚名だって背負ってやる。


 すべてを理解しているククルも、黙って目を閉じてくれていた。

 そんな俺に微笑むと、最期の時が近付いているのを悟った様に、エルが口を開く。


「お母さんね。兵隊が来た時、一生懸命私たちを守ってくれたんだよ」


「…………お母さん」


 ラナが母親の亡骸を見て、声を詰まらせる。

 幼いアーシャとカムリに覆いかぶさり絶命した姿は、そのすべてを物語っていた。


「私だけは逃げろって、兵隊を押さえて家から出してくれたの。途中で弓で射たれちゃったけど、そのおかげでお姉ちゃんにまた会えた……」


 酒びたりで、娘に暗殺仕事を背負わせるロクでもない母親だったが、それでも父親違いの子供たちを愛していた事を知り、俺も胸が痛くなる。


「ごめんね。私のために……、ごめんね」


 ラナは自分を責め続ける。


 それに、


「ううん。これまでずっと、みんなのために頑張ってくれたのはお姉ちゃんだよ。優しくしてくれてありがとうね、ラナお姉ちゃん」


 エルは満面の笑みでもって、これまで家族を一人で支え続けてきた姉に、感謝の言葉を述べる。


『センチア!』


 俺は念話で、今もそばにいるであろうセンチアに呼びかける。


 ――無理な事は分かっている。

 それでも俺は、神にすがりたかったのだ。


『すまぬ……。ワシにもどうにもできん――』


 当然の回答が返ってくる。


『そうか……。すまねえ』


 俺も覚悟を定める。


「海……」


 ポツリとエルが呟いた。


「レオさんが言っていた……、どこまでも水でいっぱいの海――。見たかったな」


 俺が妹弟たちにホラ話扱いされた海の事を、ここまでエルが夢見ていた事を知り愕然とする。


「うん、見に行こうね」


 だがラナは涙を流しながらも、笑顔で妹の思いに寄り添ってやる。


「みんな一緒だよ。お母さんも、ラナお姉ちゃんも、アーシャも、カムリも」


「うん。みんなで一緒に行こうね……。エル……」


 ラナがエルの頭をなででやる。


「ずっと……一緒だよ」


 それがエルの最期の言葉だった。


「エルーーーっ!」


 事切れた妹の体をかき抱いて、ラナが泣きじゃくる。

 俺も歯を食いしばりながら、涙が止まらない。

 ククルも何も言わずに背を向けていた。


 なぜ――、なぜこうなった⁉︎

 俺は繰り返し、心の中で叫ぶ。

 なんでこんな幼い命が、無惨に踏みにじられなければならなかったのか⁉︎

 悲しみと同時に、怒りに身を震わせる。


 ――クソッ! クソッ! クソッ!


 己の無力さに腹が立ってくる。

 そしてハッと俺は気付く。

 いや、俺にはまだやれる事がある――と。


 王弟……、いや『暴食神』!

 俺は止まらぬ涙の中で、その討伐と復讐を心に誓った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ