表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◯◯しないと出られない異世界  作者: ワナリ
第一章『怠惰:異世界攻略⁉︎』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/114

【36】『少女の願いを踏みにじれ』


「レオさん……」


 俺の申し出に、ラナが呆然としている。


 ――俺と一緒に遠くに逃げよう。


 それはラナの願望を、百パーセント叶えてやるものだった。


 ただし、


 ――この戦いが終わったら。


 という枕詞は、我ながらどうかしていた。


 無意識の発言だったが、わざわざ自分でフラグを発動させてしまった様なものだ。

 まあこれは地球、しかも日本だけの局地的フラグだから、異世界人のラナにはピンとこないだろう。


 だが、俺の言っている事は『嘘』なのだ。

 ラナの事が大事なのは本当だが、この戦いが終われば――、王兄討伐が終われば、俺は別の異世界に転移する。


 それに、わざわざ自分でフラグ立てしてしまった厨二センスは、さすが俺と言わざるを得ない……。


 ラナからは、まだ何も言ってこない。

 表情からして、嬉しく思っているのは間違いなさそうだが、今ここでゆっくり喜びを噛みしめられるのも、ちと都合が悪い。

 なぜなら俺の真の目的は――、今もククルと激しい戦闘を継続している、王兄を倒す事だからだ。


 そのためには、ラナの固有スキル『限界突破』による斬撃が必要なのだ。

 だが『限界突破』には、相当の集中力が必要になる。

 乱れた『気』では、なんの成果も得られないのだ。


 だから、ラナの心を穏やかにして、静かに『気』を練らせる必要があった。

 俺の『嘘』は、そのためのものなのだ。


 ラナの夢は、俺と結ばれ、静かに暮らす事だ。

 そこに現れたククルの存在に、ラナは抑えていた感情を爆発させ、激しい嫉妬の炎を燃やした。

 だからまずは、その不安をすべて否定してやらなければならない。


 ――一番大切なのはお前だ。


 ――一緒に遠くに逃げよう。


 今日び、三流のジゴロでも言わねえ様なセリフを、俺がいけしゃあしゃあと言わなければならなかったのも、そのせいだ。


 本当に、俺は最悪だ。――最低の嘘つきだ。

 だが、もう後には引けない。


 ――ラナ、だから『限界突破』を使って、あいつを倒してくれ。


 俺はこれから、そう言わなけりゃならない。

 だって、それが俺の真の目的なのだから……。


 あー、クソ、マジで最悪だ。

 俺は女の心を利用して、踏みにじって、そんでテメエの望みを叶えようとしてんだからな――。


 だが時間稼ぎをしてくれているククルのためにも、急がなければならない。

 これもラナにとっては、恋敵を救う様なモンだから、まったく俺は最低だ。


 それでも俺は言わなければならない。


 ――世界を救うために。


 それを立て前として、一人の女の子の純粋な気持ちを踏みにじるんだ!


 俺が覚悟を定め、口を開こうとした瞬間、


「分かりました、レオさん」


 そう言ってきたのは、ラナの方だった。


「ラナ……?」


「王兄を倒しましょう。なんとか私、頑張ってみます」


 その顔はやはり喜色を帯びてはいたが、どこか達観した様な表情に、俺は不安を覚える。


「傷は大丈夫ですか?」


 冷静になったのか、ラナは状況を的確に処理していく。


「ああ、なんとかな」


 いまだ激痛が続く致命傷レベルの傷だが、ラナの『再生』のスキルのおかげで、幾分出血量は減っていた。

 これならククルからのHP供給で、なんとかもちそうだった。


「また後でスキルをかけますから――、少しの間だけ我慢していてください」


 ラナはそう言うと、俺に背を向ける。

 そして開かれた右手に――、恐ろしいほどのサイズの大鎌が錬成される。


「私は怠け者……、怠け者……、怠け者……」


 ラナが己を鼓舞するための、呪文の様な詠唱が始まった。


「だから頑張らなくちゃ……、頑張らなくちゃ……、頑張らなくちゃ……」


 スキル『洞察』でラナのステータスを確認すると、今後こそ各スキルレベルが文字通り、爆上がりしていた。

 その中でも、俺は『斬撃』のレベルに注目する。


 王兄のスキルレベルは軒並み40を超えていた。

 今は身体強化をかけているので、もう少し上積みされていると見るべきだ。


 だから、せめて『斬撃』のスキルレベルが50は欲しい。

 そうでなければ、あの王兄の強靭な皮膚を斬り裂ける可能性は低い。


 ラナの『限界突破』は一撃必殺――。初撃が通らなければ、次も同じ事になる。


 ――44、45、46。


 よし、あともう少しだ。


「私ならできる……、私ならできる……、私ならできる……」


 ラナも詠唱の仕上げに入っていく。


 ――48、49、50。


 50を超えた! これなら!


 前のめりになる俺の耳に、


「レオさんのため……、レオさんのため……、レオさんのため……」


 という、新たな文言が聞こえてくる。


「――――⁉︎」


 ――53、54、55。


 上がり続けるスキルレベルに、俺は唖然とする。


「レオさんのために――、私は戦う!」


 ラナがそう言い終えた時、

 

 スキル:『斬撃:LV61』

 

 ついにラナの『斬撃』はレベル60を超えた。


「ああああああああああーっ!」


 まるで準備が整ったと言わんばかりに、ラナが咆哮を上げる。

 その姿はまさに、王弟の前線指令たちを瞬殺した時と同じ、鬼神を思わせるものだった。


 そして、ラナが地を蹴って踏み出す。


 ――頼む、ラナ!


 その背中に向かって俺は祈る。

 同時にまた意識が遠のきそうになる――。

 だがそんな自分を、唇を噛み破る事で覚醒させる。


 ――こんなところで……、ラナの気持ちを弄んでおきながら、俺はオチオチ死んでなんかいられねえんだよ!


 こうするしかなかった怒りを、自分にぶつける事で、最後の力に変換する。

 なぜなら俺にもまだ――やるべき事があるからだ。


 ――ごめんな、ラナ。俺はどこまでも冷徹だな……。


 そう思いながら、血にまみれた両手を広げると、俺は新たな武器の錬成を開始した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ