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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【40】『最低な男』


 ラナの俺への思慕を利用した嘘が、見抜かれていた――。


 その事に打ちひしがれそうになる俺に、


『ダーリン――』


 背中越しに、ククルから念話で声がかかる。


『けっして、心を動かされません様に――。いいですね』


 それはさらなる念押しだった。

 ククルは、ラナの言葉を黙って聞いていろと、さっきも指示を出してきた。


 その上でのこの言い様に、さすがに俺も言い返そうとするが、


『辛くなるのは、ダーリンですのよ』


 という言葉に、何も言えなくなる。


『ここに至るまで、いろんな経緯があったのでしょう。それは理解いたしますわ――。それでも……ダーリンは、彼女を『駒』と思わなくてはなりませんわ』


『――――』


 ククルの言葉に、頭が真っ白になる。


 ――こ、駒だって⁉︎


 それはあんまりだろと、さすがに俺も腹が立つ。


『お、おいククル――』


『ダーリンだって、分かっていたんでしょう⁉︎ だから彼女に、あんな嘘がつけたんでしょう⁉︎』


 俺の反論も、ククルが先手を打って封殺してくる。

 ククルの言っている事は、何も間違ってはいない。

 なぜなら、俺はラナに感情移入しすぎた――。


 そもそも背負うものを、もう何も持たないと決めた俺の信念は、ラナの前ではガタガタに崩れていた。

 俺は『暴食神』を倒せば、必ず別の異世界に転移する。

 それが分かっていながら、俺はアラフィフのオッサンが手に入れた、束の間の安らぎに溺れていたのだ。


 例えるなら、飼ってやる事ができない子猫を、拾ってしまった様なものだ。

 可愛がるだけ可愛いがって、飼えない事が分かれば、どこかに置き去りにして捨てていく――。

 結局、俺がやろうとしていた事はそれと同じだ。


 ――綺麗事で片付けるな。


 きっとククルは、そう言いたかったのだろう。


『手に入れたいと思ったものが、消える絶望――。そんな感情を彼女にも、味合わせるおつもりですか?』


『――――!』


 ククルの言葉に、息が詰まりそうになる。


 ――手に入れたいと思ったものが消える。


 それは誰でもない、ククルが味わった絶望だった。


 前世でククルは、俺を自分のものにするために、拉致まがいの行動を起こした。

 そこまでの決意をしながら、俺がすでに消えていた事を知った時――。

 ククルは絶望した。この世のすべてに。


 そして内に秘めた『大罪のカルマ』――『傲慢のカルマ』を発現させ、センチアによって抹殺対象として、異世界に召喚されたのだ。


 だからククルは、うわべの言葉だけでなく、本当に絶望を知っている。

 このままでは、ラナが同じ絶望を味わう事も――。


 今さら気付いた事だが、ククルはラナの事を名前で呼ばない。

 ずっと『彼女』と言っていた。

 それもきっと、去りゆく異世界に、一切の未練を残さないための、ククルなりの『けじめ』だったのかもしれない。


 まあそれ以外にも、単純にラナが気に食わないというのも、あるだろう。

 どちらにしても、ククルが必要以上にラナに干渉しなかった事は事実だ。

 その事も、俺は分かってやれなかった。

 なのにククルは、俺がラナに加担して王兄の討伐に乗り込む事を見越して、先回りまでしてくれていた。


 それだけじゃない――。

 ククルは間接的にだが、危機に陥ったラナを救ってくれもした。

 なのに俺は、ククルの言葉を嫉妬と受け止めようとした。

 死闘を繰り広げた末に、分かりあえたパートナーの不器用な優しさを、俺は何も理解できなかった……。


 ラナの事、ククルの事――。

 二重の意味で、俺は最低だ。


 だから、


『ありがとう、ククル』


 そう言ってから、


『ちゃんと俺の言葉で、けじめをつけるよ』


 己の不徳を清算するため、ラナをまっすぐに見つめる。


 静かにだが、大きく息を吸う。

 そして――一息に告げた。


「ラナ……、俺は確かに嘘をついた。その事は、どれだけ謝っても償いきれない。だから聞いてくれ……。俺は――お前とは、ずっと一緒にいてはやれない」


「はい」


 俺の言葉にラナは静かに頷く。

 きっともう覚悟はできていたのだろう。


「俺は『大罪のカルマ』……、その中でも『強欲のカルマ』を背負って、『強欲神センチア』の眷属となった。驚くかもしれないが、お前も『怠惰のカルマ』を背負っている。だから俺たちは引かれあい出会ったんだ――。俺の使命は、数多の異世界に散った『強欲神』の分裂体を討伐する事――」


「はい」


 また一息に語り続ける俺の言葉を、ラナは微笑みながら聞いてくれる。


『俺がこの世界に来たのも、その『暴食神』の分裂体がいるからだ。それを俺たちは、王兄だと思ったが、王兄は『暴食神』じゃなかった……」


 そこまで言って、俺は一息ついてから、勇気を持って告げる。


「あのな、ラナ――。今さらだが、王兄を倒そうと思ったのは『暴食神』を倒すためでもあったが……、ラナ――、お前のためでもあった。それは嘘じゃない。信じられないかもしれないが、一応言わせてくれ……」


「はい、信じますよ」


「えっ?」


 意外な反応にキョトンとする俺に、


「だってレオさんは嘘をつくのが下手ですから、すぐに分かります――。だから今のレオさんの言葉が本当だっていう事も、私には分かるんですよ」


 ラナは事もなげにそう言うと、満面の笑みを送ってくれる。


「ラナ……」


 思わず涙ぐみそうになる。

 だが、きっと泣きたいのはラナの方だ。

 それをラナは笑顔で、俺のために耐えてくれている。

 だから俺は――言わなくてはならない。


「ラナ――。俺は『暴食神』を倒したら、この世界からいなくなる」


「はい」


「その時が……お別れだ」


「はい」


「それでも俺は……『暴食神』を倒す」


「最後の時まで………、レオさんを応援します」


「……………。ありがとう……。ラナ……」


 溢れ出そうな涙を唇を噛んで、必死にこらえる。


 俺は本当に最低だ――。

 いくら自分を責めても、責めたりない感情に、心が押し潰されそうになる。

 その時、馬車の揺れを装って、背中越しのククルが浅く肩を触れさせてくる。


 それが、


 ――よく言えました。ダーリン。


 というククルからのメッセージだと、心に伝わってくると、俺はまた涙ぐみそうになった。


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