【37】『冷徹な計算』
突進するラナが大鎌を振りかぶる。
王兄と戦闘中のククルも、横目でそれをちゃんと確認していた。
だからククルは、ラナが斬撃の間合いを取りやすい様に、すかさず真横に飛びのく。
ククルの並外れたところは、それだけでなく王兄が逃げられない様に、その足元に魔弾による弾幕を張っておいた所だ。
今さらながら、その戦闘センスと周到さに恐ろしささえ覚える。
だが、おかげで準備は完璧に整った。
あとはラナが『限界突破』による、超絶レベルの斬撃を決めるだけ――、決めるだけなんだ……。
「あああああーっ!」
一直線にラナが、王兄に向け突っ込んでいく。
そのスピードも尋常じゃない。
この勢いでいけば、『斬撃』のスキルレベルからして、強化された王兄の体も一刀両断できるだろう。
王弟の前線司令たちを瞬殺した時も、ラナの大鎌は、護衛が張った強靭なシールドを、いとも簡単に斬り裂いた。
理論数値では、いけるはずなんだ――。
だが俺には不安があった。
王弟の部下たちは、武人とはいえ『人間』だった。
それに対して、ただの貴族だと思っていた王兄は『魔族』だ。
しかもこれまでの動きから、相当に戦い慣れしている。
そんな相手が――迫り来る刃に、果たして黙って斬られるだろうか?
「なんだと⁉︎」
ククルの弾幕に気を取られた王兄も、ラナの存在に気付く。
――間に合うか⁉︎
大気を斬り裂き、振り下ろされるラナの大鎌。
「――――⁉︎」
次の瞬間、俺が見たものは、宙に斬り飛ばされた王兄の両腕だった。
――仕損じた!
やはり王兄は、座して斬撃を待ち受ける事なく、素早く両腕をクロスさせて防御体勢を取ったのだ。
それでもラナのレベル60超えの一撃は、王兄の両腕を斬り飛ばしたが、その分本体への斬撃は浅いものとなってしまった。
「ラナ、そこをどけ!」
俺の声に反応して、ラナが素早く王兄の前から消える。
そこに王兄の口から魔弾が放たれ、大理石の舞台が粉々に吹き飛んだ。
やはり一筋縄ではいかなかった――。
これで王兄は両腕を失ったが、依然肉体は強化されたままだし、今カウンターを仕掛けてきた様に、魔弾による攻撃手段も健在だ。
このままでは、まだ戦闘が継続されてしまう――。ある意味、最悪の展開だ。
ラナの『限界突破』による一撃も、いわゆる奇襲だった。
――奇襲に二度目はない。
短期決戦でしか勝利を望めない俺たちにとって、これで万策尽きればゲームオーバーとなる。
だから俺は、次の手を用意しておいた。
自分でも嫌になるほどの、冷徹な計算だ。
純粋な乙女の心を持て遊び、戦地に赴かせてなお、その失敗を半ば予見していたのだから――。
だが、それでもラナの一撃は必要だった。
あわよくば王兄を一刀両断してくれれば、それでも良かったが、俺の希望はその手前でも十分に良かったのだ。
王兄の本体に――突破口となる傷さえ付けてくれれば。
ラナの『限界突破』による斬撃は、王兄の両腕を斬り飛ばした上で、致命傷にはなっていないが、胸板にもわずかの出血が見られる刀創を作ってくれた――。
そこに俺は照準を合わせる。
バレットM82――。
俺が勝負を決めるために錬成した対物ライフルだ。
戦場に現れた黒鉄の異形に、王兄も気付くがもう遅い。
絶対に逃がしはしない。
防御をしようにも、その両腕はラナが斬り飛ばしてくれた。
――本当に上出来だよ、ラナ。
自分でも驚くほどに、冷めた感謝だった。
今、俺はこの敵を倒すために、これほどまでに冷徹になっている事を自覚する。
だが、それでいい――。負ければ死ぬ。
死んでしまえば、謝る事さえできねえじゃねえか!
人間の身長ほどもある、化け物じみた銃を、地面に腹ばいになりながら、俺は構えている。
もちろん俺の腹には、いまだ石像の破片が突き刺さったままだが、知ったこっちゃねえ。
そんな俺の気迫に――、獅子の顔をした『魔物』である王兄が、恐怖の表情を見せた。
そして俺は無情の引き金を引く。
激しい射撃音と共に、装甲車さえ撃破できる12.7ミリ弾が連射される。
ラナが付けた、わずかな傷口めがけて――。
センチアは、強化されたのは皮膚だけで、その分内部はもろいと言っていた。
それを証明する様に、
「グアアアアアーッ!」
次の瞬間、断末魔の悲鳴を上げながら、王兄の五体が吹き飛んだ。
「き、貴様ーっ! 本当にいったい何者なんだーっ⁉︎」
首だけで宙に舞う王兄が、逆さまの顔で俺に向かって叫ぶ。
激しい反動と発砲煙で意識が飛びそうになるが、それでも俺は叫び返す。
「言っただろ! ただのアラフィフのオッサンだよ!」
そこまで言って力尽きた俺は、地に伏してしまう。
かろうじて顔を上げた視界に、すべての力を失い首だけになった、王兄の頭を踏みつけるククルの姿が映る――。
「はい、デッドエンドですわ」
そう言うと、ククルは手にしたなんの変哲もない剣で、王兄の頭を貫いた。
――おいおい、またこれかよ……。
ブレないククルの女王様ぶりに、思わず苦笑してしまう。
――だが、これで王兄は倒した。
自覚した瞬間、張り詰めた糸が切れた様に、俺は完全に意識を失ってしまった。




