【34】『駄々っ子』
「レオさんは……、異世界の人なんですか?」
「――――⁉︎」
倒れた俺に覆い被さる形で、ラナが真上から俺を見つめている――。
その口から飛び出した、突然の質問に俺は絶句した。
――なぜ……、なぜ、それがラナに漏れた⁉︎
そんな俺の動揺が伝わったのか、
「近衛騎士さんからの手紙、読みました」
ラナが冷静な声で、答えを与えてくれる。
「――――⁉︎」
いや待て、俺は暗殺が成功した『逃走後』に、手紙を渡してくれと頼んだはずだ⁉︎
慌てて、依頼先である近衛騎士の姿を探す。
考えてみれば、ずっとその姿が見えない事に嫌な予感がする。
まさか⁉︎ と思い当たった瞬間、舞台上に横たわる犠牲者の中にその姿を見つける。
「…………」
勘違いか手違いだったのか、それとも面倒くさくなったのか――。
こうなっては、もはや真相は闇の中だ。
それにもうお亡くなりになった方を、責める気も起こらない……。
だがラナは、俺が書いた『別れの手紙』を読んでしまった。
その事実は、もはや揺るぎようがない。
手紙の内容は、黙って去っていく事への謝罪と共に、その理由として、俺が異世界から来た人間――、加えて『神の眷属』である事が綴られている。
だからもうラナは、俺が『異世界人』である事を知っている。
いや、それどころか、少なくとも俺が狙撃に挑んだ時には、もうラナは事実を把握していたのだ。
「私、レオさんがそれでいいなら、納得しようとしました――」
何も言えない俺に、ラナが再び口を開く。
「レオさんが悪い神様を倒すのは、私のためでもある――。それなら仕方がないんだ。諦めなきゃいけないんだって思いました……。でも、でも……」
ラナの声が切迫感を増している。
「でもやっぱり私、納得できません! 諦められません!」
「ラナ……」
「レオさんが悪い神様を倒さなきゃ、この世界が滅びてしまうのは分かってます! でも、だからって、こんなお別れの仕方はひどいです!」
無理に抑えていた感情が解き放たれ、ラナは冷静さを失っている――。
事を丸く収めようとした手紙は、完全に裏目に出てしまった様だ。
ラナの怒りも理解できる。怒って当然の事を俺はしてしまったのだ。
だから、どんな非難も受け入れようと思うが――、今は戦闘中だ。
視界の端には、今もククルが、火炎、電撃、魔弾と、魔法系スキルのオンパレードで、なんとか王兄を食い止めてくれている。
『あーら、ダーリン。拗らせちゃいましたねー』
そのククルが念話で語りかけてくる。
『すまねえ、俺もすぐにそっちに行く!』
苦戦の様子に救援を申し出るが、
『今、ダーリンがやるべき事は、彼女を落ち着かせる事でしょうに。ほんと分かってませんわね』
逆にククルは、俺に来るなと言ってくる。
『でも、このままじゃ、お前も――』
『じゃあ、ダーリンが来て、状況が改善するとでも言うんですか? さっきのダーリンの攻撃が、まったく通らなかったのをもうお忘れですか?』
『それは……』
ククルの的確な指摘に何も言い返せない。
『王兄を倒すには、彼女の『限界突破』が必要――。なら、どうすれば彼女がスキルを発動できるか、早くそれを考えてくださいな』
そう言いながら、ククルはスキルで迎撃しながら、さらに鞭で攻撃を加えていく――。
だが、それも強靭な皮膚に阻まれて、まったく通っていない。
ククルがやっている事は、ただの時間稼ぎに過ぎない。
いや、その時間稼ぎをククルは買って出てくれているのだ。
『分かった、ククル』
ククルの思いを無駄にする事はできない。
『ご武運を――。フフフッ』
ククルはそう答えながらも、迎撃と攻撃の手を緩めてはいない。
このままククル一人では、いつまでももたないのは明らかだ――。
それなら、ラナの説得を急がなければならない。
だが――、
「ねえ、レオさん。一緒に逃げましょう」
「――――⁉︎」
あまりに意外なラナの申し出に、俺は愕然とする。
「もう世界が終わるなら、このまま遠くまで逃げて、二人でその日が来るまで静かに暮らしましょう」
「ラナ……」
「ねっ、いいでしょう? ねっ?」
いつものラナとは違う、まるで駄々っ子の様な言い分だった。
ラナはこれまで姉として、また一家を支えなくてはいけない大黒柱として、自分を殺して生き続けてきた――。
どうやらその抑圧された感情が、この極限状態で一気に決壊してしまった様だ。
ヤンデレならククルですでに免疫があるが、このまた違ったベクトルの拗らせぶりに、俺はどうしていいか困惑してしまう。
黙り込む俺に、
「それともレオさんは、やっぱりククルさんの方が大事なの⁉︎」
と、ラナは激しい嫉妬を隠す事もなく、戦闘中のククルを指差す。
その指先を追うと――、ちょこまかと巧みに逃げては、カウンター攻撃を繰り返すククルに業を煮やした王兄が、近くの石像を掴んで投げつけていた。
だが、そんな大味な攻撃がククルに当たるはずもなかったが――、地面に激突して粉砕されたその破片がこちらに飛んでくるのに、俺は仰天する。
「ラナ!」
次の瞬間、上に被さるラナを払いのける。
そして、俺は無意識にその前に立ちはだかっていた。
激しい衝撃の後に感じる、焼けつく様な痛み――。
それは俺の腹部が、鋭い破片によって、深々と刺し貫かれていた事によるものだった。




