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◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

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【37】『冷徹な計算』


 突進するラナが大鎌を振りかぶる。

 王兄と戦闘中のククルも、横目でそれをちゃんと確認していた。


 だからククルは、ラナが斬撃の間合いを取りやすい様に、すかさず真横に飛びのく。

 ククルの並外れたところは、それだけでなく王兄が逃げられない様に、その足元に魔弾による弾幕を張っておいた所だ。


 今さらながら、その戦闘センスと周到さに恐ろしささえ覚える。

 だが、おかげで準備は完璧に整った。

 あとはラナが『限界突破』による、超絶レベルの斬撃を決めるだけ――、決めるだけなんだ……。


「あああああーっ!」


 一直線にラナが、王兄に向け突っ込んでいく。

 そのスピードも尋常じゃない。


 この勢いでいけば、『斬撃』のスキルレベルからして、強化された王兄の体も一刀両断できるだろう。

 王弟の前線司令たちを瞬殺した時も、ラナの大鎌は、護衛が張った強靭なシールドを、いとも簡単に斬り裂いた。


 理論数値では、いけるはずなんだ――。

 だが俺には不安があった。


 王弟の部下たちは、武人とはいえ『人間』だった。

 それに対して、ただの貴族だと思っていた王兄は『魔族』だ。


 しかもこれまでの動きから、相当に戦い慣れしている。

 そんな相手が――迫り来る刃に、果たして黙って斬られるだろうか?


「なんだと⁉︎」


 ククルの弾幕に気を取られた王兄も、ラナの存在に気付く。


 ――間に合うか⁉︎


 大気を斬り裂き、振り下ろされるラナの大鎌。


「――――⁉︎」


 次の瞬間、俺が見たものは、宙に斬り飛ばされた王兄の両腕だった。


 ――仕損じた!


 やはり王兄は、座して斬撃を待ち受ける事なく、素早く両腕をクロスさせて防御体勢を取ったのだ。

 それでもラナのレベル60超えの一撃は、王兄の両腕を斬り飛ばしたが、その分本体への斬撃は浅いものとなってしまった。


「ラナ、そこをどけ!」


 俺の声に反応して、ラナが素早く王兄の前から消える。

 そこに王兄の口から魔弾が放たれ、大理石の舞台が粉々に吹き飛んだ。


 やはり一筋縄ではいかなかった――。

 これで王兄は両腕を失ったが、依然肉体は強化されたままだし、今カウンターを仕掛けてきた様に、魔弾による攻撃手段も健在だ。

 このままでは、まだ戦闘が継続されてしまう――。ある意味、最悪の展開だ。


 ラナの『限界突破』による一撃も、いわゆる奇襲だった。


 ――奇襲に二度目はない。


 短期決戦でしか勝利を望めない俺たちにとって、これで万策尽きればゲームオーバーとなる。


 だから俺は、次の手を用意しておいた。

 自分でも嫌になるほどの、冷徹な計算だ。

 純粋な乙女の心を持て遊び、戦地に赴かせてなお、その失敗を半ば予見していたのだから――。


 だが、それでもラナの一撃は必要だった。

 あわよくば王兄を一刀両断してくれれば、それでも良かったが、俺の希望はその手前でも十分に良かったのだ。

 王兄の本体に――突破口となる傷さえ付けてくれれば。


 ラナの『限界突破』による斬撃は、王兄の両腕を斬り飛ばした上で、致命傷にはなっていないが、胸板にもわずかの出血が見られる刀創を作ってくれた――。

 そこに俺は照準を合わせる。


 バレットM82――。

 俺が勝負を決めるために錬成した対物ライフルだ。


 戦場に現れた黒鉄の異形に、王兄も気付くがもう遅い。

 絶対に逃がしはしない。

 防御をしようにも、その両腕はラナが斬り飛ばしてくれた。


 ――本当に上出来だよ、ラナ。


 自分でも驚くほどに、冷めた感謝だった。

 今、俺はこの敵を倒すために、これほどまでに冷徹になっている事を自覚する。

 だが、それでいい――。負ければ死ぬ。

 死んでしまえば、謝る事さえできねえじゃねえか!


 人間の身長ほどもある、化け物じみた銃を、地面に腹ばいになりながら、俺は構えている。

 もちろん俺の腹には、いまだ石像の破片が突き刺さったままだが、知ったこっちゃねえ。


 そんな俺の気迫に――、獅子の顔をした『魔物』である王兄が、恐怖の表情を見せた。

 そして俺は無情の引き金を引く。


 激しい射撃音と共に、装甲車さえ撃破できる12.7ミリ弾が連射される。

 ラナが付けた、わずかな傷口めがけて――。

 センチアは、強化されたのは皮膚だけで、その分内部はもろいと言っていた。


 それを証明する様に、


「グアアアアアーッ!」


 次の瞬間、断末魔の悲鳴を上げながら、王兄の五体が吹き飛んだ。


「き、貴様ーっ! 本当にいったい何者なんだーっ⁉︎」


 首だけで宙に舞う王兄が、逆さまの顔で俺に向かって叫ぶ。

 激しい反動と発砲煙で意識が飛びそうになるが、それでも俺は叫び返す。


「言っただろ! ただのアラフィフのオッサンだよ!」


 そこまで言って力尽きた俺は、地に伏してしまう。

 かろうじて顔を上げた視界に、すべての力を失い首だけになった、王兄の頭を踏みつけるククルの姿が映る――。


「はい、デッドエンドですわ」


 そう言うと、ククルは手にしたなんの変哲もない剣で、王兄の頭を貫いた。


 ――おいおい、またこれかよ……。


 ブレないククルの女王様ぶりに、思わず苦笑してしまう。


 ――だが、これで王兄は倒した。


 自覚した瞬間、張り詰めた糸が切れた様に、俺は完全に意識を失ってしまった。


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